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少女たちは青春を味わわない  作者: 赤羽 翼
トーテムポールの嘲笑
3/22

事件の経緯



「数十分前のことだ。俺は模型が完成間近になったところで、休憩をしようと手を休めていた。そんなとき部員の一人に買い物に誘われたんだ。他の部員もみんないくみたいだから、俺も付いていくことにした。脳が疲れていたから糖分も欲しかったしね。普段は買い物に出かけるときには鍵はかけないんだけど、作りかけの模型があったからしっかりと鍵をかけた。そして先をいく三人の後を追ったんだ」


 話長いなあ……。まだの終わらないの? 私集中力ないから早いとこ事件が起きるとこを語ってほしいんだけど。


「外に出て校舎の前を歩いていると同じクラスの江口えぐちっていう友達から電話がかかってきた」

「ああ、あのやたら声がでかい煩わしい男ね」


 ミノがさらっと罵倒する。ほんと口悪いよね。

 寺島くんは苦笑し、


「まあ、確かにうるさいところはあるけど、あれはいい奴なんだ。模型作りを手伝ってくれるし、今回の模型についても意見を何度も貰ってる。電話の内容はあいつの所属のする漫画研究会にいますぐにきてくれ、というものだった。みんなと買い物にいく途中だからどうしたものかと思ったんだけど、他の三人がいってくれば、って後押ししてくれたからお言葉に甘えて漫研の部室にいったんだ。江口の用件というのは、自作した漫画を読んでくれというおおよそ緊急性があるとはものだったんだけど、仕方なく読んで適当に感想を並べてみんな後を追った。十分くらい経ってたにも関わらず三人はさっき別れた場所で待っていてくれていたんだ。それから滞りなく買い物を終え、部室に戻ってみたら――」

「模型が紛失していた?」


 先回りしたミノに寺島くんはかぶりを振り、ぎゅっと拳を固く握りしめた。


「壊されていたんだ。床に叩きつけられたようにね」


 あれまあ。残念だったねー。でもそれって、


「模型ってテーブルとかに乗せてたんだよね? 何かの拍子に落ちちゃっただけなんじゃないの?」

「それはないよ。模型の破片はかなり離れたところまで飛んでいたんだ。相当な勢いがなければああはならない。それからたぶんだけど、模型の破片の大きさから考えて、踏みにじられた可能性も十分にある」


 抜群の推理力じゃん! 私たち必要ないんじゃない? これは別に、いまさら面倒くさくなってきて帰りたいからそんな風に思っている、というわけではない。断じて。本当に。

 ミノは「ふぅん」と生返事をすると、物事を見定めるかのように目を細めた。


「それで、どうして犯人を見つけだそうなんて考えたわけ? 普通は泣き寝入りするでしょ」

「確かに最初は犯人を暴こうだなんて考えもしなかったよ。俺は校長先生にこのことを話して、期限を延ばしてほしいと頼んだんだ。だけど校長先生は甘くなかった。『期限内に完成しそうにないから、わざと模型を壊して、期限の引き延ばそうとしているんじゃないのか?』と言われてしまった。酷いもんだろ?」


 そんなことより小腹が空いてきた。帰り何か買い食いしよ。あ、駄目だ。私お金持ってきてないや。


「だけど校長先生も心根まで鬼というわけじゃなかった。必死にお願いする俺に今度はこんな提案をしてきた。『模型を自分が壊したのではないのなら、七日までに壊した犯人を見つけだして私に突き出しなさい。その者を犯人と決定づける根拠も忘れずにな』ってね」


 やっぱり日本昔話みたい。というか生徒にそんな難題をふっかけるのって十分鬼じゃない?


