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クズはクズらしく  作者: 夕町 迅夜
第三章
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旧友と原点

 自分の部屋でスマートフォンの電源を入れた。

 チャットアプリを開くと、画面上に友達登録されている人の名前がズラズラと表示されていく。

 登録されている人を全て合わせると合計百四人。

 このチャットアプリは如月とも何度かやり取りをしたあのチャットアプリと同じものだ。

 当時の俺には百人を超える友達があのチャットアプリに登録されていた。

 如月と友達登録した時に母さん以外の人が誰も登録されていなかったのは、俺が当時登録されていた友達を自分の手で一人ひとり消していったから。

 もう誰とも関わりたくなくて、自分の中で区切りをつける意味でもあった。



 *



「ハルくん!」


 朝、学校に登校して教室に向かって校内を歩いていると、後ろから声をかけられた。

 わざわざ振り向かなくても聞き慣れた声で、誰が声をかけてきたのか直ぐに分かる。

 五人グループの一人、紅高 夏波(くだか かなみ)という名前の女子生徒だ。

 この子と知り合ったのは五人グループの他の三人よりもずっと前。

 親同士の仲がよかったこともあり、幼稚園に入る前からの仲で、誰よりも長い間一緒にいる。

 いわゆる幼馴染だった。

 この子は俺のことを名字の春原の『春』を訓読みして『ハルくん』と昔から呼んでいて、俺も幼いからの付き合いで仲がよかったので、夏波の『夏』を取って『ナツ』と呼んでいた。


「待ってよ!」


 無視して、廊下を歩いていこうとすると、後ろから駆け寄ってきて、進行方向を(ふさ)いできた。


「ねえ、ハルくん大丈夫?」


「なにが?」


 どこか慌てた様子で心配してくる。


「噂で聞いたよ」


 ナツはそこそこ関係がある人とはこうして普通に話せるが、初対面の人にはかなり人見知りをする性格をしている。

 そのせいでナツは交友関係があまり広くない。

 というか、かなり狭い。

 友達とまともに呼べるのはおそらく五人グループのメンバーだけで、他に友達がいないのか他の同級生と仲良く話している姿を見た事が一度もなかった。

 だから、ナツは例の噂を聞きつけるのが他の生徒よりも遅かったのだろう。


「私にできることがあればなんでも言ってよ。助けになるから」


「……」


 今更遅い、と思った。

 無視をして、歩きだそうとする。


「待ってってば!」


 後ろから手を掴まれて引き止められる。


「っ……!」


 俺が振り向くのと同時。

 ナツは怯えたような顔をした。

 俺がナツを睨みつけていたからだ。

 睨みつけるつもりはなかったが、ナツの様子からして、俺はかなり酷い顔をしていたんだろう。


「……お前なんかになにができるんだよ」


 それが当時の俺の本心からの言葉だった。

 教師や生徒からの目、噂の規模、イジメの現状……。

 どれをとっても、ナツが手を差し伸べてくれた時にはもうどうしようもないところまで来てしまっていた。

 ナツが一人がいて、何かしたところで何も変わらない。

 役立たず、だとすら思ってしまった。


「もう、関わらないでくれ……」


「あっ……」


 ナツの掴んでいた手を振りほどいて、ナツとの関係はそれで終わった。

 元からお互いのクラスの位置が遠かったこともあり、前までは意識的にお互い会いに行ったりしていたが、それもなくなってしまえば会うこともなくなる。

 俺は心配して手を差し伸べてくれた幼馴染でさえも切り捨ててしまった。

 自分の意思でやっておきながら、自分を心底最低だと思った。

 これで人との関わりが完全に切れた。

 俺の友達は誰もいなくなった。

 教師も生徒も俺の味方をしてくれる人はもう誰もいない。

 あとはこの学校を卒業することになる約一年後まで母さんにこの現状を隠し通して耐えるだけでいい。

 俺が耐えてさえいれば母さんが泣くようなことにはならない。

 もう、母さんが泣く姿は見たくなかった。

 友達なんていらない。

 人が一番大切なのは自分自身で、自分を守るためなら他人なんてどれだけ深い関係だろうと簡単に裏切る。

 いつか裏切られて、自分が被害を被ることになるならそんなもの初めからなくていい。

 でも、俺も人なんだ。

 俺も自分のことが大切で自己保身のために人と関わるのを避けている。

 結局、俺のやってることは全部自分の為でしかなくて、その根本にあるものは多分アイツらと同じだ。

 人間は本当にどうしようもない。

 どいつもこいつも揃いも揃ってクズばかり。

 自分のやることにそれっぽい言い訳を付けて正当化して、他人を傷つける。

 人によってはそのことに自覚すらなく、自覚していても、その行動をやめる気がまるでない。

 結局、人は奥底では自分が大切で、それ以外はべつにどうでもいいと思っている生き物なんだろう。

 そして、それを表に出してしまうと叩かれるのを知っているから装い、綺麗事ばかりを並べ立てる。

 それが少なくとも俺が見てきた人間だ。

 本当にふざけるなよ……。

 そんなことなら初めから綺麗事なんて言うな。

 どうせ裏切るなら、初めからクズはクズらしく最低のままでいろよ。

 なんで優しくするんだよ。

 その方が裏切られた時にこんなにも傷つかなくて済むだろうが……。

 そう思う俺の脳裏には過去の思い出が巡っていた。

 幼い頃からずっと一緒に遊んできた友達との日々は本当に楽しかった。

 キャッチボールをしたり、鬼ごっこをしたり、ドッジボールをしたり、家の中でゲームをしたり……。

 学校でただ話しているだけでも、アイツらと一緒にいるだけで、それだけでなんだか本当に楽しかった。

 けれど、あんな現実はもうない。

 いや、初めからあんなのは全部嘘で塗り固められていただけで、元からなかったのかもしれない。

 もう、こりごりだ。

 友達に裏切られるのも、イジメにあうのも、責任を押し付けられて吊し上げられるのも、大人に叱られるのも、親を泣かすことになるのも……。

 本当にもう、こりごりなんだ。

 こんなことになるなら一人でいい……。

 こうして今の俺が出来上がった。

 これが俺と如月の決定的な違いだ。

 如月は決して捨てることだけはしなかった。

 たとえ、自分が病むことになったとしても責任を全て自分から背負い込んで、それをこれから先も持っていこうとしている。

 如月は背負っていくことを決めて、俺は捨てることを決めた。

 それは言い換えれば、如月は辛い過去に向き合い、俺は背を向けたことと同義だ。

 どちらの道が正しいのかなんてことは誰にも分からない。

 けれど、俺は如月のその生き方をどこか羨ましいと感じてしまった。

 なら、もう答えは出ただろう。

 俺があの時選ぶべきだったのはきっとこっちの道ではなかった――。

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