夢の始まり
今回は少し多めです。8000文字程度あるので、お時間の無い方はご注意下さい。
魔石七つ分の神聖の魔力を一点に受けた事により、ジードはさほど痛みを感じる暇もなく、一瞬にして意識は断絶する事となった。
そしてそれは、その身に巣くう狂化の呪いにとっても、如何ともし難い程に痛烈な一撃であったのは言うまでもない。
「んだよおい、情けねぇ奴だと思ってたけどよぉ、案外見れるところもあんじゃねぇか……!」
事の一部始終を観察していたジルヴェルトが、既に意識の無いジードに賞賛を送る。ジードの決断が余程意外だったのだろうか。修行をつける張り合いがあるとわかった喜びの中にも、隠しきれない驚きが混在しているのが見て取れる。
一頻り愉悦の眼差しを送ったジルヴェルトの視線は、少年の胸元にある刻印へと移る。
ジードが気を失って間もなく。しぶとく居座り続けた呪いの刻印は、流石にもう堪えきれないと言わんばかりに身体を飛び出した。
ジードの身体から抜け出た呪いは、豊満な悪意を含んだ負の魔力として、黒い瘴気の類となり現出を果たす。
「まったく、随分と遅いお出ましだこと」
カミラは漸く姿を現した呪いを見据え、皮肉たっぷりに吐き捨てると、棚の上に置いてあった空の魔石を手に取る。その後間もなく、瘴気のまま具現化するに至っていない呪いに向けて、勢い良く投げつけた。
意志はあっても知恵はないのか、自身に接近する新たな器の存在を感知した呪いは、食らいつかんばかりに空の魔石へと飛び掛かる。
見る見る内にその色を禍々しい黒へと変えていく魔石。
それは魔石が呪いを吸収しているのか、呪いが魔石に取り憑いているのか、はたまた両方か。
カミラが魔石を投げつけてから、僅か二秒足らずで呪いの瘴気は消え失せた。後に残った魔石は軽い音を立て、床に転がるのだった。
「はんっ、手間ばかり掛けさせてからにっ。どんだけ勿体ぶろうと、結果は同じだってんだよ、まったく……!」
カミラはぶつくさと文句を垂れながら、見るからに不浄の黒に染まった魔石を手に取ると、神聖の魔力を多分に含んだ壷の中へと投げ入れた。
すると呪いが抵抗でもしているのか、壷を満たす液体の表層は、幾ばくかの間波打っていた。しかし、結果としてそれ以上の変化が起こる事はなく、やがて平穏を取り戻す。
それに伴い、カミラの纏う剣呑な雰囲気も柔らかなものへと変わっていく。どうやら解呪完了と見て間違い無いようである。
「それにしても、しぶとい呪いだったねぇ。思ったより手間取っちまったじゃないか……一体全体、誰が掛けたらここまで粘着質になるんだか……」
彼女の経験を以てしても、ジードに掛けられていた呪いは、類い希なるしぶとさを誇っていたようだ。
カミラはわざとらしく嘆息すると、ジードの身動きを封じている拘束具を外していき、意識の消失と共に掌から手放された小さな魔石を回収する。
未だ意識の戻らないジードは、いつの間にか穏やかに寝息を立てており、無遠慮に身体を揺らされても起きる気配はまるでない。
「まったく、人の苦労も知らないで、いい気なもんだよ……」
声色こそぶっきら棒なままだが、ジルヴェルトに背を向けるカミラの口元は緩やかにつり上がり、見えてないのではないかと言うほどに目を細め、ジードを見つめている。
もし仮に、ガンズが今のカミラの顔を見たならば、驚愕に震えるに違いない。
何故ならば、どこからどう見ても、孫を慈しむ優しいお婆ちゃんの顔そのものだからだ。気難しい魔法薬師カミラの面影はどこにもない。
「ほら、次はあんたの番だよ」
そんな珍しい表情も束の間。施術道具を移す為、ジルヴェルトの方へ向き直る頃には元通り。いつも通りのしかめっ面である。
「おう、俺ぁいつでも良いぜ?」
ジルヴェルトは乱雑に服を脱ぎ捨て、自らうつ伏せになる。
露になったジルヴェルトの背中には、ジードのものより一回りは大きい魔法陣らしき紋様が刻まれており、鎖のような模様は見当たらない。違いと言えば大きさと、中央に描かれている紋様くらいのものである。
