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クズはクズらしく  作者: 夕町 迅夜
第二章
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脅迫と不快

 

『ただいま電話に出ることが出来ません……』


 耳に当てているスマートフォンからそんな無機質な音声が聞こえてくる。


「出ろよ……」


 如月が家に来た日の翌日、俺はスマートフォンを片手にとある駅に向かって歩いていた。

 昨日、結局あの後は如月と母さんに無理やり遊園地に行くことに決められてしまい、その時に集合場所として決められた駅に向かって今は歩いている。

 昨日、如月が帰ったあとに遊園地に行く件についていろいろと考えたが、やはり全く行く気がしなかったので、母さんにはバレないように如月に断りの連絡をしようと昨日から何度もこちらから電話をかけているのだが、如月は一度も電話に出ず、断りの連絡が結局出来ないまま今日を迎えてしまった。

 このまま集合場所である駅に行かないという手もあるが、彼女のことだ。

 俺が来るまで本当にずっと駅で待ってそうな気がするし、怒って前のようにメッセージを大量に送り付けられても俺が困る。

 俺は行きたくない気持ちを引きずりながらようやく集合場所である駅に到着した。


「あっ!やっと来た!遅いよー」


 待ち合わせ場所に着くと、直ぐに如月がこちらに気がつき、手を挙げて場所を教えてくる。


「遅くはないだろ。むしろ、時間ピッタリだ」


 如月に近づき、スマートフォンのロック画面を見せて、現在の時刻を確認させる。

 集合時間になっていた九時半ピッタリだ。


「こういう時は集合時間の十分前には来るものでしょ?」


「じゃあ、なんのための集合時間なんだよ……」


「んー……目安?」


「その目安いるか?」


「確かにいらないかもね」


 そんなどうでもいい会話を少しだけする。


「それじゃ、そろそろ行こっか」


「ちょっと、待て」


 雑談が一区切り着いたところで如月は改札に向かって歩き出したので、呼び止める。


「ん?どうしたの?」


 如月は足を止めてこちらに振り向いた。


「やっぱり、行くのやめないか?」


「えー!?ここまで来て!?」


「電話は何度もした。出なかったお前が悪い」


 スマートフォンのの画面に何度も電話をしたという証拠の履歴を見せる。


「このチケット、今年までは使えるから友達と行くなりして自由に使ってくれ」


 ズボンのポケットの中に入れていた遊園地のチケットを取り出して、如月に差し出す。

 これを如月に渡して、夕方まで適当に外で時間を潰してから家に帰れば、母さんも俺が遊園地に行ったと思うだろう。

 そうすれば、俺は行きたくもない遊園地に行かなくて済むし、如月も仲のいい奴と遊園地に行ける。

 ウィンウィンのベストな結果だ。


「えー、本当に行かないの?」


「行かない。人混みは嫌いなんだよ」


 行きたくない理由はそれだけじゃないが、とにかく遊園地には行きたくない。


「じゃあ、お母さんに健一くんが行かなかったこと言うよ?」


「……卑怯だぞ」


 脅してきた。


「ふふっ、行こっか」


「……」


 そう言って、こちらに背を向けて、再び改札に向かって歩き出す。

 俺は如月を説得するのを諦めて出していたチケットをズボンのポケットに戻し、如月の後に続いて改札に向かった。






「わぁーっ!」


「うわぁ………」


 なぜ文字的には大して変わらないこの二つの言葉が言い方しだいでここまで真逆の意味になるのか。

 溢れかえるほどの人混みを久々に見て心底嫌そうな顔をしているであろう俺と何がそんなに楽しいのか先程からずっと満面の笑みを浮かべている如月。

 第三者から見れば真逆のふたりだと思われること間違いなしだろう。

 遊園地の中は大量の人で溢れかえっていた。

 ここ数年こんな人混みに来ることもなかったのでこの中に一日中いるのかと思うと気が滅入る。


「ねえ、どれから乗る?」


「どれでもいいけど、初めは楽そうなやつからで頼む」


 初めからキツイ乗り物に乗せられると、精神的に疲れるのでやめてもらいたい。


「んー……じゃあ、ウェーブスインガーにしよ?」


 如月は少し考えたあと、聞きなれないアトラクション名を口にした。


「聞いたことないな……。なにそれ?」


「いいからいいから」


 俺は如月に長袖の袖口を引っ張られて、無理やりその聞きなれないアトラクションに連れていかれた。





「お前……アホなの……?」


 数十分後、俺は外にあったパラソル付きのテーブルでぐったりとしていた。

 こうなった原因は如月の言ったウェーブスインガーという名前のアトラクションに乗ったからだ。

 ウェーブスインガー、簡単に説明すればそれは回転ブランコのことだった。

 そう、遊園地でグルグルと回っているあれだ。

 楽なやつで頼むと言ったのに何故あんなにキツイのに乗せるんだ、こいつは……。

 目の前に座って、持参したペットボトルのお茶に口をつけている如月を下から睨みつける。


「ごめんって。そんなにキツかった?」


「当たり前だろ……」


「ただのブランコだよ?風も気持ちよかったでしょ」


「あんなの俺の知ってるブランコじゃない……」


 初めて乗ったが、高所なのに足元に何もないし、目が回るしで風どころじゃない。

 個人的にブランコがちぎれそうな気がして、ジェットコースターよりも怖かった。


「とりあえず、ご飯食べようよ」


 このパラソル付きのテーブルは遊園地内にある飲食店の目の前にあるので、少し時間的には早いがついでに昼食を済まそうというわけか。

 周囲にいる人たちも少し早めの昼食を食べていた。


「俺は飲み物だけでいい……」


 俺は先程の回転ブランコで気分が悪くて、今は何か物を食べる気にはなれなかった。

 如月見ると自分の持っていたペットボトルをじっと見て何かを考えていた。


「これ、よかったら飲む?」


 そう言って、手に持っていたお茶の入ったペットボトルを差し出してきた。

 それは今さっきまで如月が口をつけて飲んでいたものだ。


「飲みさしなんているか。食べ物を買ってくるついでに何か買ってきてくれ、頼む」


 本来なら漫画のように照れながら断ったりするものなのかもしれないが、今の俺は気分が悪いほうが勝ってしまっていてそれどころじゃない。


「でも、並んでるから時間かかるよ?」


 心配そうな顔をしてそう言ってきた。

 確かに飲食店の前にはアトラクションよりかは明らかに少ないが、行列が出来ている。

 彼女なりに気を使ってくれたのだろうか。


「別にいい。それくらいなら待つ」


「じゃあ、なにがいい?」


 飲み物の種類を聞いてくる。


「任せる」


「それが一番困るんだけどなぁ……」


 そう言いながら、飲食店の行列に並びに行った。

 俺はテーブルに顔を横向きに置いて、テーブルに体を預ける形になった。

 いつも学校の机で寝ている時と似たような体勢でこうしている方が楽だった。

 横向きになった視界に多くの人の姿が入る。

 小さな子供のいる家族、お互いの手を繋いで歩いている若いカップル、学生時代の思い出づくりで来ている高校生の集団。

 こういう所に来たのは数年ぶりだ。

 最後に来たのは確か中学一年の時だったか。

 視界に入った中学生の集団を思わず昔の自分と重ねて見てしまう。

 楽しい素敵な思い出とはとても言えないが、あの頃はよかったな……。


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