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クズはクズらしく  作者: 夕町 迅夜
第三章
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裏方と謝恩

 俺は如月を家の前まで送り届けてから自分の家に帰った。

 けれど、俺は家の前で立ちつくして、家のドアを開けられないでいた。

 怒られるだろうな……。

 爺さんのお通夜を途中で抜けるなんて普通に考えて怒られるのが普通だ。

 俺はひとつ深呼吸をしてから家のドアを開けた。


「ただいま」


 家のドアの鍵が空いていたので間違いなく母さんは家にいるはずなのだが、いつもなら帰ってくる返事が返ってこなかった。

 あまりに静かだったので、なぜか物音を立てないようにしながらリビングに行くと、母さんはいつものポジションでソファに腰掛けてテレビを低音量で見ていた。

 扉を開ける音で俺が入ってきたのは気がついているはずだが、一向にこちらを向く様子がない。


「ケンちゃん……」


「……はい」


 急に名前を呼ばれた。

 母さんはこちらに目を向けることなくテレビを見ている。

 完全に怒られる雰囲気だったので、俺は怒られるのを覚悟した。


「真冬ちゃんとはどうだった?」


 母さんの口から予想外の言葉が耳に飛んでくる。


「なんで、母さんがそのこと……」


「知ってるのかって?」


 背中を向けていた母さんがソファの背もたれに手をかけて、こちらを見た。


「そりゃあ、知ってるわよ。だって、ケンちゃんと真冬ちゃんを病院で会わせたのわたしだもん」


「は……?」


 意味が分からなかった。

 母さんが俺と如月を病院で会わせた?

 俺と如月が病院で出会ったのは一度しかない。

 俺が爺さんのお見舞いに行って、如月のことを初めて認識したあの時だけだ。


「ちゃんと説明してあげるから座りなさい」


 混乱していた俺の様子を見た母さんはソファから立ち上がってダイニングの椅子に座るように言った。

 俺は母さんに言われるがままに椅子に腰かけて机を挟んで向かい側に座る母さんの話を聞いた。

 母さんから話された説明をまとめるとつまりはこういう事らしい。

 如月が俺と同じ学校で同じクラスになったのは良かった。

 けれど、俺と話すことがなさすぎて、ほとんど話す事が出来ずに入学から半年も経ってしまった。

 そこで如月が婆さんと爺さんにどうしたらいいのか相談に行ったら、俺をあの病院にお見舞いに来させるから、その時に話しかけて仲良くなっていけばいいということになったらしい。

 母さんが如月の顔を始めてみたのは如月が俺についてきて、家に上がったあの時らしいのだが、如月のことを初めて知ったのは婆さんから俺を病院に来るように言ってくれないかと頼まれた時らしい。

 さらに母さんは俺と如月が病院で会ったあとも如月に色々と協力していた。

 友達登録をしたチャットアプリでどうするかを話し合ったり、遊園地のチケットを用意したり、爺さんのお通夜で俺と如月が会うように仕向けたり……。


「つまり、全部母さんたちの手の上だったってことか……」


「どう?見事でしょ?」


 母さんはしてやったりと言いたげなニヤニヤとした顔でこちらを見てくる。


「はぁ……」


 相変わらず変わらない様子のその顔を見ていると、深いため息が出た。


「なんでこんなことしたの……?」


「真冬ちゃんが頑張ってるのにわたし達大人が頑張らないわけにはいかないでしょ?それにケンちゃんには真冬ちゃんみたいな人が必要だと思って」


「大げさに考えすぎだよ。たかだか高校で溶け込めてないだけで」


 俺は嘘をついて誤魔化した。

 母さんは何も知らない。

 俺が中学生の頃に友達を失ったことも、イジメにあっていたことも知らない。

 如月は俺がそんな状況だったことは知らなかったし、爺さんと婆さんに限っては俺と会うこと自体がほとんどないので知っているはずがない。

 だから、母さんが他の人からそれらのことを聞くこともありえない。


「もしかしてだけどケンちゃん、まだわたしが気づいてないと思ってる?」


「なにを?」


「わたし、ケンちゃんが友達を失くしたのも知ってるし、イジメられてたことも知ってるわよ?」


「なんのこと?」


「もう誤魔化さなくてもいいって。全部知ってるから」


「……」


「ナッちゃんから聞いたの」


 予想していなかった人物の名前が挙がった。


「最近、ケンちゃんになにかなかった?って聞いたら話してくれた」


「……いつから気づいてたの?」


「ケンちゃんが中学三年生に上がったあたりかな」


「なんで……」


「そりゃあ、分かるわよ。ケンちゃん、外出する回数が前よりも減ったし、昔から仲の良かったナッちゃん達のことも全然話さなくなった。昔は全くしなかった読書までしちゃって、あれでバレてないと思ってたの?」


 おかしい。

 俺は母さんにだけはバレないようにできる限りの注意を払ってきた。

 俺は意識的に土日は外出はするようにしていたし、いもしない友達との作り話を中学の頃は母さんによく話していた。

 高校に入ってからは高校になじめないと言うことを理由に話さなくなったけれど、そんなに目立つような変化はなかったはずだ。


「親をなめすぎよ。親は子供を一番よく見てるから隠し事なんてしてもすぐに分かるものなの」


 母さんから俺の考えていることを見透かしているかのような言葉が返ってくる。


「ねえ、ケンちゃん」


 母さんの声のトーンが一段階落ちて、先程と母さんの表情はそこまで変わっていないのに雰囲気が穏やかな、けれど、どこか真剣な様子になる。


「友達は、できた?」


 その言葉を聞いて頭に浮かんだのは、やはり如月だった。

 如月……。

 俺と如月のこの関係を友達と呼んでもいいのだろうか。

 そんな思いが一瞬だけ頭をよぎる。

 けれど、その答えはすぐに出た。


「できたよ。まだ一人だけだけど……」


 正直、俺と如月の関係は友達かどうかよくわからない。

 俺は彼女に無理をして、父さんのようにはなって欲しくない。

 如月は俺に友達を作って、人嫌いになる前のように戻って欲しい。

 お互いにそう思っているから一緒にいるだけ、というのが今の俺たちの関係だと俺は思う。

 けれど、如月がどう思っているかは分からないが、俺はいつか彼女と普通の友達になれたらいいと思った。

 いつか本当の友達になるつもりならそうだと言ってもいいだろう。


「母さん。爺さんのお通夜、途中で抜けてごめん」


「それはべつにいいわよ。おじいちゃんもきっとそうした方がいいって言うだろうし、明日にはお葬式もあるんだから」


「それと、ありがとう……。色々あって母さんの方が疲れてるのに、俺と如月を会わせてくれて」


 テーブルに両手をついて、頭を下げた。


「……本当にありがとう」


 母さんは驚いたのか少し間をあけてから俺の下げた頭を勢いよく、クシャクシャと撫でた。


「うん!どういたしまして!」


 次の日。

 俺は爺さんの葬式に行き、火葬されていく爺さんをしっかりと見送った。

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