第2話:流れ星
『・・・神々はその生き物に、もうひとつの世界を管理させました。生き物はその世界でよく増え、よく働きました。しばらく経って、神々はもうひとつの世界を訪れました。ぐるりと世界を見て回って、神々は言いました。“別荘はまだ完成していない。引っ越すには早すぎたようだ。しばらく時間を置いて、また来よう。”そうして再び、去ってゆきました。 ・・・』
はっと目が覚めると、いつもの部屋にいた。久しぶりに幼い頃の夢を見たようだ。頬には涙が伝っていた。
アロンが村を出てから何年がたっただろう。星の秘密を知るために旅に出る、きっとすごいものを見つけて来るよ。そう目を輝かせて言った、それが最後に見た姿であった。彼は今、どこで何をしているのだろう。
突然、ドアがノックされた。
「ダリアおばあちゃん!森の方から誰かが来たよ。」
私は涙を袖で拭い、起き上がった。ドアを開けると、孫のロゼと見知らぬ男が立っていた。男は言った。
「村々をまわって旅をしています。この村にしばらく泊めてもらいたいのです。」
この村に旅人がやって来るのは久しぶりだ。私はその旅人を食卓に案内し、軽い食事を出した。空腹だったのか、旅人は夢中で食事を平らげた。
旅人はアルソンと名乗った。森を抜けて、山を越えたところにある村の出身らしい。怪しい人物ではなさそうだ。隣に空いている小屋が一つあったので、そこに泊まってもらうことにした。
夕方、ロゼと共に、神殿に火を灯しに向かった。すると、崖の方に旅人が立って、空を見上げている。
「何を見ているのか?」
「赤い星を見ているのです。この村は、星が綺麗に見えますね。あれが近づいてくるのも、もうじきでしょうか…」
「もうじき!私が子供の頃に見たあの星かしら。」
「きっとそうでしょう。私の父も見たことがあると言っていました。ずっと向こうの大きな村を訪ねたとき、今年の冬に近づくだろうと教えてもらったのです。」
その村でもまた、あの星は神聖なものなのだろうか。どうしてだか、人の心を掴んで離さないようだ。
旅人はだんだんとこの村に馴染んでいった。魚とりが上手いようで、夕方になると村の子供たちと一緒に川に行っていた。その魚を時々持ってきて、果実と交換していった。
1ヶ月ほどたったある日の昼、散歩をしていると、神殿の鳥の様子がおかしいのに気づいた。神の世界が近づく日だ。私は旅人に知らせた。
「あなたの言った通り、星が近づいてくるようだ。おそらく今日だろう。神殿の鳥が鳴くと神の世界がやってくる、この村にはそういう言い伝えがある。」
「聞いたことがあります。たしか幼い頃、父から...」
「父親の名は何という?」
「アロンといいます。この村はもしかして...」
...このようなことがあるのか。これはきっと、神が導いたものだろう。
アロンは旅をして見つけた村にとどまり、そこの村人となったようだ。その息子が、星の秘密を探す夢を引き継いだのだ。
私は神殿に入り、神々に感謝を言った。
夕方になって、村の人々を崖の方に集めた。そうして皆で東の空を見上げた。日が暮れてきて、赤い星がどんどん大きくなり...徐々に青い大きな星が浮かび上がってきた。
誰かがあっと指をさした。小さな流れ星が、いくつか尾を引いて飛んでいる。そのうちの1つが、炎を纏いながら、下へ下へ、落ちていき......崖の下で、大きな音がした。
朝、崖の下を覗いてみると、沢山の貝や流木が流れついていた。崖からやや離れた海岸を見ると、大きな鉢状の穴があった。昨日の音の正体はこれだったのだ。
海の方に降りて調べてみる、旅人はそう言い残し、去って行った。