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クズはクズらしく  作者: 夕町 迅夜
第三章
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復縁と哀哭

 家を出た俺は走って、とある家に向かった。

 今はその家の前に息を切らしながら立っている。

 この家はナツ……紅高 夏波の家だ。

 俺が如月にしてやれることは、如月が俺に対して望んでいたことを叶えてやることくらいしかもう残っていない。

 如月が前に言っていたような俺が人を信じられるようになったり、友達を作ったりするのはまだ難しいかもしれない。

 けれど、今すぐにでもできることもある。

 俺は切れた息を整えてから家のインターフォンを押した。


『はい。どちら様でしょうか?』


 少ししてからインターフォン越しに女の人の声が聞こえてくる。


「……春原 健一です。夏波さんに用があって来ました」


「えっ!?ハルくん!?」


 声色からしてインターフォンに出たのがすぐにナツだと分かったけれど、インターフォン越しで母親である可能性もあるので、一応敬語を使った。

 反応からして、やはりインターフォンに出たのはナツだったらしい。

 インターフォンがすぐに切れ、慌てているのか、家の中からドタバタと物音がした。

 物音が止むのと同時に家のドアが開く。


「あっ……!」


 ナツは外に一歩だけ足を出して、ドアの隙間から顔を出した。

 俺の姿を見て驚いた顔をしている。


「……」


 俺はなんと言っていいのか分からなかったので、何も言わずに頭を軽く下げた。


「……えっと、あの、ハルくん急にどうしたの?」


「いきなり来て悪い……。ちょっと話がある」


 ナツと話していると、家の中から階段を降りてくるような音が聞こえてきた。

 ナツも顔を引っ込めて、家の中を見る。


「なになに?インターフォンなったけど、誰か来たん?」


「えっ、ちょっと」


 ナツ以外の女子の声が家の中から聞こえてきた。

 見知らぬ女子が顔を出す。


「えー!?なっちゃん彼氏いたの!?」


「いや、あの、えっと、この人は……」


「いいなぁ〜」


 その女子は俺の顔を見るなり、騒ぎ出した。

 ナツはどうしていいのか分からずにアワアワとしている。


「わたしなんかに構わず行ってきなよ〜。わたしは部屋で待ってるからさ!」


「じゃあ、ごめんね。すぐ終わるからちょっと待ってて」


「うん!どうぞごゆっくり〜」


 ナツが靴を履いて出てきて、見知らぬ女子はヒラヒラと手を振って、家の中へと戻っていった。


「えっと、ここじゃなんだし、別の場所行こっか」



 *



 俺とナツは場所を移すために横並びでお互い無言のまま近くにある堤防までやってきた。

 車が入ってこられない遊歩道になっている堤防の上を歩く。

 堤防の下には広い芝が広がっていて、遊具もいくつか置かれている公園。

 そこで何人かの子供たちが遊んでいて、それを見守っている母親たちがいる。

 この堤防にやってきたのは中学二年生以来だったが、奥に見える川に夕日が反射していて、変わらずとても綺麗な景色だった。


「友達、出来たんだな……」


 俺はそんな景色を目に焼き付け、口を開いた。


「うん……。わたしにもできたよ、友達」


 俺が知る限り少なくともナツには中学二年まで友達らしい友達がいなかった。

 もう仲違いしてしまったあのグループにいた他の三人とは俺にナツがついてきていた形で一緒に仲良くなった関係だったので、ナツが一人で俺以外の友達を作ることが出来たのはおそらく初めて。

