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クズはクズらしく  作者: 夕町 迅夜
第三章
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姉妹と謝罪

 如月は手術が終わったあと、一人部屋の病室に移された。

 室内には俺と母さんと祖母がいて、如月の家族はまだ来ていなかった。

 白い病院のベッドの上には呼吸器をつけられて、腕に点滴をさしている如月が横たわっている。

 如月の姿が父さんの姿と重なった。

 ……なんだ……なんなんだ……これは……。

 絶対に見たくないと思っていた光景が今、俺の目の前にある。

 酷い夢だと思いたかった。


「お姉ちゃん!!!」


 背後からドアを勢いよく開けた音と共に若い女の子の声がした。

 振り返るとほぼ同時にその子とすれ違い、その女の子は膝をついて如月の顔を心配そうな顔をして見つめていた。

 学校の制服を着ていて、中学生くらいの女の子だった。

 如月の家族が来たのだとすぐに分かった。

 その女の子に続いて、如月のお母さんらしき女性も病室に入ってくる。

 如月のお母さんは如月の姿を見たあとに俺の母さんから何があったのかを聞いていた。


「もしかして、アナタが健一さんですか……?」


 名前を呼ばれた方を向くと、先程まで膝をついて如月を見守っていた如月の妹が薄らと涙を浮かべた赤い目で俺の方を睨んでいた。


「お姉ちゃんと一緒にいたんですよね?」


 答えを聞かずに立ち上がり、距離を詰めてくる。


「なんで……なんで、アナタは無傷で、お姉ちゃんがこんなことになってるんですか……?助けられなかったんですか……?」


 絞り出すような声で迫られながら、制服を両手で思いきり掴まれる。


「……………………ごめん」


「謝らないでください!謝るならお姉ちゃんを返してよぉ!!!」


 叫びながら、力いっぱい制服を掴んで揺すられる。


「…………ごめん」


 さっきまで……本当についさっきまで楽しく話していたのに、なんでこんなことになったんだ……。

 ……全部……俺のせいだ……。

 俺さえいなければ、こんなことにはならなかった……。

 俺があの時、南谷を煽るようなことをしていなければ……南谷ともっと上手くやれていれば、こんなことにはならなかった……。

 如月とあのまま仲直りなんてせずに突き放せばよかった……。

 そもそも俺が如月と関わらなければ如月がこんなことにならずに済んだはずだ……。

 あの時こうしておけばよかったという後悔が次々に頭の中を巡る。

 俺が……。

 俺が…………。

 俺が…………………。

 …………俺が…………如月の人生を終わらせた……。

 如月の妹は俺の制服を掴んだまま地面に膝をついて泣き崩れた。


「……本当に……ごめん……」


 俺は、如月に……如月の両親に……如月の妹に……謝ることしか出来なかった――。



 *



 俺が如月の病室にいてもできることはなにもない。

 俺は母さんに言われて、家に帰った。

 如月が昏睡状態になった次の日。

 家に警察が来た。

 南谷が警察に捕まったらしい。

 まだ裁判はしていないので確定はしていないけれど、目撃者が多いので、おそらく殺人未遂として扱われて、少年院に入ることになるらしい。

 そんなことを警察の話を聞いた母さんから説明された。

 けれど、俺は南谷がどうなろうとどうでもよかった。

 俺は学校がすぐに春休みに入ったこともあり、ずっと自分の部屋に引きこもっていた。

 如月が跳ねられたあの時の光景が寝ても覚めても頭から離れなかった。


「ケンちゃん」


 部屋から出なくなってから数日が経った頃だった。

 ドアをノックする音が二回したあと、ドアの向こうから母さんの声が聞こえてくる。


「ケンちゃんにお客さんよ」


 俺に客……。


「如月 冬華(とうか)です」


 誰なのか考えるまでもなく、その苗字で誰が来たのか分かった。

 病室で会った如月の妹だ。


「返事がないですけど、アナタに用があるので、入らせてもらいますね」


 如月の妹はドア越しにそう言ってからドアを開け、部屋に入ってきた。

 如月の妹はベッドに腰掛けている俺に近づき、母さんはドアの傍でその様子を見守っている。

 如月の妹はベッドに座っている俺の目の前で立ち止まった。


「元気がなさそうですね」


「……」


「無視ですか」


 如月の妹は返事が返ってこないことに大して気にした様子もなく、持ってきていた自分のカバンの中に手を入れた。


「これをどうぞ」


 如月の妹は俺の手元にカバンから取り出したのは一冊の大学ノート。

 その大学ノートを俺の膝の上に置いた。


「そのノートはお姉ちゃんがアナタのことについて書いていたノートです。アナタのことはお姉ちゃんからこのノートを見せられてよく聞かされてました」


 渡された大学ノートの表紙を見ると、ネームペンで《健一くん更生計画!》と書かれていた。


「そのノートはアナタにあげます。読んでください」


 如月の妹はそれだけ言って、母さんと部屋から出ていった。

 ドア越しに「すみません。ありがとうございました」という如月の妹の声が微かに聞こえ、二人の声が次第に遠ざかっていく。

 誰もいなくなった部屋で手元に置かれたノートに視線を落とす。

 俺はノートのはじめのページをゆっくりと開いた。

 一番初めのページの冒頭には《10月23日(木)》と書かれている。

 その下に書かれている内容を読んでいく。


 《今日から健一くんの変化が分かりやすいように記録をつけていこうと思います!》


 初めの一文にそう書かれていた。

 10月23日……。

 内容を読んでいくと、この日は俺が母さんに頼まれて、爺さんのお見舞いに行き、如月と病院で出会った日だった。

 ページをめくり、読んでいけばいくほど、如月が俺なんかの為にどれだけ多くのことを考えて、頑張ってくれていたのかが身に染みて分かってくる。


 《昨日に三秋さんが亡くなってしまったので

 、今日は三秋さんのお通夜でした》


 その文面を見て日付を確認すると、そのページは如月が昏睡状態になる二日前、俺の爺さんのお通夜があった日のことだった。

 爺さんとの思い出のことや如月の思いなんかが綴られた後に、お通夜の会場を抜けて俺と話したことも書いてあった。

 昔のことを話して少しすっきりしたとか、これで隠し事がなくなってよかった、俺と仲直り出来て嬉しかった、なんてことが書かれている。

 そんな文章を読んでいき、最後に書かれているとある文章に目が止まった。


 《健一くんがナツって呼んでた夏波さんっていう人とは仲直りしてほしいかな》


 その一文にはマーカーで線が引かれていて、下に《今後の課題!》と書かれていた。

 そのページを最後に、次のページから何も書かれていない白紙のページが続いている。

 その白紙のページ、一枚一枚が如月が動かなくなってしまったことが現実だと言っているようで、ただページをめくっているだけなのにそれが堪らなく辛かった。

 全てのページを見終えて、ノートを閉じる。

 如月はもう、いつ目を覚ますのか分からない。

 このまま目を覚まさない可能性も十分にある。

 全てが過去のことで、どう足掻いたとしてもこうなってしまった現実は変えられない。

 俺がこのまま落ち込んで、部屋で後悔していても現実はなにも変わってくれない。

 俺はノートを置いて、部屋を出た。

 俺が如月にしてやれることはもうこれくらいしか残ってない。

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