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クズはクズらしく  作者: 夕町 迅夜
第一章
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調理と平穏

 俺は今、如月と共に自宅にいる。

 大きな()き出し窓から明るい日光が差し込み、テレビには母さんが録画している今期の人気ドラマが流れている。

 俺はそんなリビングのテーブルで先程からずっと勉強をしているのだが――


「ねー、勉強なんてしてないで遊ぼうよ〜!ゲームしよ!ゲーム!」


 先程から目の前にいる彼女がとにかくうるさい。

 黙ってテレビも見られないのか。


「うるさい。家から追い出すぞ」


「えー、それは困るなぁ」


 全く困った様子のない顔で言う。


「それにしても勉強するなんて真面目だね。せっかく学校ズル休みしたのに」


「普通だ」


 うちの学校では約ひと月後に後期中間テストがある。

 この時期からテストに向けて勉強し始める生徒が出始めるので俺の行動はべつにおかしなものではないと思う。

 如月は先程からずっとテレビを見たり、駄々をこねたりしてばかりだが、勉強しなくていいのだろうか。


「あ、分かった。健一くん、友達いないから他にやることないんでしょ」


「……」


 彼女はあれなのか?

 暇すぎて俺に喧嘩(けんか)でも売っているのだろうか。

 俺に友達がいないというのは事実だからいいが、それをわざわざ口に出して言われると少しイラッとするものがある。

 俺は如月を無言で睨みつけた。


「ひゃー、こわーい」


 そんな俺の目を見て、如月は演技感を全く隠そうともしない棒読みでわざとらしく両手を上げた。

 うわー、うざーい。

 なんなんだこのウザさは……。

 泣いていた方がよっぽど大人しくてマシだったぞ。


「ねえ、そういえばもうお昼だけどご飯どうする?」


 如月の目線が掛け時計の方に向いていたので、俺もつられて掛け時計を見るともう十二時半になりかけていた。

 学校ならそろそろ四限目が終わり、昼食の時間になる頃だ。


「近くに飲食店が幾つかあるから適当に外食でもしてこいよ」


「え、健一くんは?」


「食べない。大してお腹すいてないし」


「体に良くないよ?」


「あとから食べるからいい」


「そ、そう……」


 そんな会話を交わし、俺は再び勉強の方に意識を戻す。

 もう少しで解けそうな数学の問題の途中だったのでそのまま勢いで最後まで解き切った。


「ん?」


 一段落したのでノートから顔を上げると、如月はなにをしているのか、足踏みをして右往左往していた。

 (はた)から見て挙動不審(きょどうふしん)だ。


「なにしてる。食べに行かないのか?」


「……え、えっと……その……」


 手を前で組んで、内股を擦り合わせてもじもじとしている。


「トイレか?トイレならそこのドアを出て右だぞ」


「ち、違うし!」


 恥ずかしかったのか、顔を赤くして否定してくる。


「じゃあ、なんだよ」


「その……お、お金を……貸してくれません……か?」


「は?」


 如月は気まずそうに(ひとみ)を泳がせながら、少し赤色に染まった顔で首を傾げてお願いしてきた。


「財布持ってないのか?」


「わたし学校帰りに寄り道とかしないから持ち歩いてないんだよぉ」


 如月は泣きべそをかきそうな声を出す。


「マジかよ……」


 今どき財布を持ち歩かない高校生なんて珍しい。

 如月のような生徒なら放課後に友達と寄り道するくらいは当たり前にしていると思っていた。

 少し意外だ。


「俺も大して持ってないんだが……」


 自分の財布の中を確認してみると、たったの四百円しか入っていなかった。

 できるだけ貯金しておきたいと考えているので普段からあまり財布にはお金を入れないようにしていたのが裏目に出た。

 銀行にはあるので、ATMにお金を下ろしにいけばいいだけの話なのだが、わざわざ行くのも面倒くさい……。

 俺は台所に向かった。


「健一くん?」


 俺のその行動を疑問に思った如月の声を無視して、冷蔵庫を開ける。

 なにも入ってないな……。

 毎日見ているから知ってはいたが、本当に何も入っていない。

 そういえば、パスタがあったような気がする。

 いつもパスタを入れている棚を開けると、パスタとパスタソースが一緒に入っていた。


「パスタでいいか?」


「え?なにが?」


「俺が作るから昼飯はパスタでいいかと聞いてるんだ」


「え!?健一くんって料理できるの!?」


「悪いのか?」


「悪くない!悪くない!凄いなと思って」


 如月は両手をパタパタと振って否定する。


「ていうか、悪いよ。わざわざ作ってくれなくてもいいって!」


「じゃあ、どうするんだ?何も食べない気か?」


「それは……」


 彼女が言葉に詰まったその時、グゥゥ〜とお腹が鳴る音がした。

 もちろん俺ではなく、彼女のお腹からだ。


「うぅ……」


 彼女はお腹を抑えて、相当恥ずかしかったのか今までにないくらい顔を真っ赤にした。


「パスタでいいな?」


「……うん」


 俺はマンガかよ、と心の中でツッコミを入れつつ、棚からパスタとパスタソースを取り出し調理の準備を始める。

 ついでに俺の分もあとから作るのは面倒なので、一緒に作ってしまおうと思い、二人前を作ろうとする。

 如月は立ち尽くしたまま、こちらの姿をずっと見ていた。


「やっぱり、健一くんは作らなくていいよ。わたしが作るから必要なものの場所だけ教えて?」


 そう言って、彼女は台所に入ってきた。

 さすがに悪いとでも思ったのだろうか。


「べつにいいって。俺が作るから」


「家に上げてもらった上にご飯までご馳走になるんだからせめてこれくらいさせてよ、ね?」


 彼女はそう言って、俺に詰め寄ってくる。

 身長差があるので必然的に上目遣いでお願いされる体勢になった。

 距離が近い。


「……勝手にしろ」


 その体勢のままでいるのが耐えられなかった俺が結局は折れることになった。

 内心、上目遣いで女子にお願いされたことに照れている自分がいたので、そんな自分を殴り飛ばしたい気分になる。


「ふふっ。じゃあ、勝手にするね」


 俺は彼女に皿などの調理に必要なものの場所を教えた後、調理を全て彼女に任せて、邪魔にならないようにリビングに戻った。

 そのあとはお互いに大して会話もないまま如月は黙々と調理をし、俺はつけっぱなしになっていたテレビを消して、再び勉強を再開した。

 お互いに同じ空間にいながらも無言で違うことをしている。

 部屋に響くのは彼女の調理音と俺がペンをノートに滑らせる音だけだ。

 俺はこの状況をどこか心地よく感じていた。


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