 幼馴染の成長を嬉しく感じた。

 そしてその反面、二年前と変わらずに失敗して、後悔ばかりしている自分が情けなく思えた。


「ハルくんは?高校で友達できた?」


「俺は……」


 そこから先の言葉は口から出てこなかった。

 如月のことが頭を過ったが、あんな姿にしてしまった俺が如月のことを友達だとはとても言えなかった。


「話すの、あそこでいいか?」


「あっ、うん」


 俺は話を誤魔化すためにランニングに疲れた人や遊び疲れた人の為に建てられている休憩所を指した。

 そこまでナツの家から離れない方がいいと思ったのもあるが、この場所は昔よくナツと会っていた場所でもあったので俺とナツが話をする場所といえばここだった。

 ナツが何も言わずにここまで来た様子からしてナツもここで話を聞くつもりだったのだろう。

 休憩所に置かれている長椅子の一つに人一人分程の距離を空けて並んで腰かける。


「こうして会うのって久しぶりだね。二年ぶりくらいかな?」


「そうだな……」


「高校どう?」


「俺は……中学の時とあまり変わらないよ。ナツは友達ができたなら楽しくやってるんだろ?」


「うん……。わたしは楽しくやれてるよ」


「そうか……」


 本題には入らずに当たり障りのない会話をして、お互いに言葉を選んでいるのか無言になった。

 静かな時間が流れる。


「それで……なんの用事?」


 ナツは気を使ってくれたのか、俺が話しやすいように話を振ってくれた。

 俺は少しだけ息を吐き、意を決する。

 椅子から立ち上がり、ナツの前に立った。

 見上げたナツの視線と俺の視線が重なり、俺は口を開く。


「……ごめん」


 たったその一言だけで、自分の声が震えているのが分かった。


「中学二年の頃……お前は俺に近づいてきてくれて、助けになるとまで言ってくれたのに、俺は……一方的にお前を突き放した。本当に悪かった」


 俺はそう言って、ナツに深く頭を下げた。


「頭あげてよ」


 三秒ほどの沈黙のあと、ナツはそう言いながら椅子から立ち上がり、俺の肩を両手で軽く掴んで頭を上げさせた。


「わたしこそ、ごめんね。あの時、力になってあげられなくて。ハルくんに睨まれたあの時、わたし……怖くなっちゃって、それから話しかけられなくなった。ハルくんが一人になって辛そうにしてるの知ってたのに、ただ見てるだけで何もしなかった。謝るのはわたしの方だよ……。一人にしてごめんなさい」


 ナツは俺の手を両手で力強く握って頭を下げてきた。


「……ごめん」


「……ごめんね」


 もう一度お互いに謝りあった。

 ナツの手は小刻みに震えていた。

 ナツも俺と同じだったんだ。

 言いたくても、言えなくてずっと後悔していた。

 今はそれを言うことができて、伝えることができて少しだけ楽になった。


「また、昔みたいに遊ぼうよ」


「仲直り……ってことで、いいのか?」


「もちろんだよ。またよろしくね、ハルくん」


「ああ、またよろしく……」


 俺とナツは互いの手を握りあい、握手した。

 こうして俺たちは二年ぶりの仲直りをすることが出来た。



 *



 ナツの友達を家に待たせているので、俺とナツは横並びで歩いてナツの家に帰っていた。


「そういえば、ハルくんなんで急に謝りに来たの?何かあった?」


「まあ、色々とな……」


「もしかして……如月 真冬さん?」


「……ッ」


 ナツの口からは決して出てくるはずのない人の名前が出てきた。


「なんで、お前がその名前を……」


 ナツと如月はこれまで一度も会ったことがないはずだ。

 知っているはずがない。


「えっと、確か春休みに入る前かな。その人、わたしの家にやって来たんだよ。ハルくんの高校の友達って言ってたけど、その様子だと本当だったんだね」


 春休みに入る前……。

 如月がナツのことを知ったのは、おそらく爺さんのお通夜の日の夜。

 あの時に俺の口から聞いたのが、初めてのはずだ。

 つまり、如月がナツに会いに行ったのは車にはねられて昏睡(こんすい)状態になる直前……。

 その時、如月が爺さんの葬式に用事があって行けないと言って来なかったことを思い出した。

 まさか、如月がナツに会いに行ったのは、爺さんの葬式があった、如月が昏睡状態になる前日……。


「如月、何か言ってたか……?」


「ハルくんがいつかわたしに会いに来るからその時はハルくんと仲直りしてほしいって頭を下げて言われたよ。その人は半年くらい先になるかもって言ってたのにずいぶん早かったね」


「……」


 如月は……こんなことまでしてくれていたのか……。

 恩人であるはずの爺さんの葬式を休んでまで俺の為に会ったこともないナツに会いに来て、頭まで下げて頼み込んでくれた。

 俺は……アイツにしてもらってばっかりだ……。

 俺はなにも……なに一つアイツに返すことができていない……。

 目から涙が(あふ)れた。

 頬を伝い、地面に落ちる。

 自分の無力さ、不甲斐(ふがい)なさにどうしようもなく腹が立つ。

 顔が歪み、必死に(こら)えようと思っても止めることができなかった。


「……くっ……ぐぅ、あぁぁ……」


 俺はナツの前で泣き崩れた。

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