抵抗と不撓
土日を挟んだ休み明けの月曜日。
これからまた五日間も学校に通うことになるという現実に憂鬱さを覚えながらも学校へ行くと、空席になっているはずの俺の席に座っている生徒がいた。
「おはよー!」
「そこ、俺の席だからどいてくれないか?」
「挨拶してくれたらどいてあげる」
「いいからどけ」
俺の席に座っていたのは如月 真冬だった。
どうやら、俺が来るのを座って待っていたらしい。
休みに入る前にあれだけ言ったのにまだ懲りていないのか……。
「ほら、あ・い・さ・つ!」
「はよ」
俺は目をそらしながら吐き捨てるかのように挨拶をした。
普通なら不快になるところだと思うのだが、彼女はどうやらそれで満足したらしい。
「よく出来ましたー」
嬉しそうに満足気な笑顔でパチパチと小さく拍手をしてくる。
「バカにしてるのか?」
そんな彼女の態度に少しだけキレそうになる。
「じょ、冗談だよ、冗談。仲良くなるにはこれくらいのコミュニケーションは必要かと思って」
少し慌ててそう言いながら、彼女は約束通り、俺の席から立ち上がり、席を譲る。
「誰と仲良くなりたいのかは知らないが、俺を巻き込まないでくれ」
肩にかけていたカバンを机の横についているフックにかけて、彼女がどいた自分の席へと腰掛ける。
すると、椅子に微かな温もりを感じた。
一体、いつから座ってたんだよ……。
「誰とって、健一くんとだよ?キミを巻き込まないでどうやってキミと仲良くなるの?」
「まだ諦めてないのか……」
「一緒に帰るのは一旦諦めたよ。だからまずは仲良くなるところから始めようかと思って」
「仲良くなろうとするのも諦めろ。多分無理だから」
「あっ!今、多分って言ったよね!なら、可能性はありそうだから頑張るよ!」
笑顔でガッツポーズをして、頑張るアピールをしてくる。
「いや、頑張らなくていいから……」
俺は彼女の勢いに気圧されながらも否定していると、彼女の背後から一人の男子生徒がこちらに歩いてくるのが見えた。
「真冬、おはよう。何してるんだ?」
「あっ、南谷くん、おはよう!健一くんと話してたの」
男子生徒の視線がこちらを向く。
「えーと……確か、菅原 健一くんだっけ?」
「違うよ!春原!春原 健一くん!名前間違えるなんて失礼だよ!」
「あぁ、そうか。ごめんごめん」
男子生徒はそう言って軽く謝りながら、苦笑いを浮かべている。
南谷というらしい男子生徒は、いかにもクラスの中心といった雰囲気のいかにも女子からモテていそうな爽やか系のイケメンだった。
人当たりの良さそうな態度を先程からしていることからもコミュニケーション能力の高さが見て取れる。
俺のような生徒とは真逆の人種だ。
如月のことを真冬と下の名前で呼んでいたり、二人の態度を見る限り、二人の距離が近いこともよく分かる。
こういう関係性をおそらく仲のいい友達というのだと思った。
「何か用事?」
如月が南谷に首を傾げながら尋ねる。
「いや、真冬が珍しい人と話してるなと思ったから来ただけ。春原くんが誰かと話してるの初めて見たからさ」
珍しい人というのは間違いなく俺のことだろう。
南谷のその一言で名前も知らないこのクラスのクラスメイトたちの俺に対する印象がなんだか分かった気がした。
「俺は南谷 誠也。もう同じクラスになって大分経つけど、話したこと無かったよな。改めてよろしく」
南谷は勝手に自己紹介をしてきて、手の平をこちらに差し出してきた。
握手をしろということだろう。
南谷の顔を見ると、いかにも人が良さそうに笑顔を浮かべている。
その横では如月が俺が人と仲良くなるチャンスだとでも思っているのか、嬉しそうな表情でこちらを見ていた。
本来ならここでこの手を握って握手をするのが普通だ。
だが、悪いがそんなのは知ったことではない。
俺は人と仲良くなんてしたくない。
他人に流されて生きるのはもうたくさんだ……。
「悪い……」
俺はそう言って、差し出された南谷の手を無視し、先程かけたばかりのカバンを持って席を立った。
廊下に出るためにドアへと向う。
後方で南谷に謝っている如月の声が聞こえるが、無視して俺はそのまま帰宅するために一階の玄関へと向かった。
時間的にもうすぐ朝のホームルームが始まるからか廊下や階段には生徒がほとんどいない。
「ねぇ、待ってよ!」
「……」
階段を下りているところで後ろから追ってきたらしい如月の声に呼び止められた。
俺はそれを無視して下りていく。
「待ってってば!」
如月はそんなに俺を引き止めたいのか、俺の進行方向に回って両手を広げて道を塞いできた。
「邪魔」
「邪魔じゃないよ。なんで南谷くんを無視したの?」
「よろしくしたくなかったから」
「人嫌いなのは分かるけどさ。人の厚意を無下にするのは良くないよ」
如月のその言葉に少しだけイラついた自分がいた。
友達が大勢いて、性格が明るくて、楽しそうな人生を送ってるお前なんかに俺の人嫌いが分かるわけないだろ……。
「分かったからどいてくれ。今日は早退する」
「やだ。どかない」
「どけ」
「……」
「……」
如月は何も答えず、無言で両手を広げて道を塞ぎ、少しの間無言で睨み合う時間が続いた。
その均衡状態を先に破ったのは如月だ。
「じゃあ、わたしも早退する」
「……は?なんで?」
「そういう気分なの!待ってて!……って言っても聞いてくれないから、これ一旦預かるね」
「おい!」
そう言って、彼女は俺の肩にかかっていたカバンを無理やり奪い取ってきた。
そのまま彼女は俺のカバンを抱えて、先程下りてきた階段を上っていく。
「返して欲しかったらそこで待っててねー!」
彼女は俺に階段の上からニコニコと笑いかけて、教室の方へと走っていった。
おそらく教室に自分の荷物を取りに行ったのだろう。
俺はカバンがないのでは帰るわけにもいかず、階段に腰を下ろして待つことにした。
額に手を当てて深いため息をつく。
「なんなんだよ……ほんとに……」




