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シロツメクサが咲いたら

作者: 芹澤路架

理香と洸は、幼なじみだった。

現在、二人が通ってる高校も同じだった。

理香と洸には、共通した思い出が沢山あった。

誰が見ても理香と洸は付き合ってる恋人のように見えていた。


そんな日々が続いてたある日、藤堂塔子は、転校してきた。

理香と洸のバランスが崩れてきたのは、それからだった。

塔子は、ぐいぐいと洸に近寄っていった。

塔子が洸と学校帰りも一緒になることが増えた。


理香は一人寂しく帰ることが増えていった。


ある日のこと、クラスメイトが「塔子」についておかしな事を言い始めた。

クラスメイトの一人が、一階の靴箱の玄関の場所で塔子が居たという話に別のクラスメイトが、同時刻に三階の美術室で塔子を見かけたというものだった。

昼休みの女子の他愛のない会話のようにも思えたが、ここのところ、塔子について色んな話を聞いてた理香は考え込んでしまった。



塔子の居ない日、洸を見かけた理香は近寄って言った。

「私、藤堂さんて、未来から来たんじゃないかと思うの。」

洸は、「えっ?」と理香に聞き返した。

「藤堂さんは、同じ時間に違う場所にいることが出来るんだもの。」

今までの見かけたと言ってた友人の言う話を洸に話した。

洸は、「そんな事が出来るなんて。見間違いじゃなくて?」

「藤堂さんは、洸の事を以前から知ってるみたいに感じてた。洸の好きなものとか、よく知ってたし。

以前からの知り合いのように近づいてきたように見えたわ。」

洸は、理香の話を聞きながら「そうかなあ」と考え込んでた。

「洸がコーヒーに砂糖を入れないし、ミルクも入れない、ブラックが好きだとか・・・」

「それって、結構、ブラック好きとか、沢山居ると思うけど?」

「細かく、あげるとキリがないほどなの・・・。何もかも、藤堂さんは以前から洸の事を知ってたみたいなんだもの」

理香は、あれやこれや細かく洸に話した。

「僕には、分からないな、それだけだと・・・。」


そんな二人のやりとりを物陰から見てた塔子は、明くる日洸を呼び出した。

洸を呼び出した塔子は、誰も入らない準備室で

「洸は、理香とは、結婚出来ない。」と言った。

「なぜ、そんな事を言うんだ。」という洸。

「理香のこと、好きなんでしょう?」塔子が聞いた。

「どっちだっていいだろ?」洸が塔子に言う。

「君には関係のないことだ。」


「理香は・・・。理香は・・・。」塔子は思い詰めたように呟く。

洸は、塔子の唇が動くのを待った。


「理香は・・・。」塔子は、やっと重い口を開く。

「理香は、アンドロイドよ。」塔子は思い切ったように言う。

その言葉を聞いて

「そんな馬鹿な・・・」洸は理香を思いだしてつぶやいた。

(理香がアンドロイド?そんなわけがない。僕たちはずっと小さい頃から一緒だった。)