「そういう理由があるから、俺はなんとしてでも犯人を見つけなきゃいけないんだ」


 ミノは腕を組みながら大きく頷いた。


「なるほど、事情はわかったわ。けどそれって、別に犯人を捕まえる必要なくない? 友達か誰かに協力してもらって、そいつを校長先生の目の前で自供させればいいじゃない」


 おお、頭いい! 思わず拍手したくなった。

 しかし寺島くんは肩をすくめ、


「校長先生を舐めちゃ駄目だよ。校長先生は犯人には厳しい罰を与えると言っているんだ……。どんな罰かは教えてくれないんだけど、それが余計に怖いんだ」

「うざったい校長ねぇ……」


 ミノは呆れたかのように言う。

 私は首を傾げ、


「ねぇ寺島くん。部員の人たちや友達に『自分を犯人にしていいよ』って言ってくれる人はいないの?」

「いるにはいるけど、そんなことさせられないよ。いま話しただろ。校長先生が――」

「別にいいんじゃない? 寺島くんが実害を被るわけじゃないんでしょ? その人のご好意に甘えようよ。本人がいいって言ってるならそれでいいじゃん。ありがたく犠牲になってもらおう」

「え、ええと……あ、明日馬さん?」


 なぜか困惑された。そんなに変なこと言っただろうか。ミノが横から口を挟む。


「アスマはこういう奴なのよ。人畜無害そうに見えてかなりやばい女だから」

「そ、そうなんだ……」


 ねぇ、だからそんな変なこと言った?



 ◇◆◇



 寺島くんの所属する芸術部の部室へとやってきた。喋りながらだったので、けっこう時間がかかってしまった。

 寺島くんが引き戸を開けた。中は彫刻やら絵画やらが壁際にずらりと並んでいる。美術室みたいだ。


 室内では三人の男女が椅子に座っていた。ブレザーのネクタイとセーラー服のリボンから全員が二年生だとわかる。


 一番目を惹いたのは190センチ以上はありそうな高い背丈に、ゴリラにも似たゴツい体格の男子生徒だった。顔もゴリラに似ている。絶対小学生のときの渾名ゴリラだったな。


 その次に印象に残ったのはゴリラくんの斜め右に座る女子生徒だ。椅子に座っていてもモデル並みに長身なのがわかるし、脚もすらりと長い。スタイルも抜群だ。顔は……うん、凄い残念。もったいない。首から下と顔が完全に不釣り合いである。スケベな神――ゼウス辺り――が狙って作ったとしか思えない身体に乗っかっている顔が哀れだ。可哀想に。合掌。


 三人目は特に記憶に残りそうにない。女子にしてはちょっと背が高い程度でゴリラくんやおブスさんと比べるとインパクトに欠ける。前二人が強烈なだけだから気にすることないよ!


 隣のミノを見る。どうやら彼女も私と同じことを考えているようだった。え、何でわかるかって? 一年一緒にいるからね。以心伝心ってやつだよ。


 ミノが横目で見てきた。


「アスマ」

「ん、なあに?」

「あんたいま、不愉快なこと考えてたわよね」

「別に考えてないよ」


 失礼しちゃうよね、まったく。

 寺島くんが連れてきた私たちを見て、ゴリラくんが立ち上がった。


「その二人か、犯人を見つけられる人材というのは?」

「ああ。この二人というか、彼女の方だけどね」


 寺島くんは手でミノを示した。おいおい。私もいるでしょうよ。別にいいけど。


「桂川美濃よ。こっちのぬぼーっとしてるのが明日馬薫子。こいつ発言の九割五分くらいは無視していいから」


 どうもどうも。

 ミノは腕を組んで三人分の眼力をはねのける、強い視線を謎の三人に向けた。


「で、あんたたちは?」


 ミノに尋ねられて、まずはゴリラくんが、


「俺は小山こやま大地だいちだ」

「随分と体格いいけど、何で芸術部になんて入ってるわけ?」

「絵を描くのが好きだからとしか言えない。それにウェイトリフティング部との兼部なんだ」


 ああ、似合う。バーベル持ち上げるとき「ウホオオオッ!」とか言ってそう。

 続いておブスさんが、


「私は寿ことぶき椎名しいなよ。小山君と同じで主に油絵をやってるわ」


 綺麗な名前だなあ。とことん顔が可哀想だ。

 最後に特徴のない人が、


「わたしは内田うちだ六花りっか。わたしも絵を描いてるよ。水彩だけどね」


 特徴のない人は名前だけ妙に特徴的だった。これからは名前さんと呼ことにしよう。

 一通り自己紹介が終わった。ミノは二、三歩前に進み出た。


「さて、それじゃあ、事件についより詳しく訊いていこうかしら」


 まだなんにも推理してないし、そもそもそんなにやる気はないけど宣言しておこう。犯人はこの中にいる(テキトー)!

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