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クズはクズらしく  作者: 夕町 迅夜
第一章
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危惧と安堵

 

 如月が調理を始めてから約二十分後、もうそろそろ出来上がるということでリビングテーブルからダイニングテーブルの方に移動していた俺の元に出来上がった料理が運ばれてきた。


「はい、お待たせー!」


 運ばれてきたのはタラコパスタとカルボナーラだ。


「どっちがいい?」


「俺は残った方でいい。キミは?」


 正直、どちらも苦手ということもないし、好きというわけでもなかったので如月に選ばせようとする。


「じゃあ、タラコの方もらうね」


 そう言って、自分のタラコパスタが盛られている皿を取り、俺の前にカルボナーラが盛られている皿を置いてくれる


「ついでにサラダもどうぞ」


 続いて彼女は半径五センチ程の器に入ったサラダも持ってきた。

 レタスやベビーリーフなどが入っていて、ごまのドレッシングがかかっている。


「わざわざ作ったのか?」


「栄養が偏っちゃうから野菜も必要かと思って」


 確か、冷蔵庫を見た時に野菜の使いさしがいくつか入っていた気がする。

 それを使ったのか。


「あっ、もしかして勝手に作ったらダメだった……?ごめんね。一言聞いてからやるべきだったよね」


「いや、べつにいい。ただの残り物だしな」


 どうせ、今日の夜にでも同じようにサラダにでもして使うつもりだったものだ。

 いつ使っても大差はないし、気を使ってわざわざしてくれたことに対して怒る気には全くならなかった。

 向かいの椅子に如月は腰掛け、俺・如月の順に「いただきます」を言う。

 俺は湯気が上がっているパスタをホークにクルクルと巻き、口に運んだ。


「どう?美味しい?」


 パスタの出来が気になったのか、如月は食べようとせず、俺の食べる様子を見ていた。


「いつも通りの味だな」


 茹でたパスタに市販のパスタソースをかけただけで手間なんてほとんどかかっていないんだから味なんて誰が作ってもほとんど同じに決まっている。

 サラダも口に運ぶが、こちらも切った野菜に市販のドレッシングをかけているだけなのでいつも食べているごまドレッシングの味がする。

 どちらともいつもの食べ慣れた味だ。

 正直に味の感想を述べると、如月はジト目になって不満そうな顔をした。


「そこは普通、お世辞でもいいから美味しいって言うところじゃない?」


「嘘なんてついても意味ないだろ」


 パスタを口に運びながら言う。


「あー、でも、確かにそうかもね。嘘つかれるよりも思ったことを素直に言ってくれた方が心を許してくれてる感じがしてなんか嬉しい」


「心は許してないけどな……」


 なんて前向きな考え方なんだ……。

 そんな深い意味で言ったつもりはなかったが、勝手にそう解釈されて感心するというよりもむしろ少し呆れてしまった。


「いい加減食べたら?」


 先程からまったくパスタに口をつける様子が見られなかったのでこちらから促す。


「そうだね。じゃあ、改めていただきます」


 如月はもう一度手を合わせてからようやく一口目を口に運んだ。


「うん!おいしい!」


「よかったな」


 本当に美味しそうな顔をして喜ぶ彼女を見て、無邪気な奴だなと改めて思った。





「「ご馳走様でした」」


 数分後、適当にどうでもいいような話をしつつ、俺と如月は昼食を食べ終えた。


「わたしが洗うよ」


「じゃあ、よろしく」


 如月と出会ってからのこの一週間ほどで彼女が一度言ったことは曲げないタイプの人間だということはよく分かったので、素直に頼むことした。

 使った食器を台所に持っていき、洗うために水を流したその時、玄関の方でガチャンと閉めていた扉の鍵が開く音がした。

 如月は水の音で気がついていないのか、そのまま食器を洗おうとしている。

 誰が家に入ってきたのかは候補が一人しかいないので明らかだったが、俺は一応玄関へと向かう。


「おかえり。忘れ物?」


「ただいま〜って、あれ?なんでケンちゃんいるの?学校は?」


 予想通り、玄関にいたのは母さんだった。

 こちらに背中を向けて座り込み、靴を脱いでいる。


「早退した」


「サボり〜?ダメよー、学校は行かないと」


