fragile light ⅹ
「リーナ、大丈夫?」
赤毛の少女の顔色はかなり悪い。
合流したリオンやレイも彼女を見て驚いた様子でこちらに走ってくる。
「エリナ!中で一体何が!?」
ただならぬ少女の様にレイが声を震わせ、問う。
「殺神隷種の上位種なのかな、透明な強酸性合成獣に背中触られて……それで。足止めしてくれた紫苑君がたぶん未だ中に残ってる。20分で片すとか言ってたけど大丈夫かな……」
もう一度援護のために戻るべきかと、迷う少女に“アイツなら大丈夫”とリオンが断言する。
「大丈夫って……そんな不確かな……」
「太刀打ちできねェなら、お前らと一緒に逃げてるから。……というか、アンジェ、お前本当に大丈夫か?……エリナ、横にさせてやれ。あと、生理用食塩水と鎮痛剤も打っておけ。………多分、ショック症状出てるぞ」
無線でヘリを呼びつつリオンは嘆息した。
エリナまでいなくなれば困るので断言したが確証はない。
彼が知るのは昔の紫苑で、後は大侵攻の後どんな怪我をしたかは知らないが相当なハンデを負ってまでここにいるということだけ。
少なくとも相手は一発で一等星をダウンさせるようなバケモノ中のバケモノだ。
だから、今のはたぶん自分に言い聞かせるつもりもあったのだろう。
それよりも今は目の前の彼女の方が大事だから。
“見えている死の可能性”と“見えていない物事への最悪の憶測”ではまた違うのだ。
幼年学校を卒業してからの5年間でそれなりに人死にには慣れてきたが、一等星の一員となってからは部下の死を見る事はあっても同僚に死なれる事はまず無いし、いくら慣れてるとはいえ死なれたくないのは当然のこと。
虚ろな目をした面々の中でふと、横になったままの赤毛の少女が蒼白の顔色で沈黙を破った。
多分彼女もその可能性をもう判っている。
その眼の片方が恐ろしく澄んでいるのは、だからそういうことなのだろう。
「ね、………………レイ、ちょっと………いい?」
掠れた声に、道に迷う子供のような顔をした白金色の髪の少年がビクリと肩を震わせる。
幼年学校を首席で卒業した後、“協会”において年一で行われる異能者同士の模擬戦で勝ち抜いて、今の地位に着いた彼は一等星になって間もなく、実戦経験自体はそう多くはない………まして、仲間の死に触れることなどは。
屈み込んだ少年に彼女はそっと耳打ちする。
「もし………オレが……変な、行動したら……暴走したら………他の誰でも、ない……お前が、殺して。……オレを、その手で……」
いつも通りに嫋やかにそう微笑む彼女にレイは硬直し、動かない、動けない。
それを見てさらに少女は続けた。
「……先輩、命令よ。……最期の、授業。……こんなの、すぐ慣れっこになる……からさ、大丈夫。それに……もしかしたら……の話……最悪の想定よ」
それだけ言って、少女は目を閉じ、再び意識を失った。
結局、想定は覆らなかった。
そして数分後、あたりには耳を塞ぎたくなるような、悲痛な絶叫と巨大質量の消滅するような灼熱の閃光が巻き上がった。