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クズはクズらしく  作者: 夕町 迅夜
第三章
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最低と屑人

「そして、わたしは健一くんと出会って今に至るってわけ」


 彼女の過去の話が終わった。

 たった十五分程度の話だったけれど、一時間以上こうして聞いていた気さえする。

 それだけ内容の濃い話だった。


「これがわたしと健一くんのおじいさんである三秋さんとの関係。健一くんがずっと知りたがってた、わたしが健一くんに関わろうとする理由だよ」


「……つまり、じいさんがしたことの恩返しに俺に関わったのか……」


「さっきも言ったけど、それはただのきっかけだよ。わたしがわたしの意思でやりたいと思ったから健一くんに関わったの。その結果として三秋さんの助けにもなってるってだけ」


「……馬鹿げてる」


「え……?」


「馬鹿げていると言ったんだ」


 これまで如月がしてきたことが爺さんの頼みだったからなのか、本人が言っている通り自分の意思なのかは分からない。

 けれど、どちらにしても如月がこれまでしてきたことは全て俺の為だったということになる。

 俺のせいで如月の人生を変えてしまった。

 その事実が俺にはどうしても耐えられなかった。

 他人の為に人生を削るのが正しいわけがない。

 その対象が俺なら尚更だ。

 俺にはそんなことをしてもらえる価値がない。


「とんだ無駄話だった」


 俺は座っていたベンチから立ち上がり、お通夜の会場に戻ろうと歩き出す。


「ちょっと待ってよ!」


 如月が腕を掴んできた。


「離せ」


「まだ聞いてない!」


「……は?」


 如月が急に突拍子もないことを言い出した。


「聞いてないってなにを……?」


「健一くんが人を避けようとする理由だよ。わたし、まだ聞いてない」


「なんで俺がそんなことをお前に言わなくちゃいけないんだよ。言うわけがないだろ」


 掴まれた腕を振り解こうとする。

 けれど、彼女の力が思ったよりも強く、なかなか振り解けない。


「約束したじゃん。わたしがなんで健一くんに関わるのか言ったら、人を避ける理由も話してくれるって」


「そんな約束をした覚えはない」


「ほら、三ヶ月前。遊園地の観覧車の中で」


「三ヶ月前……?」


 遊園地で最後に乗った観覧車の中での会話を思い出す。


『もう……終わりにしてくれないか?』


『え……』


『こうしてお前と遊んだり、学校で話すのを本当にもう終わりにしよう』


『分かってると思うけど、わたしは今まで通り話しかけるよ?』


『今後は無視する。前みたいに反応しないし、もう俺はお前とは一切話さない。無駄なだけだから俺に話しかけるのはやめた方がいい』


『ねえ、どうしてそんなに人を避けようとするの?』


『じゃあ、なんで俺にそこまでして関わろうとするのかを教えてくれ。そうしたら、答えてやる』


「あ……」


 思わず心の声が漏れてしまった。


「今、『あ……』って言ったよね?」


 腕を掴んでいる如月がニヤリと口角を上げ、眼差しを向けてくる。


「思い出したでしょ」


「あんなのを約束とは言わないだろ……」


 あの時はどうせ如月は俺に関わってくる理由なんて言わないだろうと思っていたからあんなことを言ってしまったが、まさかこうして追い詰められることになるとは思わなかった。


「いいから離せって」


「ダーメー!」


 如月の掴む手にさらに力が入り、離さないと言わんばかりに空いていたもう片方の手も俺の制服を掴んでくる。


「……」


「……」


 しばらく無言で睨み合った。

 如月は折れる様子がなく、両手で力いっぱい俺の腕と服を掴んでいるのでどれだけ振り解こうとしても振り解けない。

 このままではいつまで経っても(らち)が明かなそうだった。


「……分かった」


 もうこれで何回目だろうか。

 結局、俺がいつも通り折れてやるしかない。


「話すけど、後悔するなよ」


「後悔……?」


 公園内にある時計を見ると、まだ夜の七時を回ったところだった。

 これならまだ間に合うか……。


「少し歩きながらでもいいか?」


「うん。いいけど……」


 少し長くなる話なので、俺は公園内にあった自動販売機で微糖とブラックの缶コーヒーを一本ずつ買って、微糖の方を如月に渡した。

 少し前を俺が歩き、如月が斜め後ろからついてくる形で公園を出て、夜の街を歩き出す。


「如月。お前さっき、自分のことを最低だと言ったよな?」


 後ろを歩く如月の方へ振り返ることはせずに歩きながら話を始める。


「……うん。言ったよ」


「今でもそう思ってるのか?」


「思ってるよ。わたしは最低なことをした。これからもその過去は忘れずに背負っていくつもり」


「優しいな……」


「……え?」


 とても俺が言うとは思えないその言葉に如月が驚いているのが見なくても分かった。


「どこが?」


「協議中の怪我なんてただの事故なのに、それで陸上のチームメイトに迷惑をかけたと思って、そこまで自分のことを責めることが出来るところだ。そんなのなかなかできる事じゃないし、爺さんに助けられたからって恩返しまでして、実際にこうして今、俺と一緒にいる。こんなの誰がどう見ても、優しい人間だろ」


「そんなことないよ……」


 如月はとても優しい人間だ。

 少なくとも俺が出会ってきた人間でここまで優しい人はいなかった。


「本当に俺とは大違いだ」


 性別こそ男女で違うけれど、どうして同い年の同じ人間なのにここまで違うのだろうか……。

 先程の如月の話を聞いて、俺と如月には少しだけ似ているところがあった。

 けれど、俺と如月では根底にある部分がまるで違う。

 きっと、それによって俺たち二人が選んだ道がこうも真逆のものになってしまったんだろう。


「如月。お前が何と言おうと、お前は最低なんかじゃないよ」


 如月はチームメイトやコーチ、親御さんの期待とかその他諸々をアキレス腱断裂という完全な事故で裏切り、自分のことを『最低だ』と言って、精神が病むまで自分のことを責めた。

 そんなのが最低な人間が取る行動なわけがないだろ。


「俺の方が余程最低な人間だ」


 それに比べて俺はなんだ……?

 如月のように事故というわけでもなく、自分の意思で最低なことをしておきながら、こうしてのうのうと生きている。

 一番なりたくなかったはずの人間に俺は今なっている。


「俺は自分の為だけに周りの人間を傷つけてきた、どうしようもないクズなんだから」


 誰にも話すことは無いと思っていたけれど、如月にならいいだろう。

 これはお礼だ。

 この一年間、爺さんのために、俺のためにここまでしてくれた如月にはこれくらいのことは聞く権利がある。

 誰に対しての言い訳なのか、そう自分に言い聞かせて俺は語りだした。

 思い出したくもない……三年前に何があったのかを――。

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