道具を全て移し終わったカミラは、唐突に自身の指先を壷の中の液体へと浸し、意識を集中するかの如く目を瞑り始めた。
「…………。さっきの呪いを入れた分で少し濃度が減ってるねぇ。六つ……いや、五つ分ってところだね」
カミラは液体に溶け込む神聖の魔力濃度を量っていたようで、目減り分も含め適当であると判断すると、言い終わる前から筆を手に取っていた。
ちなみに、解呪もこれで三度目とあって、ジルヴェルトは動く心配が無いのか、拘束具の使用は免除のようである。
「丁度良い、このまま始めるとするよ」
カミラが手にした筆を壷の中へと浸そうとした瞬間、首を起こしたジルヴェルトから抗議の声が飛ぶ。
「おいおい、駄目に決まってんだろ? さっきと同じ濃さにしてくれ。なんならそれより濃くたって構わねぇぜ俺ぁよぉ」
「かぁーっ……男ってのは本っ当に面倒くさい生き物だねぇ。下らない事で張り合ってどうするってんだい、まったく……」
ジルヴェルトの糾弾するかのような物言いに、カミラは片眉を吊り上げ文句を零しつつも、継ぎ足し用の魔力を空の魔石に吸わせ始めるのだった。
***
一方その頃。ジードの意識は、夢とも現実とも違う不思議な世界を彷徨っていた。
辺りは薄暗く、見渡す限り石造りの室内。
壁に掛けられた気持ちばかりの燭台が、辛うじて暗闇となることを妨げている状態だ。
(ん……? これは、夢……なのか……?)
すると突然、自身の意志とは関係無しに視界が大きく動いた。
(――うわっ!? なんだこれっ……?)
声も出せず、視線も動かせず、更には身体の感覚も無い。そこでジードは漸く、これが夢の類で無い事に気付く。
強制的に移り行く視界の先、そこには大量の人とは異なる者達がいた。赤、青、黄、黒、紫と、様々な体色を持つ者がいる中で、共通すべき点も見受けられる。
闘いの為に生まれたかのような恵まれた体格。己の強さを誇示するかの如き、威厳すらも感じる双角。他にも見覚えのある独特の特徴が多数。それはジードがその身に宿しているヴォルフと同じ種族、鬼である。
しかし、決定的に違う点が一つ。その死んだような瞳だろう。
意志の感じられないその表情は、まるで操り人形のようで、本物の鬼を目の当たりにしたことのないジードですら、違和感を禁じ得ないほどだ。
(あれは鬼、だよな……? でも、何かおかしい……)
それでも尚視界は動かないまま、鬼は着々と近付いてくる。どうやらこの世界には音も無いらしく、無音のまま事が進んでいくようだ。
やがて、それぞれの鬼の顔が判別出来る距離まで近付いたところで、唐突に鬼の列は割れ、後方から鬼とはまた違った者が姿を現した。
周りの鬼と比べると格段に小さく見えるが、人の女性としてみれば背は高いほうかも知れない。
ただ、人と呼ぶには甚だしい程の異形で、ジードは一目見た途端にこの女が例の女だと直感した。
(っ間違いない。これは、ヴォルフの記憶だ……)
美の極致と証しても過言ではない整った顔の造形に、思わず息を呑みそうな程に色気に富んだ豊満な肢体。
夜を連想させる濃紺色の髪は腰より更に伸び、側頭部からは太い象牙色の双角が内巻きに揃い、背中には蝙蝠の皮膜にも似た漆黒の翼が綺麗に折り畳まれている。
女の着込む黒鋼の鎧は、陰部とその異様に突き出た胸部を申し訳程度に覆うだけの物で、一見して淫魔と見間違う者も居るやも知れない。
意志のなさそうな鬼の兵隊、女の浮かべる勝ち誇ったかのような妖艶な頬笑みからして、この状況の犯人はこの女に違いない。
「――――」
女は何やらヴォルフに話し掛けるが、その数秒後には不機嫌に顔を染めた。恐らくではあるが、女の申し入れをヴォルフが一蹴したのだろう。
不愉快そうに眉を歪めた女が腕を前に突き示すと、女を守るように複数の鬼が前へ躍り出る。
