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MOSAIC  作者: 蒼弐彩
WastelandHunters
10/63

frgile light

 黎明(よあけ)の、夜色が濃藍に、群青そして深蒼へと変わっていく空を、段々と白くなっていく東の山際から一足先に陽光を浴びて紫がかった雲がたなびいて、彩る。

朝早くに起きた者だけに許される天然の絶景。

或いはこれを“早起きは三文の徳”とでもいうのか。

 永らく人が手をかけることなく放置されている荒廃都市(この場所)では、崩れた鉄筋コンクリートと大きく育った元・街路樹の生み出す灰白と深緑の奇妙な森が広がり、涼やかで新鮮な空気が廃ビルの屋上までを満たしている。


───まるで、アルザスの森みたいね。


 今はもうない自分の生まれ育った故郷を思い出しながら金髪紫眼の幼女───ロゼリエはふとそんなことを思った。


 彼女がいるのは、未踏破探査区(フロンティア)と言われる所の程近くの30階建ての廃ビル。

腹ごしらえと少しの休息をしていたのだ。

週に数回程の哨戒をしているここまでの地域は、特に危険な大型の合成獣(キマイラ)が生息しない、警戒区域(アラートスフィア)と言われる比較的安全な場所である。

ただしここから先は、これから始めて足を踏み入れる場所であり、そこに人の通った道はない。

……最後に人が通ったのは、WW3が終わった直後だともいうから

嘗ては、あったのかもしれないが。


「さ、て、腹ごしらえも済んだことだし本題に入ろっか。こっから例のチェックポイントまでの行き方だけれど、どんなのが何処に潜んでるかもわかんないから、コレを使いまーす。」


 適当な調子でアンジェリナが言う。

途端彼女の右の視界に立体マップが浮かび上がった。

シェア・サイトによる網膜投影画像である。そこに赤い線が二本描かれていた。


「地下道…?」

「その通り、昔の奴だけど、こういうのってかなり頑丈目に作られてるから、冠水してない限り使えると思うんだ。大型の合成獣(キマイラ)と戦うのはまだ往路だって事を考えると弾薬も異能も消費するから嫌だろ?少なくともオレは嫌だよ。標高とかも考えると、右の方の地下道は水とか溜まってないと思うんだけど、どう…?」


 参考にした地図の年代は20年程前のもの。

この画像は、これをベースに、ドローンやら、その場に置いてきた定点カメラやらの映像を基に修正したものである。


「…いいんじゃないかな、地図の情報が正しければ。まぁ20年程度じゃ植生とか、地形とかもよっぽどのことがない限り変わんないだろうし。今回は偵察だからな、なるべく大型合成獣(キマイラ)を避けるのは鉄則だし。」


 リオンを始めとしてオレっ娘の意見に賛成な様で早速、跡片付けを皆始める。

その中で一人、ふと紫苑は背中にうすら寒いものを感じて、ビルの屋上その入り口を振り返った。

 

 ………今一瞬、何か黒い物体が闇の中に蠢いてはいなかったか?


 その場所まで走って、それで何も無かったかのように戻って来た彼を見て、リオンが怪訝そうに眉を顰めた。


「どうしたんだ…?」


 対し紫苑はどこか釈然としない様子で首を振る


「何でもない。気のせいだ」


───まさか、アレがこんな所に居る筈が無い。ただ疲れていたんだろう。


 ただの見間違いだ。

警戒区域(アラートスフィア)を出るころまでには、彼はそのことをすっかり忘れていた。


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