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少女たちは青春を味わわない  作者: 赤羽 翼
トーテムポールの嘲笑
4/22

色々と考えます



「じゃあまず壊れた模型を見せてくれる?」

「いいけど、片付けてしまったから、事件発覚直後の様子は見せられないよ?」


 申し訳なさそうに言う寺島くんをミノは睨みつけた。


「そんなこと部屋見ればわかる。だからさっさと模型を出して」


 もうちょっと柔らかく言ってあげればいいのに。例えば『部屋を一目見ればどなたでも理解できることをわざわざわたくしに確認するということは、あなたはわたくしをどうしようもない痴呆だとお考えなのですか? はっきりと言いましょう。痴呆はあなたです。ですから、早いところわたくしに模型をお見せしてくださいな。それくらいしか役にたてないのですから、あなたのような痴呆は』みたいな感じでさ。ミノはいかんせん口が悪すぎるよね。


 ミノにガンを飛ばされた寺島くんは大急ぎで部屋の右端にあった大きめのテーブルの上にあった紺色の風呂敷を捲り上げた。色とりどりの模型の残骸が現れる。


 ミノと二人、近づいてしげしげと観察してみた。赤、黄、緑、茶色……じっくりと見てわかったけど本当にいろんな色がある。そして模型の破片もなかなか変わっている。細かくなっている部分からは当然何もわからないけど、大きな破片には目やら口やらが見て取れるのだ。


 私は首を傾げながら寺島くんを見た。


「ねぇ、これってなんなの?」

「鉄道模型ではないわよね?」


 ミノは比較的大きい破片を手にしながら訊いた。その破片には弓なりに曲がった口(?)のようなものが描かれている。


「その模型はトーテムポールの模型なんだ」

「「トーテムポール?」」


 図らずもミノと声が揃った。


「何でまたトーテムポールを題材にしたのよ」


 ミノがこの質問におブスさんが答えてくれた。


「校長先生がそういうもの好きなのよ。校長室にも不気味な彫刻や骨董品、不思議な絵画がたくさん飾ってあるわよ。少しでも認めてもらえる可能性を上げるために、寺島君はトーテムポールを題材に選んだのよ」


 趣味悪い。この学校の校長先生ってもしかして変人?

 寺島くんは残骸の近くに置いてあったバッグからクリアファイルを取り出し、中に入ってきた紙を見せてきた。


「これがそのトーテムポールのデザイン画だよ」


 ミノはそれを受け取って胡乱な目で見つめる。私はトーテムポールに興味なんてないので紙を覗き込まないでおく。

 ミノはデザイン画を寺島に返し、


「正直言ってきもい。何でそのトーテムポール笑ってんのよ。一段目、二段目、三段目の顔全部がもれなく生理的に受け付けないんだけど」


 ミノにそこまで言わせるのなら見てみたい。寺島くんから紙を受け取った。

 茶色をベースに色とりどりの模様を浮かばせたトーテムポールは確かにきもかった。トーテムポールお馴染みの顔は全部で三段。そのどれもが気味の悪い笑みを放っている。うん、きもい。きもい以外の感想は出てこない。きもい。


 持ち主に丁重にお返しした。きもい。

 寺島くんは苦笑し、


「『嘲笑うトーテムポール』ってタイトルなんだけど、やっぱりきもいよね」


 作者公認のきもさなんだ。ミノがじと目を向け、


「この模型はずっとここに置いてるの?」

「うん。家の自分の部屋にはもう置くところがないからね」

「よくそんな大事なものを学校に残していけるわね」

「普段はずっと鍵をかけてるからね……」


 まあ、まさか鍵のかかった扉を突き抜けて破壊されるとは思わないよね。

 無残な残骸を見つめているとピーンと閃くことがあった。 


「真っ当な感性の持ち主なら、この模型が校長先生に認められるとは考えないはずだよね?」


 私は誰にともなく呟いた。ミノは寺島くんの持つデザイン画をちら見して、


「まあ、そうでしょうね」


 他のみんなはどう? という具合にゴリラくんたちを見る。彼らは往々にして頷いた。やっぱりね。


「ということはつまり、犯人は校長先生を真っ当から程遠いきもい感性の持ち主だって知ってたということだよね。つまり犯人は君たち三人の誰かってことだよ!」


 名探偵よろしくビシッと人差し指をゴリラくんたちに突きつけた。三人がたじろぐ。

 隣からミノのため息が聞こえた。


「ちょいと待ちなさいよアスマ。なにもその三人しか校長の趣味を知り得ないって決まったわけじゃないでしょう。教員はみんな知ってるだろうし」

「そうだよ。というか校長先生の趣味は割と生徒間でも有名だよ」


 寺島くんも強い口調で反論してきた。本当に有名なのお? 私そんなこと全然知らなかったよお? と言いたい衝動が一瞬生まれたけれど、どうせ口にしてもミノに何かしら罵倒されて終わるのでやめておいた。