唐突に揺れる視界。一斉に構えを取り出す鬼達。あざ笑うかのような女の表情。
「――――」
女が指示を下した途端、全ての鬼からヴォルフへ向けて膨大な魔力が放たれる。その魔力の軌道は、正にソウルスティールそのもので――。
鬼族の中でも特に卓越した力を持つヴォルフへ刃向かった、哀れな操り人形達は、最強の鬼が無意識に纏う滅却の力に触れたことで、一体、また一体とその存在を無かったことにしていく。
自身が消え行く事に気付くこともなく、数を減らす同族に気を留めることも無く、淡々と鬼達の自殺は続けられる。
「――――」
女が再びヴォルフに話し掛け、数拍――。
途端に女の顔は気味悪く歪む。女の嬉々としたその様子からして、同族の死に堪えかねたヴォルフが折れたのは明白だった。
その刹那――。
今まで鮮明に見えていた景色は途端に霞んでいく。それが鬼達の決死の魔術により、魂を抜かれた事による弊害なのか、ヴォルフが浮かべた悲嘆の涙によるものなのか、定かではない。だが、いずれにせよここで、記憶の回想は終わりを迎えるのだろう。
ジードは薄れゆく視界の中で、惨状を巻き起こしたであろう張本人を、さも愉快そうに高笑いを決め込む女の顔を決して忘れまいと、鋭く見据え脳裏に深く焼き付けるのだった。
そして視界はまた暗転する――。
***
「んぅ……」
ヴォルフの記憶の中から現実へと意識を帰したジードは、固い木のベッドの上で目を覚ました。
と言っても、まだ瞳は開いておらず、とりあえず身体を伸ばそうと肩に力を入れたところで、待ってましたと言わんばかりに声が降り注ぐ。
「――あっ、ジード! 目覚めたのねっ」
「――あっ、あぁ……おはよう……」
「おはようっていうか、もう夕方なのよね……あたしも、少し前に起きたところなんだけどさ……」
エレナが苦笑と共に告げた言葉でジードは一気に覚醒し、慌てて飛び起きた。
初めての領外で知らぬ内に疲れが溜まっていたのだろう。丸一日までとはいかないが、それに近いだけ眠っていた事になる。
「――えっ!? それ本当かっ? ガンズさんはっ?」
「――と、隣の部屋よ。カミラさんと話してるわ」
「了解っ、隣だな!」
突然のまくし立てるようなジードの様子に、エレナは目を逸らして答える。心なしか頬も赤くなっているが、動転しているジードはそれに気付く事はなく部屋を後にした。
「ガンズさんっ!」
ジードが慌てて隣の部屋の扉を開けると、エレナの言った通りガンズとカミラは椅子に座って話し込んでいたようだった。助かったと言わんばかりにガンズの表情は明るくなり、対照的にカミラの様子は見るからに不機嫌になってしまう。
恐らくではあるが、例の毒味の話でもしていたのだろう。
「おお、やっと起きたか。カミラさん、悪いが話はまた後で頼む」
「まぁ、仕方ないねぇ。今日のところは見逃してやるよ」
「あぁ、すまないな……」
ガンズの申し入れをすんなりと受けれいたカミラだが、最後の最後で声色を変え、偉く凄んでみせる。
「だけどもし、店に寄らずに村へ帰ったら、その時はどうなるかわかってるだろうねぇ?」
「わ、わかってるさ……必ず寄ると、約束するよ……」
魔物も逃げ出しそうなカミラの凶悪な形相に怯みつつも、ガンズは約束を交わすことでどうにか会話を切り上げた。そして空気を変えるべく、咳払いを一つ落とすと、椅子から立ち上がりジードとの会話を始める。
「早速だが、出れるように準備してこい。開拓団支部へ行くぞ。あまり遅くなると人が退けてしまうからな……」
「えっ? 俺はいつでも行けるぞ?」
何言ってんだと言わんばかりにジードは目を丸くするが、ガンズはガンズで深い溜め息と共に呆れ声を漏らす。
「……おいおい、せっかく念願の支部に行くのに、そんな頭でどうするんだ。それとまず、服くらい着てから言え……」
「へ……? ――あっ!」