「分かってるって。母さんこそこんな時間に帰ってきてどうしたの?仕事は?」


「ちょっと体調が悪くてね。念の為、今日は早退しろって言われちゃったのよ」


 母さんは参ったといったふうに額に手を当てる。

 確かに少しだけ息が荒い気がするし、よく見ると、顔がほんのり赤くなっていた。


「健一くん、どうしたの?」


 俺がいきなり部屋から消えたからか、気になった如月が玄関に様子を見に来た。

 ドアの間からひょこりと顔を出している。

 母さんと如月の目が合い、お互いに数秒間のフリーズ。

 無言の妙な空気が流れた。

 その静寂を破ったのは母さんだ。


「え!?女の子!?もしかして、ケンちゃんの彼女!?」


「いや、ただのクラスメイトだから」


 いきなり、的はずれなことを言って叫び出すうちの母。

 事実として如月は彼女ではないので、もちろん否定し、友達というわけでもないのでとりあえずクラスメイトにしておいた。


「あっ!もしかして、健一くんのお母さんですか!?すみません、勝手にお邪魔させてもらってます!」


「いえいえ、私こそ二人でお楽しみのところごめんなさいね!」


 如月はただ勝手にお邪魔していて悪いと純粋に思ったからそんなことを言ったのだろうが、母さんは如月の『お母さん』という単語に過敏に反応してしまい、勘違いが悪化する。


「オバサンはすぐに出ていくわ!」


「待てって、オバサン。人の話を少しは聞けよ」


 俺は今にもドアを開けて出ていこうとした母さんの腕を掴んで引き止めた。

 風邪で帰ってきたのに出ていこうとするなよ……。


「とりあえず、説明するから入って」


 オレは母さんを家に入れて、オレと如月が母さんに向かい合う形でダイニングテーブルに座った。

 オレは母さんに如月についての説明を始めたのだが、正直、なんて説明すればいいのか分からなかった。

 だって、俺がサボるために早退したら無理やり付いてきて、佐藤さんに怒られて泣いていたから仕方がなく家にあげたとか意味が分からないだろ。

 嘘も交えて話そうかと思ったが、俺が嘘をつくたびに如月が横から訂正してきてさせてもらえそうになかった。

 俺は結局、如月が家にあがるまでの経緯をありのまま母さんに伝えることになった。


「じゃあ、二人はまだ付き合ってないの?」


「まだってなに……。付き合ってないし、付き合うつもりもない。そもそも、友達ですらないし」


「それはさすがに酷くない!?私は健一くんのこと、友達だと思ってますよ!」


 なぜか、如月は前のめりになって母さんに友達アピールをする。

 まだ俺が如月を認識してから一週間も経っていないのだが、それでなぜこの子は友達だと言えてしまうのだろう……。


「付き合ってないのかー。それは残念ね。こんなに美人で礼儀正しい子なかなかいないのに」


「いえ、そんな……」


 如月は褒められたことに照れたのか、顔を赤くして俯いた。

 泣いたり、怒ったり、笑ったり、照れたりと感情が忙しい奴だな。


「でも、ケンちゃんにもようやく友達が出来たのね。安心したわ」


「……だから、違うって……」


 母さんは安心したような嬉しそうな表情をしていた。

 そんな顔を見ると、俺には強く否定することができない。

 安心か……。

 心配させていたことに対する申し訳なさで俺が黙っていると、母さんが口を開いた。


「真冬ちゃん、ケンちゃんと仲良くしてあげてね」


「はい、もちろんです!」


 母さんは如月のその返事を聞くと、また嬉しそうな顔で笑った。


「もう、いいだろ」


 なんだかこれ以上話しているのは俺が辛かったので強制的に終わらせる。


「とりあえず、母さんは風邪で帰って来たんだから今日は寝ててくれ」


 そう言って、母さんの背中を押して無理やり母さんがいつも寝ている部屋に連れていこうとする。


「ちょっと……!まだ、真冬ちゃんと話したいのに……」


「病気を移されても困るんだよ。いいから、病人は別室」


 さらに腕に力を入れて、グイグイと背中を押す。


「真冬ちゃん、ゆっくりしていってね。また話しましょ」


「もちろんです。また」


 二人は仲のいい友達のように手を振りあっていた。

 母さん、もう四十代なんだからいい加減歳相応にしてくれよ……。

 少しだけ自分の親ながら恥ずかしいと思った。

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