 ミノはテーブルの上に腰掛ける。行儀悪いよ。


「重要なのは校長の趣味を知っていた人間じゃなくて、()()()()()()()の方よ。今回の事件の動機はどう考えたって寺島への妨害。細かい事情を知ってる奴の仕業ってことね。そこの三人と校長の他に、取引のことを知ってる人はいる?」

「さっき話した漫研の江口には話したよ」

「ふぅん……。あんたたちは? 誰かに寺島と校長の取引のことを話したりした?」


 ミノは三人に問いかけた。

 三人は互い互いに目を合わせ、かぶりを振った。


「じゃあ後は校長が誰かに話したか否かね」

「あ、そういえば……」


 寺島くんが思い出したように、


「この取引が決まったとき校長先生に、あんまり人には……特に他の先生には言わないように、って口止めされたよ。そんなこと言うくらいだから自分から話すっていうことはないんじゃないかな」

「まあ、それもそうか。寺島に非があったとはいえ、開催がまだまだ先のコンテストに参加させないだなんて、嫌がらせに等しい行為だものね。しかもそれだけじゃなくて、生徒に代えになる模型を作らせてるし……。そんなこと他の先生に知られたくはないわよね」


 ミノはふうっと息を吐いた。


「つまりあんたたち三人と江口、それから校長が容疑者ってことね。だけど校長は完成間近の模型を破壊する必要がない。自分が模型を認めなければ、寺島は結局コンテストに参加できないわけだし。ということで一人減って容疑者四人。大きな進歩ね」


 おおー。やっるぅ! さっすがミノ。無駄に大口たたいてばかりじゃないってことだね。

 一つアイデアが出てきた。私はゴリラくんたちに目を向け、


「三人のアリバイはどうなってるの? 寺島くんが漫研にいっているときとか、買い物している最中とか、誰か一人で行動した人はいなかったの?」

「いなかったよ」


 名前さんが断言した。おブスさんも続き、


「トイレにいった人もいなかったもの。江口君に呼ばれた寺島君を待っている間もスーパーにいる間も、ずっと全員一緒だったわ」

「じゃあ犯人は江口で確定ってことね」


 ミノは冷たく言い放つ。うわあ、いいとこ取りされた。ミノってそういう人だったんだ。いくらお金がなくて昼食奢ってほしいからって。


「ち、ちょっと待ってくれ!」


 寺島くんが急に大きな声を発した。……やっぱりこの人、薬とかキメてる系なのでは?


「江口の奴がそんなことするわけないじゃないか! それにアリバイだってあるかもしれない。だいいち、扉に鍵をかけていたのにどうやって侵入したっていうんだ!」

「さあね。忍び込んだ方法なんて本人に自供させればいいだけでしょ。漫研に案内しなさい。何にせよ江口ってのにアリバイを訊かなきゃいけないし」

「わ、わかった」

「アスマ、あんたは隣の奇術部の部員に話を訊いてきなさい」

「え、隣奇術部の部室なの? 何で知ってるの?」

「さっき確認しておいたのよ」


 目ざといね。


「何訊けばいいの?」

「このまま部屋から物音が聞こえたかどうか。犯人が模型を床にたたきつけて壊したのなら、隣の部屋にいた人が大きな音を聞いている可能性は高い」

「なるほどお。自分でやればいいじゃん。これから漫研いくんなら廊下出るんなら、そのついでにさ」


 ミノは私を睨みつけ、


「せっかく二人いるんだから手分けした方がいいでしょう。それにあんたには隣の部屋だけじゃなくて、真下と真上の部屋にも聞き込みにいってほしいのよ。その二部屋も音を聞いてる可能性があるから」


 ゴリラくんが口を挟んだ。


「真上の部屋も真下の部屋もいまは空き教室だよ」

「そうなの? じゃあ隣の部屋だけでいいわ。ほらさっさといくわよ」


 うげえ、面倒くさい。

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