ジードはそこで漸く、自身が上半身に何も纏っていないことに気付き、顔を急速に赤らめる。改めて自身の身体を見てみれば、胸部には既に呪いの刻印は残っておらず、解呪が無事に済んでいる事を遅ればせながら気付かされたのだ。
試しにと指摘された頭も触ってみれば、とても表に出れない程に寝癖が散らかっていた。このような風体で出歩ける筈もなく、ガンズの苦言も至極真っ当と言えるだろう。
「とりあえずだ、俺は一足先に支部に行って、リーゼ達に残ってもらえるように掛け合ってくるから、お前はエレナちゃんと一緒に来い。良いな?」
「わ、わかった!」
反論の余地の無いジードは素直に頷く。
「それと、カミラさんにしっかりとお礼を言っておけよ?」
「それは言われなくてもわかってるって……」
どこまでいっても保護者気質のガンズに、ジードは苦笑を浮かべつつも慣れた様子で返す。
「それじゃあ、また後でな」
要件を告げ終えたガンズがいそいそと部屋を去った後、ジードはカミラへと身体を向け深々と頭を下げる。
「カミラさん。ありがとうございました!」
「あたしゃあしっかり対価を貰ってるんだ。そこまで畏まられる筋合いはないね。これも何かの縁だ。また何かあったら尋ねに来ると良いよ。腕の一本や二本、千切れた物さえ持ってくれば、ちょちょいとくっつけてやるからさ」
「――っ。せ、世話にならないように努力するよ……でも、本当にありがとう」
腕の欠損を掠り傷と同じ程度で話すカミラに、ジードは盛大に引きつった顔を披露した。
「あいよ、それじゃ早くお戻り。あたしゃ、こう見えても忙しいんだ」
照れ隠しなのか、虫でも払うかのように部屋を追いやられてしまったジードが仕方なく部屋に戻る。
するとタイミング悪く、エレナとばっちり目があってしまった。すぐに目を逸らされた事から、ジードは自身が裸だという事実を再認識してしまう。先程までは無意識だったから問題なかったものの、気付いてしまえば話は別だ。
恥ずかしいと言うよりは気まずいが正解だろうか。相手が無反応であればさほど気にならない事でも、改めて目を逸らされてしまうと、自ずと意識は変わってくるというものだ。
「あのさ、ガンズさんが後で一緒に支部まで来いって……とりあえず、急いで準備するから」
「うん、わかった。……あたし、部屋出てようか?」
「いや、大丈夫だ。なんだか悪いな……」
気を使うつもりが逆に使われてしまい、なんとも居たたまれない気持ちのまま、身支度を整える事となった。
その後、黙々と準備を進めていたジードだったが、ふと先程のヴォルフの記憶と思しき光景を思い出し、確認の意も込めて念話を送ることに。
『なぁヴォルフ……俺、夢っていうかヴォルフの記憶みたいなのを見たんだ。沢山の鬼がいて、その後ろに多分、あの女って奴がいた……』
『そうか……解呪の反動がそうさせたのかもしれんな』
ジードの告白に、ヴォルフは大して驚いた素振りも無く淡々と返す。やはりあれはヴォルフの記憶で間違いないようだ。
『俺は人の弱みに付け込んで、卑怯な手を使うあの女が許せない。今だってヴォルフの仲間は洗脳されたままなんだろ?』
「あぁ、恐らくそうだろうよ。殺されていなければという前提は付くがな」
やはり同族の事となると心の持ちようが違うのか、普段と異なり少し消極的にも感じられる。
「あのさ、今すぐには無理かも知れない、だけど絶対に取り戻そう……!」
『ほう……呪いが解けて早々、言うようになったな。まぁ、期待せずに待っていてやるとするか』
小馬鹿にしたような物言いではあったが、その声色はどこか嬉しそうなものだった。
ジードは新たな目標を胸に、ガンズの指示通り支部へ行く為の準備を急ぐ。
***
ジード達が外に出た頃には、太陽はほぼ沈みかけ、既に辺りは薄暗くなり始めていた。駆け足で開拓団支部まで向かい、程なくして到着すると、入り口となる扉の脇にガンズが背を預けて佇んでいるのが見えた。
「お待たせっ!」
「おっ、思ったより早かったな。もう心の準備は出来たのか?」
