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クズはクズらしく  作者: 夕町 迅夜
第二章
13/41

誤解と虚言

 

 休み明けの月曜日。

 ついに予想していた通りの面倒事が実際に起こった。


「春原くん、ちょっといいかな」


 いつも通り、机に突っ伏して寝ているとそんな言葉と共に肩を指でつつかれて起こされた。

 顔を上げると、目の前に立っていたのはこの前俺に握手を求めてきた、如月の友人らしい南谷とかいう名前の優男(やさおとこ)だ。

 顔を上げた瞬間、何人かのクラスメイトの視線がこちらに向いているのが分かった。


「なに?」


 この状況からして十中八九、例の噂についてのことだろうと思ったが一応聞き返す。

 寝ぼけた目を(こす)りながら教室内に如月の姿がないことを確認する。

 わざわざ如月がいない時を見計らって俺に話しかけてきたのだろうか。


「教室だと少し話しにくいことだから、悪いけどついてきてくれない?」


 さすが優男。

 教室で噂のことを出せば、現に今も何人かの生徒がこちらを見ているように注目されるのは明らかだ。

 おそらく、クラスで目立たない側の人間である俺のためにわざわざ気を使ってくれているのだろう。

 けれど、そんなのは余計なお世話だ。


「面倒だからここで話してよ」


 俺は教室でその話をむしろしてもらいたかった。

 多く人間が聞いている場で誤解を解ければ、噂をいっきに消すことが出来るかもしれない。


「キミがいいならべつにいいんだけど……。噂のことは耳にしてる?」


「なんのこと?」


 俺はわざと知らないふりをした。

 南谷にひとつひとつ言葉にして、噂になっていることを改めて順を追って説明させる。

 これはこの話が例の噂についての話なのだと、こちらを見ているクラスメイトたちにアピールするためであり、噂の内容についての確認作業だ。


「これだよ」


 そう言って、先週に如月に見せてもらった画像と同じものを同様に南谷もスマートフォンに表示させて見せてくれる。


「この画像が出回って、二人が付き合ってるんじゃないのかって、ここ一週間くらい噂になってる」


「僕と如月さんが?」


「そうだよ」


「それが気になって噂が本当かどうか代表して南谷くんが確かめに来たの?」


「まあ、そうだね」


 こんなにも人当たりの良さそうな優男だ。

 きっとクラスメイトたちからの信頼も厚く、頼られる存在なのだろう。


「もしかして、南谷くんも僕と如月さんが付き合ってると思ってる?」


「この前、二人で親しげに話してたから付き合っててもおかしくはないかなってくらいには思ってるよ」


 おお……。

 この優男にはあの会話が親しげに見えたのか……。

 俺の記憶違いでなければ、あの時は確か、如月に「どけ」とか言って軽い喧嘩みたいな雰囲気になっていたと思うのだが……。

 まあ、とにかく今はそれは置いておこう。

 色々と誤解をとかなければ。


「結論から言って 、付き合ってなんていないよ。如月さんも否定してたでしょ?」


「確かに否定してたけど、本当に?」


「嘘ついてもしょうがないでしょ。僕みたいなヤツが如月さんみたいな人気者にこんなありもしない噂で迷惑かけるのは悪いし、これ以上噂をするのはやめてあげてよ」


 俺は南谷に噂を止めてくれるように頼む。

 南谷にはこうしてクラスメイトから頼まれて噂の真偽を確かめに来るほどの周囲からの信頼がある。

 この優男の口から噂の誤解を解いてもらえれば、俺や如月が言うよりも圧倒的に説得力がある。

 上手くいけば、噂が早く収まるかもしれない。


「じゃあ、二人でホームルーム前に帰ってこんな時間までなにしてたの?」


「え、確かに俺は帰ったけど、如月さんまで帰ったの?」


「知らないの?」


「知らないよ。一緒に帰ったわけじゃないし」


「じゃあ、この写真は?」


 南谷は自分の手中にあるスマートフォンに表示されている画像に目を落としながら言う。


「これは夕方頃に暇で出歩いてたら、如月さんと道で偶然会って話してただけだよ。如月さんの家が近かったから、なんだか俺が如月さんを送り届けたみたいな感じで撮られちゃってるけど」


「そうなの?」


「そんなに信じられないなら、如月さんにも聞いてみなよ。同じことを言うだろうからさ」


 如月には予め今俺が南谷についている嘘の内容をチャットの方で伝えてある。

 俺が夕方頃に適当にふらついていたら、偶然如月と出会って話したところを誰かに撮られた。

 俺が私服を着ているのは家にいたからで、如月が制服姿でリュックを背負っているのは外で夕方になるまで暇を潰して遊んでいたから。

 そういう設定にしてある。

 誰かに何を聞かれても俺と如月はこの嘘の設定に基づいたことしか話さない。

 二人が同じことしか話さなくて、その話に矛盾がなければ、人はそれが嘘だろうと簡単に信じる。

 人とはそういうものだ。


「……」


 南谷は俺の言うことが、そこまで俺が信じられないのか、疑いの目を向けてくる。

 ここで少しでも逸らしたり、動揺したら嘘だと思われるかもしれないので、俺は意識して南谷の目を見続けた。

 数秒ほどで南谷の方が俺から目を逸らす。


「分かったよ。なんか色々誤解してたみたいでごめんね」


 どうやら一応信じてもらえたようだ。


「べつにいいよ。ただ、噂がこれ以上拡散しないようにできるだけみんなにも言っておいてくれると助かる。さっきも言ったけど、如月さんに悪いからさ」


「言っておくよ。わざわざありがとうね」


 そう言って、俺に(さわ)やかな笑顔を向け、クラスのみんなの元に戻っていった。

 あれは危ないな……。


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