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連星  作者: トリル
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第1話:もうひとつの世界




 僕とダリアは眠れない夜、母さんにいつものお話をねだったものだった。


 『・・・ある日、神々は今いるところのほかに、もうひとつ住むところを望みました。そこで、神の世界に似せて、もうひとつの世界をこしらえました。神々は、自分たちの姿に似せて作った生き物を住まわせました。・・・』






 「おいアロン! かかってるぞ!」

 そう言われて僕は、慌てて竿を引いた。青い大きな魚が宙を舞い踊った。

 「諦めず来てよかったな、昨日も一昨日も釣れなかったから...」

 一匹かかったのだからまた釣れるだろうと、僕は意気込んで水面を見つめた。しかし、待てども待てども糸はぴくりともしない。

 「崖を降りて海に行けば、もっと大きなのがたくさんいるだろうになあ。」

 「馬鹿馬鹿、あんなところ僕らには降りられやしないよ。それに降りたところで、どうやって戻ってくるんだい?」

 「そうだなあ...もう今日は帰ろうか、また大人たちにがっかりされちゃいそうだけど。」

 川で魚をとってくるのは僕たち男の子の役目だ。いつもは十も二十も釣って持って帰れるのに、ここ数日魚がちっとも泳いでいない。



 家に帰ると父さんが食事の用意をして待っていた。

 「おかえりアロン。今日は何匹だい?」

 「今日は一匹だけだよ。」

 「そうか...村の男たちも、近頃森から動物たちが姿を消したと言っていたよ。どうしたものか...」

 「ところで、ダリアは?」

 「神殿に火を灯しに行ったよ。もうじき帰ってくる。」

 去年の冬に母さんが病で亡くなってから、神殿の火を絶やさぬよう守るのは、ダリアの役目となった。神聖な神殿に入ることができる者は、この家の血筋に限られる。今は、村の長である父さんと、その実娘であるダリアだけだ。

 僕はこの家の血をひいていない。実の両親は僕の幼いころに亡くなり、孤児になった僕を村長家が引き取ったそうだ。


 

 しばらくしてダリアが戻ってきて、三人で食卓を囲んだ。果実の籠には林檎と梨、木皿にはウサギとガゼルの干し肉、壺には貝のスープ。いつもの夕食だ。僕は籠から林檎を取って齧った。ダリアも林檎を手に取るが、口にしようとしない。

 「どうしたダリア、食欲がないのかい?」

 「小鳥が心配なの。さっき、ずっと変な鳴き方をしてた。」

 小鳥というのは、神殿の前で飼われている赤い鳥のことだ。

 「変な鳴き方っていうのは?」

 「崖の方の空に向かって、変に高い声で長く鳴くの。犬の遠吠えみたいに。」

 それを聞くと父さんは、腕を組み、深刻な顔をして何か考え始めた。

 「私のおじいさん、つまりおまえたちのひいおじいさんが、昔言っていた。神殿の鳥が崖に鳴いた日、神の世界を見た、と...」

 「神の世界?母さんのお話と一緒だ。」

 「神殿で何か起こっているかもしれない。アロン、ダリア、一緒に行こう。」

 僕は齧りかけの林檎を置いて、急いで外に出た。日はもう暮れかかっていた。僕らは夕日を背にして、崖のそばの神殿に向かった。



 神殿に近づくと、ピーーーピュロローーと鳴き声が聞こえてきた。入口に吊り下げられた竹のかごを見ると、赤い鳥が崖の方の網目にしがみつき、嘴を外に突き出すようにして鳴いていた。

 「これは何かあるな。神殿の火を見てこよう。アロン、ちょっと待っていてくれ。」

 父さんとダリアは、灯りを持って神殿に入っていった。



 2人を待ちながら、僕はまた鳥かごを見ていた。鳴き声はどんどん大きくなっていく。僕は鳥の向いている崖の方を見た。東の空はもう暗くなっていた。

 ふと、赤い一番星を見つけた。ちょうど小鳥の羽と同じ色である。鳥はこの星を見て鳴いているのだ。そう思い、赤い星を見続けた。すると...その星が、段々明るく、大きくなっているような感じがした。

 僕は見間違いかと思い、瞬きをして目を擦った。その間にも星は、どんどん明るく、大きくなっていく。やがてそれは、夕日ほどになった。



 眩しくて手を翳そうとして、さらに奇妙なものに気づいた。赤い星の前に少し重なるようにして、巨大な影があったのだ。夕日よりもずっと大きな、青くて丸い影。中には、鮮やかな緑や白の模様が浮かんでいた。

 僕はその美しさに釘付けになって、ふらふらと崖の方に歩いて行った。恐怖は感じなかった。ただ、ああ、綺麗だな、綺麗だなと思いながら歩いていた。






 「アロン!アロン!!」

 そう呼ばれる声で、僕ははっと正気に戻った。足元を見ると、崖の一歩手前まで来ていた。崖の下から、ざぶんと海の音が聞こえた。

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