ガンズは二人の姿を見つけると寄りかかるのを止め、二歩三歩と歩み出る。その様子から察するに、どうやら二人の到着を表で待っていたようである。
「ん? 俺はいつでもばっちりだぜ?」
「ええ、あたしもよ」
「そうか。それじゃあ最後に、お前達の夢を今一度聞かせて欲しい」
唐突に質問を繰り出したガンズだが、その表情は至って真剣だ。
「……? なんだよ、藪から棒に。……まぁ、良いけどさっ。俺の夢は昔から変わらない。開拓者になって、世界中を旅して、誰も知らない、誰も見たことの無い世界をこの目で見てみたい……!」
「うん、そうだよな……よし、エレナちゃんはどうだい?」
「あたし? あたしの夢も前に言った通りよ? 妖精達が、あの子達が、何一つ不自由することなく、安心して暮らせる場所を見つける事。その為に開拓者になって世界を回るの」
二人が夢を語っている間の表情を、熱心に見つめていたガンズだ。
彼の真意は計りかねるが、思惑があっての質問だったのだろう。なにやら悲しそうな、しかしそれ以上に嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「そうか、ありがとう。二人の気持ちの強さはよくわかったよ。お前達の言葉を聞いたら、その目を見たら、俺も安心して送り出せるよ。さぁ支部へ入ろうっ……!」
ガンズは頻りに頷くと入り口の脇に立ち、二人に扉を開けるよう視線で促す。素直に従う二人は、緊張した面持ちで扉の前まで歩み寄る。
二人の眼前にあるのは、大人二人が優にすれ違える程に大きな観音開きの扉だ。国営機関とあって、扉一つとっても威厳あるその佇まいは、周囲の建物とは一線を画している。一般人が何の気なしに叩ける扉ではないのだ。
ジードとエレナは左右片側ずつの取っ手を掴み、目配せをして同時に押し開けた。
きちんと手入れが施されているのか、見るからに重そうな扉だと言うのに、軋み音一つ上がる事は無い。
おもむろに開かれていく扉。室内から漏れる灯りに一瞬視力を奪われ、やがて見えてきた光景に二人は言葉を失った。
「――――っ」
視界に入ってきたのは、何故か整列している大人達。その数、二十人は下らない。
真っ正面に陣取るのはリーゼ。その横に支部長バルドゥルが並ぶ。端の方にはジルヴェルトが気怠そう立っており、仕方なしにこの場にいるのが見て取れる。
二人に面識は無いが、ストルドフもこの場に居合わせており、大男のバルドゥルと隣り合わせでは、その華奢具合が尚更目立つ。
その他にも、大勢のいずれ劣らぬ歴戦の戦士達が、肩を並べて待ち構えていたとあっては、二人のこの反応も無理はないだろう。
これはガンズか、或いは他の誰かの企てなのだろうか。異様な光景に圧倒され、唖然と立ち尽くす二人の背中を、ガンズは静かに前へと押し出した。
「「――っ!」」
不意に後ろから押されたことで、たたらを踏むように支部内へと立ち入った二人を、幾十にも及ぶ温かい視線が迎え入れる。その中でも、やたらとしたり笑顔のリーゼが、ずいっと前に躍り出た。
「ようこそ、開拓団カリバ支部へ。歓迎するわ、若き開拓者さん達……うふふふっ」
二人はそこで漸く、何故ガンズが急ぎ足でカミラの店を去ったのか合点がいったようで、ほぼ同時に振り返って件の首謀者の顔を覗き込んだ。すると、それに気付いたガンズが二人の肩に手を置き、目を線にして微笑んだ。
「この後諸々の手続きの必要はあるが、今日から晴れて開拓者となる。おめでとう、ここからがお前達の夢の始まりだ!」
見知った人物からの歓迎。保護者からの祝福と激励。その他沢山の温かい思いを貰う事となった二人は、場の雰囲気に負けないくらい明るく返事をする。
「「――うんっ!!」」
少年は感極まったのか、その瞳を僅かに潤ませ、少女は自らの夢の為、その瞳に滾る闘志を宿す。
鬼を宿す少年ジードと、妖精を宿す少女エレナの、まだ見ぬ夢への冒険はここから始まる。




