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クズはクズらしく  作者: 夕町 迅夜
第三章
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苦悩と慈愛

「そして一年後、俺は中学を卒業して、高校は同級生たちが誰も行かないところを選んで受験した。それであの高校に受かって、今こうしてる。これが三年前から今に至るまでに俺がしてきたことだ」


 手に持った缶コーヒーの中身が揺れる。

 缶に口をつけて飲むと、二口ほどで残っていた中身のコーヒーが空になった。


「俺が人嫌いになるのもよく分かっただろ。これで満足か?」


 俺は足は止めずに首を捻って、後ろをついてきている如月の方を見ると、如月は両手で缶コーヒーを持ち、うつむき加減で地面を見て歩きながら俺の話を聞いていた。


「卒業するまで、ずっとその中学校にいたの……?」


「いた」


「辛くなかった……?」


「べつに辛くはなかったよ。俺が如月にやったみたいに誰に対してもひたすら無視を貫いて、なにをされても無反応でいたら、つまらなくなったのか、じきになにもされなくなった。最後の一年は今の高校生活とさほど変わらない」


「それって辛いでしょ」


 如月が足を止めたので、俺も歩くのをやめる。


「独りになるのは辛いよ……」


 缶コーヒーを持っている如月の両手が微かに震えていた。

 中学三年の夏から約半年間、学校に行かずに同級生たちから完全に孤立していた如月だからこそ言える言葉だ。

 その辺の人が言うのとは重みが違う。


「夏波さんたちとまた一緒にいたいとは思わなかったの?」


「……思わないわけがないだろ。そんなことは何度も考えた。昔みたいに一緒にいられたらどれだけよかったかって今でも思うよ」


「なら――」


「でも」


 俺の声が如月の声を遮る。


「でも……もう、無理だろ……」


「……」


 如月は何も言えなくなった。

 もう、なにもかもが手遅れだ。

 俺の交友関係もこの最低な考え方もあんなことがあったあとでは、もう昔のように戻れるわけがない。

 未練なんて残したくないし、残すつもりもない。

 なのに、一人でいる時、ふとあの時のことが頭を過ぎる。

 思い出す度に後悔して、胸が痛くなる。

 あの日からずっとこれの繰り返しだ。


「もういいんだよ……。ああするのが最善だったと今でも思ってる」


 俺が選んだ道は間違ってるのかもしれない。

 だけど、全員と縁を切ったおかげでイジメは終わり、母さんも泣かせずに済んだ。

 あの時の俺の選択が最善だったのは間違いない。


「後悔がないわけじゃない。だけど、もう終わったことだ。如月が気にするようなことじゃない」


「……」


 如月は言葉が出ないのか、何かを考えているのかは分からないけれど、俯いたまま黙ってしまった。


「止まってないでそろそろ行くぞ。時間がなくなる」


 このままここで止まっていても意味がないので歩き始めると、如月もまた歩き始めて、俺の後ろをついてきた。


「……どこに向かってるの?」


「もうすぐだからじきに分かる」


 行き先は教えず、ただ歩いていく。


「なあ、如月」


「なに?」


「一つ聞きたいんだが、なんでお前はここまでしてくれたんだ?」


 如月はこれまでの約一年間。

 ほとんど俺の為に動いてくれていた。

 なんで如月がここまでしてくれるのか、如月の答えはなんとなく想定できてはいるが、俺はその理由を如月の口からどうしても聞きたかった。


「さっきも言ったでしょ。わたしがしたかったからだよ」


「だったら、お前は人助けがしたいのか?」


「そうだよ。一年前、三秋さんにやりたいことをやれ、って言われてから今までたくさん考えた。わたしのやりたいことってなんなんだろうって、何度も考えた。それで、多分わたしは人の為になることがしたいんだって思った。人が楽しそうに笑ってくれてるとなんだか嬉しい。少なくともわたしは自分の周りにいる人には笑顔でいて欲しい」


「人の為になることがしたい……ね……」


 最悪だ……。

 如月の言葉を聞いて、初めに何よりもそう思った。

 予想はしていたけれど、はっきりと言葉で言われると、如月の姿があの人と重なって見えてしまう。


「如月。一つだけ忠告しておく。人助けなんてするものじゃない。そんなの今すぐにやめろ」


「なんでそんなこと言うの……?」


「……知ってるからだよ」


 如月には意味がわからないであろう言葉と共に俺は足を止めた。


「着いたぞ」


「ここって……」


「ああ。俺たちがよく知ってる病院だ」


 俺のじいさんが入院していた場所であり、俺と如月の関係が始まった場所でもあるこの病院。

 俺たちにとっては最も馴染み深い場所だ。


「お前に見せてやるよ……」


 知っている人間として、俺は如月を止めなくちゃいけない。

 こんなにも優しい人間が不幸になる姿はもう見たくない。

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