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MOSAIC  作者: 蒼弐彩
WastelandHunters
2/63

The Prough


 灰色の鉄骨が曇天に延び、罅割れた道路を雨水が穿つ。


 その中を往くのは(とり)と蛙を足し合わせ、大型車両ほどに巨大化させた様な異形共の姿。

 その名をWW3(第三次世界大戦)の折に作られた最凶といわれている生物兵器で合成獣(キマイラ)とも言う。


「数が多いね……」


  呟く声はそこから3キロ程も離れた廃ビルの屋上から。

アサルトライフルを抱えた十代もまだ前半――大体十二才かそこらの少女が呆れた様に呟いた。


 パチリと少女の手から紫電が弾け散る。

あの異形に対抗するために人類が得た力、異能力と呼ばれるものだ。

それが緊張によって一瞬制御を失い暴走した。‥‥‥良くない兆候である。

 僅かながら汗ばんだ小さな手で彼女は、身を包む“協会”の制服の胸元にある北斗七星の記章を握りしめた。


『まあ、いつも通りで大丈夫だよ、これ終わったら“家”に帰って祝杯でもあげようぜ』


 それを知ってか知らずか、片耳に引っ掛けたインカムが同じ班の班長の少年の声を伝える。

 あとはあの異形共がこのビルの傍を通るのを待ち、ハチの巣にすればいい。

それだけだ。


 そう思い、気を落ち着けるために目を閉じたその時、階下でパンと乾いた銃声が鳴り響いた。

 程なくして、その音が届いたのか異形共の目線がこちらへ向く。もとが生物兵器なだけあって合成獣は五感と運動性能に優れている。こちらが立てた銃声にも気が付いたのだろう。


「……ッ!!マズい気付かれたッ!!」


 今までのろのろと歩いていた異形が突然に走り出す。


『仕方ねェ、殲滅領域(キルゾーン)をD-85-37へ変更。構えッ(テイク・エイム)撃てッ(ファイア)!!』


 少年のやけっぱちな怒声が無線を走る。

同時、幾条もの火線が廃ビルから、キルゾーンへ伸びた。

勿論少女も、床に伏せて引金を引き続ける。ちなみに生物兵器に対して生身のまま武器を用いて戦うのは、機動性がある程度限られた戦車などを使うより、彼等にとっては生身で戦ったほうがより身軽で安全だからである。

 発射された弾の速度は、狙撃銃の規格外とも言える速さ。

異能者(モザイク)たる彼等の持つ異能は、電子操作系と言われる電気を操る力が殆どだ。それによって電磁的に弾を加速させているという訳である。

 

 フレミングの法則の恩恵を受け、本来の何倍もの速度に加速した5.56mmNATO弾は、その弾速の二乗に比例した破壊を周囲に撒き散らした。

 蛙禽(コカトリス)の体に穴が開き、(あか)の華が廃墟群と曇天の無機質な灰白色を彩っていく。

 

 けれど、仲間の多くを失いつつも異形…合成獣の群れはキルゾーンを全力で駆け抜けていく。

 仮にもWW3時には現代戦車と通用する戦力となされた合成獣だ。

優に時速は200km/hを超える。


──これはキツいかもな。


 そう思った時、それまで無言を貫いていた観測手(スポッター)の少女が“………あ……。”と小さく声を漏らした。


「どうしたの……?」


 引き金を引く手はそのままに少女は問う。

流れるような手つきで次弾の入ったマガジンを装填して先を促した。


「……ひと、……異能者が……蛙禽と接近戦してて………」


 さしもの少女も流石に驚いて息を呑んだ。手元が狂って撃った弾が近くの街路樹に当たり、一抱えほどもあるその幹を吹き飛ばす。


「───は……?……うそでしょう?」


 もしそれが本当だとすれば、そんな事を好んでしようとする馬鹿者は自殺祈願者か完全に正気を失った者だけだろう。

一度撃つのを止め、少女は対戦車ライフルのスコープの倍率を落とし周囲を確認した。


 そして気付いた。

銃では決してあり得ない、巨体を中心から真二つに割られ事切れた蛙禽の残骸を。


 そして、異形の合間を駆ける黒い残像を。

それを認めて少女はさらに目を凝らす。

異能によって動体視力を増幅された視界の中でかろうじて捉えたのは曲芸舞踏(アクロバット)でもするかのように異形共の間を飛び回り切り結ぶ黒い人影。


 先も言ったが、合成獣の走行速度は優に時速200kmを超える。

斬りかかるのだって走行中のリニアモーターカーに直接触れるのと同じぐらいの暴挙で危険な行為である。

 それをまるで何でもないかのように人影――彼は、前転し、背後からの敵の攻撃を避けて跳躍。華麗な月面宙返り(ムーンサルト)を決めて、背後を奪い首を落とす。

その攻撃の遠心力さえ利用して、彼は背後に迫ってきたもう一体の合成獣の目を、脳味噌ごと自分の得物で貫いた。


 まるで曲芸舞踏(アクロバット)のような自由奔放で、かつ急所を一ミリも外さずに貫き斬る、正確無比な動き。

 それによって、キルゾーンを抜けた合成獣も次々と解体させられ土に還っていく。

滑らかな切断面は凍り付いて、霜が降りたようになっていた。


──“分子運動減速系”、通称“減速系”と呼ばれる異能の一つで、周囲の熱を奪い物を凍らせたり、空気等の気圧を下げたり出来る異能である。


「誰か知らないけど、助かったな」


 残るは数匹、未だ他の人員が仕留め切れていないのだ。

けれど、今の自分には彼らの動きがとても遅く見えた。


 軽く息を溜めて数回撃発(トリガ)

ゆるゆると発射された5.56NATO弾が合成獣の急所、心臓部と頭部、脊柱部を一発ずつ撃ち抜き、人影から距離を取るようにしていた異形達の息の根を止める。


───これで殲滅完了。


 彼女はふう、と息をついて銃爪から指を降ろす。


 刹那、日本刀を腰に佩き手荷物のスーツケースを持った黒い髪の人影がこちらに向かって来るのが、異能を解除し再び早送りされていく世界の中で垣間見えた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] いやぁ〜厨二!!!!めっちゃかっこいいありがとうございます!こういうの大好きです!やっぱり機械と超能力が入り混じった世界観好きです!、表現も詩的でラノベしてて良かったです!、 [気になる点…
[一言] 若干、SFということで内容が難しい雰囲気ですが、少しずつ読ませて頂きます。戦闘場面はすんなり状況を伝えるのが難しいのだなって思いました。  武器や攻撃方法はイメージしやすいように説明しなくて…
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