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クズはクズらしく  作者: 夕町 迅夜
第三章
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幸福と喪失

 休み明けの月曜日の朝。

 いつも通りの登校で学校の最寄り駅で降り、改札を出ると俺と同じく制服姿の如月が待っていた。

 俺に気がついたようで駆け足でこちらに駆け寄ってくる。


「おはよう!」


「おはよう」


 お互いに挨拶を交わす。


「おー」


 如月は感心したような声を上げて、パチパチと小さく拍手をした。


「……なに?」


「理由なしにそんなにまともに挨拶されたのって初めてだからついね。これを見れただけでも頑張った甲斐があったよ」


「そうか」


「うん!」


 手を後ろに回し、腰を少しだけ曲げて、こちらに笑顔を向けてくる。

 なんだか、この感じは久しぶりだと感じた。


「じゃあ、行こっか」


「ああ」


 駅から出て、学校に向かって横並びになって歩き始める。


「こうして制服で学校行くの久しぶりだよね」


「学校に一緒に行ったことはないけどな」


「あれ?そうだっけ?」


 俺と如月は学校で会ったり、休日に駆り出されたことはあっても朝に制服姿で一緒に登校したことは一度もない。


「まあ、とにかくなんだか久しぶりだよね」


「そうかもな」


 同調しつつも、俺は久しぶりというよりかは、こうして朝一緒に登校するのは前の俺なら絶対にしていないことなので新鮮に感じていた。


「三秋さん、しっかりお見送りできた?」


「まあ、普通に見送ったよ」


「ごめんね。私も行けたらよかったんだけど……」


「用事があったならしょうがないだろ」


 如月は家庭の事情で昨日のお葬式には来られなかった。


「あのさ……」


「なに?」


「その……都合が合えばでいいんだが……今度、爺さんのお墓参りに一緒に行かないか?」


 何故か気恥ずかしくて、如月の目を見られず、後ろ髪を掻きながら言う。


「ほら、色々バタついてたし、如月だってお通夜で焼香しただけだろ?だから、どうかと、思ったんだが……」


「うんっ!いいよ。一緒に行こ?」


 恥ずかしさを誤魔化そうとして、柄にもなくペラペラと言い訳をするように言葉が出てきた。

 如月は少しの間、俺の方を見てぼーっとしていたが、快く承諾してくれた。


「そう言えば、三秋さんのお墓ってどこにあるの?この辺?近いなら、今日行こうよ」


「今日は無理だな。爺さん、まだ墓には入ってないし」


「え?そうなの?」


「亡くなってから四十九日後、親族が気持ち的に落ち着いたらお墓に入れるのが決まりだからな」


「へー」


 学校前にある交差点が赤信号になったので、横並びで足を止める。


「だから、行くとしたら春休み明けくらいがちょうどいいと思う」


「その頃にはもう二年生だね」


「そうだな」


 今から数ヶ月後の二年生になっている頃の自分に思いを馳せた。

 二年生になった俺は何をしているのだろう。

 人を信じられるようになりたいとか、友達をまた作れるようになりたいなんて高望みはしない。

 如月はダメだと言いそうだけれど、俺はこのまま如月との関係が続いてくれればそれでいいと思った。


「この一年、色々あったよねー。特に後半」


「だな」


 この高校に入学してから今までのことを思い出す。

 病院で如月に出会って、しつこく付きまとわれて、遊園地に連れて行かれたり、爺さんが亡くなったり……。

 本当に色んなことがあった。

 キレたり、縁を切ったりしたこともあったけれど、今こうしていられるのは全部如月のおかげだ。


「如月」


 名前を呼ぶと、横にいる如月はこちらを向いた。


「あ――」


 続けて言おうとしていた言葉を発した瞬間、背中に突然、衝撃を感じた。

 体が前に倒れ、転びそうになりながら目の前の車道に体が飛び出す。

 転ばないように体勢を何とか立て直しながら後ろに視線を向けると、驚いた顔をした如月とその隣。

 今さっきまで俺が立っていた場所に南谷が立っていた。


「……死ねよ」


 俺は南谷に車道に突き飛ばされたことを察した。

 時間の流れがゆっくりに感じる。

 横を見ると、こちらにトラックが向かってきていた。

 体勢を立て直しても、もう避けられない。

 ――――――死ぬ……。


「健一くん!!!」


 如月の声が聞こえた。

 その声とほぼ同時。

 背中をさらに突き飛ばされ、俺は体勢を崩して車道に倒れ込んだ。

 背後で何かがぶつかる鈍い音が聞こえる。

 車のブレーキ音やクラクションの音が周囲に響く。


「「「キャァァーー!!!」」」


 その直後、何人かの女子の叫び声が聞こえてくる。


「おい!誰か救急車呼べ!救急車!」


「これ、ヤバくね……?」


「ヤベぇ」


 登校中で周囲にいた生徒たちが野次馬のように群がり始める。

 各々様々なことを言いながら、中にはスマートフォンのカメラを向ける奴までいる。


「…………なんで……」


 後ろを向くと南谷が尻もちをついて放心状態になっていた。

 その横に先程までいたはずの如月の姿がない。

 俺は状況が理解出来なかった。

 転んだ衝撃で膝や手のひらを擦りむき、血が滲んでいたが、そんなのどうでもよかった。

 ふらふらと体を起こして、数メートル先に停車しているトラックの方に向かう。


「……」


 近づいていくと、トラックの影に隠れて見えていなかった光景が見えてくる。

 トラックの頭が凹み、その先に制服を着た女子生徒が頭から血を流して倒れていた。


「………………おい……」


 その女子生徒の前で膝を着く。


「………………きさ……らぎ……?」


 顔は乱れた髪で隠れて見えなかったけれど、目の前で倒れているのが如月だということはすぐにわかった。


「……ぁ……あぁ……!」


 涙は一滴も出なかった。

 喉から潰れそうなほどの叫び声だけが吐くような勢いで出る。

 動悸が胸を圧迫し、息が切れ、強烈な目眩と吐き気に襲われる。

 全身から凍えそうなほど冷たい汗が出た。

 俺が鮮明に覚えていられたのはそこまでだった。

 周囲の野次馬の声がぼんやりと聞こえて、学校から駆けつけてきた教師が何かを言っている。

 救急車のサイレンの音がして、目の前に倒れた血だらけの如月を連れていった。

 何となくは覚えているけれど、モヤがかかったようではっきりと思い出すことができない。

 俺も救急車に乗せられて、病院の手術室の前で後から急いで駆けつけた婆さんや母さんが何か俺に向かって話しかけていたけれど、何を話していたのか全く思い出せなかった。

 数時間後。

 手術が終わり、如月はなんとか命は取り留めることが出来た。

 けれど、それから如月が目を覚ますことはなかった……。

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