ふと思い返し、理香との思い出を過去から辿っている洸だった。


「ずっと僕たちは小さい頃からいつも一緒だった。お互いの変化なら自分たちが一番分かってる。」と洸は塔子に言い放った。

「理香の両親に聞けばわかるわ」塔子は言った。

(理香の両親に聞けと?)洸はその場所から駆け出していた。


ピンポーン。理香の家。

ドアを開けたのは、理香の母親だった。

「洸くん、どうしたの?」

「すみません、遅くに。ちょっとお聞きしたいことがあって・・・。」

「どうぞ、中へいらっしゃい。」

理香の母親は、洸を家の中に招き入れた。

「ありがとうございます。」

「そんなあらたまって。小さい頃から、来てたんだから、どうぞ、座って。」

理香の母親は、キッチンでお茶の準備をしながら、話してた。

「今日は、理香は、居ないんですか?」

コーヒーを入れたカップを持ってテーブルの上に置いた理香の母親は、

「理香は、ちょっと風邪を引いたので病院に行ってるの。」

「病院ですか・・・。」

(病院に行くんなら、アンドロイドじゃないだろう。塔子が嘘をついたんだ)と思った。

「そう、季節の変わり目ですからね。私たちも気をつけないとね。」

「そうですね。理香は風邪を引いたんですね。ちょっと安心しました。

「そうなの。心配をして来てくれたのね。」と理香の母親が言った。


「理香がアンドロイドなんて・・・。」と洸がふと呟くと理香の母親は動揺したように聞き返した。

「誰がそんな事を?」

「えっ」と洸は驚いて見上げると

理香の母親が困ったという感じで固まってた。

洸は、

「知人というか同級生ですけど、転入したばかりの・・・」

理香がドアを開けて「ただいま」と入ってきた。

「私、アンドロイドなの?ママ?」理香が洸の前で自分の母親に聞いた。


「そんなわけないでしょ!」と理香の母親はピシャリと言った。

「ママ?ママ、変ね。」と理香が言った。


「洸?誰が私のことをアンドロイドだって言ったの?藤堂さんが言ったの?」と理香が洸に問い詰めた。

「そうだ。」

理香は、それを聞くと部屋から出ていった。

「理香?理香」と母親は立ち上がって理香を呼んだ。

「帰ってきたと思ったら・・・。」

理香の母親はうつむいていた。


二人のやりとりを見て洸は、(やはり、理香はアンドロイドなのか?そんな馬鹿な・・・)

ふっと記憶がよみがえった。

そういえば、中学の時に理香が長く学校を休んでいたことがあった。あれは・・・。

洸は、自分の中にある記憶を一つ一つ拾い集めるかのように辿っていった。


「おばさん、確か、理香は中学の時に交通事故で長く入院してましたよね?」

「えっ?そ、そう、そうなの」と消え入りそうな声で話した。

「洸ちゃん。あの子は意識不明になってしまって、そして・・・」

そこに理香の父親が仕事から帰ってきたようで部屋に入ってきた。

「洸くん、理香はアンドロイドだ。」


「洸君、理香はアンドロイドだ。」

理香の父親にそう、はっきりと言われてしまった。

今までの数年間の思い出は何なのかと洸は思った。

「理香を死なせたくなくて、アンドロイドとして生かせる道を選んだ。理香の記憶をすべてチップに入れてアンドロイドに埋め込んだ・・・」


「そんな事が・・・」洸は愕然とした。


「そして私たち夫婦もアンドロイドなんだ。今日、理香が行った病院は、風邪ではなくメンテナンスを受けに行った研究所。私たちも定期的にメンテナンスを受けているんだ。あの交通事故の日、私が運転していて、家族三人とも意識不明の重体になったんだよ。」


「えっ・・・」理香の家族全員がアンドロイド?その言葉に洸は動揺した。

「僕、理香を探しに行きます。理香は・・・」

「理香は自分がアンドロイドだと言うことを知らなかったんだ。」と理香の父親が言った。


「では・・・」と洸は軽く会釈して理香の家を出て、もう暗くなった夕暮れの道に飛びだした。

キッーキーと車が洸の体に触れた。道路の上に落ちてく体、酷い痛みが走ったが意識を失った。

「洸を助けて、お願い」理香の声が聞こえた気がした。



長い長い眠りについた気がした。

小さい頃、理香と遊んだ川沿いの近くのまだ稲を植えてない田畑だった。

理香がレンゲソウを摘んで花かんむりを作っていた。

僕は、その横でレンゲソウを摘んでは、理香に渡していた。

理香は、シロツメクサが咲いたら、僕にシロツメクサの花かんむりを作ってくれると約束してくれた。

シロツメクサが咲いたら。


僕は何か月か昏睡状態でやっと目覚める時が来た。

顔に暖かい陽の光が差し込んでるのを感じた。

「どうかね。陽の光が分るかね」

医師がたずねた。いや、医師では無かったのかもしれない。

「はい。」

洸は静かに目を開けると体は動かせなかった。

「この器具はいつ取り外せるんですか?」

大きな器具に体が覆われていた。

「君は選ばなければならない。幸い、君の脳は助かった。しかし、体は全ての機能を失った。君の脳もあとどの位もつか分からない。君は、このまま死を迎えるか?アンドロイドとなって生きる道を選ぶか?」

医者なのか、研究者なのか、分からない人がそう言った。


(僕がアンドロイドになる?)


僕は眠っていた間に見た夢を思いだしていた。

理香が花かんむりを作ってくれると約束したあの川沿いの記憶を。


目が覚めると僕は、アンドロイドになっていた。

理香が涙は流してないけれどくしゃくしゃになった顔で僕の横に居てくれた。

理香にそっと手を伸ばした。

「理香。あの川沿いに行ってシロツメクサの花かんむりを作ってくれるかい?」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 理香がアンドロイドと読んだ所はほーん思っただけだったねですが、両親がアンドロイドで『えぇっ!?』っとなって、洸がアンドロイドになって((((´д`;))))となりました [気になる点] 塔…
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