憎悪と本性
遊園地に如月と行ってからひと月が経った。
クリスマスが終わり、冬休みも終わり、年も明けた。
俺はこのひと月、如月とは一度も会話をしていない。
あれから数日は如月も粘り強く話しかけてきていたし、チャットアプリの方でもチャットがいくつも飛んできていたが、如月のチャットのアカウントをブロックして、俺が全てに無反応を貫いた結果、今では如月も話しかけてこなくなった。
このたったひと月で俺と如月の関係は学校で見かけるだけのただのクラスメイトになっていた。
これでいい……。
ただ如月と話すようになった少し前の状態に戻っただけだ。
おそらく如月のような人は俺の人生にはもう一生現れない。
これで一人だ。
「春原くん」
昼休みに本を読んでいると横から名前を呼ばれた。
顔を上げて横を見ると南谷が立っていた。
ひと月以上前に如月と一緒に話したあとは一度も話していなかったので、顔を見るのは久々だ。
「ちょっといいかな。出来たらついてきて欲しい」
南谷はいつもの笑顔ではなく、顔が強ばっていて口調も真剣な様子だった。
俺は南谷に連れられて生徒もほとんど通ることがない体育館の裏手に連れてこられた。
「単刀直入に聞くけどさ。真冬となにかあった?」
また如月か……。
この男の口から出てくるのはあいつのことばかりだな。
ここに連れてきたのもこの話を教室にいる如月に聞かれないためか。
「……なにかって?」
「真冬、少し前から様子がおかしいんだ。その頃からキミともいきなり話さなくなった。なにかあったの?」
「べつになにもないよ」
如月が今どんな様子なのかは知らないが、もう俺には関係がないことだ。
俺はもう如月の話をしたくなかった。
「もういいよね……」
「待て」
教室に戻ろうと歩き出すと、南谷の横を通り過ぎる瞬間、南谷に腕を出されて足を止められた。
「お前、いい加減にしろよ……」
とても南谷が言ったとは思えないほどドス黒い声とともに胸ぐらを掴まれた。
南谷の顔を見ると、誰が見ても明らかな怒りの感情が浮かんでいる。
「なんなんだよ、お前……」
「なにが?」
首がしまって苦しかったが、苦しそうな顔をせずに冷めた目をしながら普通のトーンで聞き返す。
「なんでお前なんかが真冬に気に入られてるんだ……」
南谷が俺に話しかけてくる時は必ずと言っていいほど如月もいる時だけだった。
つまり、南谷は俺に用があるのではなく、如月に俺のような変な虫がつくのを嫌がっていただけだったという事だ。
俺が如月と話しているのが、そこまで気に食わなかったのか。
この男が如月に対して恋愛感情を抱いているのかは知らない。
ただの友人として心配しているだけかもしれないが、どちらにしてもこんなのはただのヤキモチだ。
如月のことはもう話したくないと思っていたけれど、やっぱりやめだ。
「気に入られてたのかは知らないが、もう如月とは話さないから安心していい」
「どういう意味だ……?」
如月と縁を切れば南谷との縁も勝手に切れると思っていたが、このままだと下手したらこの男につきまとわれることになる。
ここで終わらせるべきだ。
「如月とは縁を切った。もう話さない」
「なんで……」
動揺したのか、南谷は俺の胸ぐらから手を離した。
俺は南谷から二、三歩下がって距離をとる。
「なんでもいいだろ、そんなのは。お前からしたら俺が如月の周りからいなくなってくれて嬉しいだろ?よかったな」
わざと舐めたような口調で南谷を挑発する。
「なんでそんな言い方ができるんだ……。真冬はぼっちのお前なんかにずっと話しかけてやってたんだぞ……」
如月が俺に対して何を思って話しかけていたのかは知らない。
ただぼっちの俺を可哀想だと思っていたからかもしれないし、もっと別の理由があったのかもしれない。
けれど、そんなのは縁を切った今ではどうでもいい。
「そんなこと頼んだ覚えはないし、正直うざくて鬱陶しかった」
如月の今までの行動を全否定するように罵倒していく。
その発言に南谷の眉が僅かに動いたのが分かった。
「ようやく縁を切れて嬉しいよ」
最後に清々しい笑顔を向けて言ってやった。
「クズだな……」
眉をしかめて、あからさまに俺のことを嫌悪しているのが分かった。
「自覚はしてる」
自分がクズな人間だということはとうに知っている。
俺はクズでどうしようもない、自分のことしか考えていない自分本位の人間だ。
そしてそんな自分を変える気なんてものはさらさらない。
だから、俺はクズなんだろうな……。
「なんでこんな奴に……」
「もういいだろ」
俺は如月とはもう話さない。
南谷とは利害が一致しているので、教室に戻ろうとすると、肩を掴まれて止められた。
「もう真冬に近づかないっていうのは本当だな?」
「何度も言ってるだろ。話しているところを見たら殴り飛ばしていい」
「分かった……」
そう言うと南谷は掴んでいた肩を離してくれる。
「嘘はつくなよ……?」
そう言い残して、南谷は教室へと戻っていった。
これで南谷が俺に関わってくることはおそらくなくなった。
これで俺は本当に一人に戻った。




