表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MOSAIC  作者: 蒼弐彩
WastelandHunters
20/63

Nostargia memories

 水槽の外へ出て、建物を脱出するまでの長い道のりで、ふと脳裏に浮かんだのは嘗ての光景。



「ねェ、…うちの事…忘れんで居てくれる……?氷雨紫愛(しあ)という……一人の、人間を……」


 まだ8歳かそこらの少女が6歳ほどの少年を見上げて言う。


 白濁しかけた深蒼の瞳が、同じ色の少年の瞳を見やり、それから視線を降ろして胸元に突き付けられた、震えてる白刃を見つめ、ほほ笑む。


 二人がいるのは、夜明け前の海岸。

砂浜は強酸で腐り黒く変じている、その中に彼女は横たわっていた。

四肢は千切れ、胴にも穴が開きそこから硫酸かなにかで半分ほど炭化した臓器が零れている。


 すでに傷は氷で覆われ止血されていたが、そんなものが応急処置にすらならないのは、双方理解していた。

傍らに立つ少年の瞳から零れた透明な液体が生命を体中から吐き出す少女の頬に落ちる。

突きつけていた日本刀の先が上下左右にどうしようもなく揺れる。


「………忘れられるわけ、ないやろッ……‼」


 絞り上げるような少年の声に少女はふふ、と声を上げる。


「なら……泣くの、止めなや……紫苑、アンタは……強い。心は、兎も角

……力は。氷雨(うちら)の……希望やよ……だから……死なんでな、ずっと…生きのびて…この…馬鹿げた話を終わりにして……うちが、言いたいのは、ここまで………だから……はよ、殺して……これ以上…保たない…から……」

「………ッ……‼」

「人のまま……死なせて。……私が、弟に……アンタの兄に、したように……」


 唇に色が無くなるほど強く噛みしめて少年は、手に持った得物を振り下ろす。

あの合成獣キマイラ───貌多き者共(ナイラトホテプ)に浸食されたら、もう元には戻れない。意思もなくただ周囲の生命を食い尽くすだけの傀儡くぐつに成り果てる。


───だからせめてひとのままで。その場にいる一番近しいものが止めを。


 そういうルールだった。

刀身から手に伝わる、心臓と大動脈を切り裂く感触。

胃の中の物が喉奥からせり上がるのを堪えつつ柄を握る手に、能力(ちから)を込める。


 水は氷になる時その体積を増す。そして人体の60%は水分だ。

だから、奴に浸食された神経細胞を破壊し尽くすにはそれで十分だった。


───ありがとう、紫暮(しぐれ)紫雪(しゆき)を、どうか……


 どれぐらい時間がたっただろうか。

そんな声が聞こえた気がして目を開ければ、

傍らの少女は氷の棺の中で柔らかく微笑んで眠っていた。

水平線から、望んでもいないのに一筋の光が差す。


 紅々(あかあか)とした朝焼けと、夜の蒼が入り混じるその様はいっそ憎いほど美しく。

 

 すぐに消えてしまうという所まで皮肉以外の何にも感じられなかった。



 思い出した過去の感傷を捨てるように彼は緩めていた速度を上げた。


合成獣について

今回はクトゥルフでまとめてみました(氷狼以外)

ルビもそれっぽいものになってれば、と思います


異能について

発動条件云々↓

・得物や自分と直接接触したものは事前に選択しておいた異能式を自動的に発動

できる。

・触れていない場合は自身を中心とした座標を使い効果範囲と威力を選択した変数に代入するという形で異能式を作り発動する。


という感じ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