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クズはクズらしく  作者: 夕町 迅夜
第二章
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夢路と非常

「……」


 朝、目が覚めると最近は見た夢の内容をはっきりと覚えている。

 その夢とは如月との最後の光景だ。

 遊園地の観覧車の中で自ら如月との縁を切ったあの光景をここ数ヶ月、何度も何度も夢に見る。

 あの時の感情を思い出して、その夢を見る度にいつも(うな)されて、目が覚める。

 何度も何度も同じ夢を見ているせいで日に日にあの時の光景の鮮明さが増している気さえする。

 如月と話さなくなってから三ヶ月。

 もう、それだけの時間が経った。

 もうすぐ春がやって来て、俺達は二年生に進級することになり、あのクラスもクラス替えによってあと数日程度で終わってしまう。

 これだけの時間が経てば、記憶から如月のことなんて消えるものだと思っていた。

 けれど、実際は今でも何度も夢に見てしまうほどに彼女のことを思い出してしまう。

 こんなにもあの時のことを夢に見るのはきっと俺が心のどこかであの時のことを後悔しているからだ。

 そのくらいのことは自分のことだから分かっている。

 けれど、俺はこの後悔が間違っていることも知っている。

 全部忘れるべきなんだ……。

 そんなことを例の夢を見る度にいつも考える。

 これではいつになったら忘れられるのか分かったものではないけれど、今はこうするしか方法がない。

 ベッドから起きて、時計を確認するといつも通り、短針が五の文字を指している。

 寝癖のついた頭をかきながらリビングに向かうと、母さんが珍しくもう起きていて、キッチンに立っていた。


「おはよう、ケンちゃん」


「おはよう。キッチンなんかでなにしてるの?」


「朝ごはん作ってるの。早く起きたからたまにはやろうかと思って」


 うちの家庭では母さんが仕事に行くのが早いので、一緒に食事をとるために俺も母さんに合わせて早めに起きるようにしている。

 普段は俺が母さんよりも少しだけ早く起きて朝食を準備していて、ここ数年は母さんがキッチンに立っている姿すら俺は見たことがなかった。

 母さんが朝食を作るなんて平日の昼間に家にいるよりも珍しいかもしれない。


「今日はテレビでも見て待ってていいわよ?」


「……じゃあ、シャワーでも浴びてくる」


 俺は特にやることがなかったのでサッパリするためにシャワーを浴びることにした。

 俺が数分程度の短いシャワーを浴びて出てくると、ダイニングテーブルには目玉焼きやスクランブルエッグといった、いつも俺が作っている朝食とほとんど同じメニューの食卓が並べられていた。

 いつも座っている椅子に腰を掛ける。


「どう?前よりも上手くなったでしょ?」


 目の前に置いてある料理を見ると、確かに前よりも作るのが上手くなっていた。

 前は目玉焼きやトーストを焦がしていて見た目的にも酷かったが今回は焦げているところは見当たらず、比較的上手く作れている。


「練習でもしたの?」


「私も成長してるのよ」


 どうだと言わんばかりに腰に両手を当てて胸を張って誇示してくる。

 手を合わせる。


「じゃあ、いただきます」


 俺はまずはスクランブルエッグを口に運んだ。


「……母さん」


「ん?なに?美味しい?」


「正直、不味い……。塩コショウ振りすぎてて辛い……」


「えー!?」


 スクランブルエッグ以外の料理も一口ずつ食べていき、味をみていく。

 母さんの作った朝食は見た目的には何も問題はないけれど、味の方は悲惨なことになっていた。

 サラダにはドレッシングがなにもかかっていなかったし、スープはお湯でも飲んでるんじゃないかと思うほど味が薄い。

 お世辞にも美味しいとは言えない残念な出来栄えだった。


「やっぱりダメかぁ〜」


「もっと練習しないと」


 落ち込んでいる母さんを流し見ながら、美味しくない朝食を口に運ぶ。


「不味いなら残してもいいわよ?」


「いや、いい。食べれなくはないし」


 この母さんの作った朝食を残して、また朝食を作り直す羽目になるのは正直面倒だったのでこのまま食べることにした。

 べつに食にうるさい訳でも無いので食べられればなんでもいい。

 そのままいつも通り適当な小話をしながら俺と母さんは朝食を食べた。





「ごちそうさまでした」


「お粗末さまでした」


 俺は最後に口直しとしてコップ一杯分のお茶を一気に飲み干して、手を合わせた。

 母さんは俺よりも少し早く食べ終わって、朝食で使った食器をキッチンで洗っている。

 母さんが家事をしているところは普段はなかなか見ないので違和感がすごい。


「それで?いきなり朝食なんて作ってどうしたの?」


「だから早く起きたからだって……」


「嘘でしょ?」


 なにも母さんが早く起きたのは今日が初めてというわけじゃない。

 そんなことは今までにも何度もあった。

 けれど、それでもここ数年母さんは朝食を作らなかったし、食器をこうして洗ったことは一度もない。

 いきなりそんな行動をとったのは何かがあったとしか思えなかった。


「……はい」


 母さんの目を真っ直ぐに見ると、ごまかせないと思ったのか諦めて素直に返事をした。


「なんで?」


「……その……」


 手元で食器を洗いながら話しずらいことなのかもごもごと言い淀む。


「……おじいちゃんのお見舞いに行ってあげて欲しいの」


「また?」


 またとは言っても、最後に祖父の入院している病院にお見舞いに行ったのは四ヶ月前に如月と会ったあの時だ。

 あの時にはもう俺の事は祖父の記憶からは完全に忘れられていたので、正直行きたくなかった。


「おじいちゃん、実はもう長くないんだって……。だから……ね?」


 なるほど……。

 つまり最後くらいは会っておけということか……。


「……分かった。今日にでも行けばいい?」


「私も行きたいから今週の土曜に一緒に行こっか」


「りょうかい」


 俺は確かに気は進まないが、べつに祖父のことが嫌いなわけではない。

 幼い頃によく遊んでもらった思い出はたしかに俺の中にはある。

 最後くらいは顔を見ておきたかったというのが本音だ。

 俺はこうして今週の土曜にもう行かないと思っていた病院に行くことになった。





 朝食を食べたあとはテレビで朝のニュースでも見て学校に行く時間になるまで適当に暇を潰した。


「じゃあ、行ってきます」


 玄関に向かおうと、廊下とリビングの境にある扉を開ける。


「あっ……」


「ん?」


 俺が出ていく寸前に母さんが何かを言おうとしたので立ち止まる。


「なに?」


「……最近、真冬ちゃんとは仲良くしてる?」


 俺が如月と縁を切ってからここ数ヶ月、如月と母さんは会ってないし、基本的に俺が如月の名前を出すこともないので心配になったのだろうか。


「学校では話したりはしてるよ。でも、もうクラスも変わっちゃうから話さなくなるかもしれないけど」


 これなら自然だ。

 クラス替えをきっかけに話さなくなってそのまま縁が切れることなんてよくあることだ。

 クラス替えが起こるまでのあと数日、母さんに俺と如月の今の状態がバレなければ何も問題はない。

 

「……そう」


「心配しすぎだよ」


 仕方がないことかもしれないけど、母さんは俺のことを気にかけすぎている。

 母さんとしては如月と仲良くしていて欲しかっただろうな……。


「じゃあ、行ってきます」


 そんないつもとは少し違った朝を経て、俺は学校へと向かった。


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