第一回 田中家・家族旅行会議です。
その後、俺は目を覚ました高橋さんとコノハ、そして平然と正座しながらお茶を飲んでいた山田さんから事のあらましを聞き出すことに成功した。
コノハたちの計画では、この『賞与』を受け取った俺は「うわ~い、旅行券セットだ~~~~、うっれし~~~~!」と大喜びをするはずだったらしい。
いつも一緒にいるミユ達に、俺がそんな反応をすると思われているとしたらそれはかなり心外だ。
いったいこいつらの目には俺はどんなふうに映っていたのだろうか。
しばし過去を振り返ってみるが、そんなふうに思われるような行動をした覚えは一切ひっかからなかった。
つまり、これは俺のせいじゃなくミユ以外の三人の脳みそが非常に残念な出来なのだろう、そうに違いない。
そして唯一まともな我が娘ミユはきっとそれに反対したのだろう。
さっきからじっと俯いている姿からすると、反対したのに他の三人に無理やり計画の手伝いをさせられたことに憤ってるに違いない。
俺が自分の中でそうやって折り合いをつけているとコノハとごっつんこした額を赤くした高橋さんがミユに少し頭を下げつつこんなことを言った。
「いやぁ、せっかくミユちゃんが計画してくれたサプライズプレゼント演出を、私とコノハちゃんのせいで失敗した事を謝罪するですです。ごめんなさいですです」
続けてコノハも「ごめんねお姉ちゃん」とペコリと頭を下げる。
その二人に向かって必死に「二人のせいじゃないの、私こそゴメンなの」と返しているミユはとても良い子だ。
だがこの計画をミユが建てたってことは、ミユから見た俺はあんな感じなのだろうか。
「……」
苦虫を噛み潰したような顔でその二人の姿を見ている俺に山田さんが「おや? 田中さんどうかしましたか?」と声をかけてきた。
「いや、娘とのスキンシップが足りなくて理解を得られない父親の気分ってこんな感じかなと思ってただけだよ」
「そうですか」
ずずずっと山田さんはお茶を飲み干した後、空になったコップをちゃぶ台の上においてから俺の方を見た。
「ところで田中さん、今回の旅行ですが」
「今回の旅行ってなんだよ」
「一応コノハさんとミユさんとは行く先も決めているのですが」
「いやいや、ちょっとまってよ山田さん」
俺は慌てて山田さんを制する。
「そもそも俺は旅行に行くなんて一言も言ってないし」
「そうなんですか? 私達が旅行に行くとなると、田中さんお一人だけお留守番ということでよろしいのですね?」
「え? 私達?」
俺は山田さんの言葉に疑問を感じて聞き返した。
「ええ、コノハちゃんとミユちゃんはもちろんですが引率として私と高橋も付いていきますので」
俺がその言葉に口をパクパクさせていると高橋さんが横から話の続きを教えてくれる。
「ですです、本当は委員長ちゃんも秘密を共有する仲間としてお誘いしたんですですが、タイミングの悪いことに委員長ちゃん家族の旅行ともバッティングしてしまったですです」
「バッティングって、もしかしてもう旅行の日取りも決まってるの?」
俺は体を乗り出して高橋さんに詰め寄る。
「あんまり顔を近づけるとチューしちゃうですですよん」
この女、頭をぶつけた時にやっぱり脳に障害が……。
「などというオトナなジョークは昔山田さんに『似合わないのでやめてください』と氷のような目で宴会の時に言われたのですですが」
俺は無言で彼女のこめかみを握りこぶしで挟み込んで力を入れる。
「痛い痛い痛いですですぅ!」
涙目で俺の手から抜け出すと、高橋さんはミユとコノハの方へ逃げていった。
「お父さん、一緒に旅行行かないの?」
そんな高橋さんの前でミユが俺を見上げて寂しそうな顔をしながら言う。
うっ……そんな目でみないで娘よ。
「べ、別に行かないとは言って無いよミユ」
俺のその言葉にパァッと顔に笑顔を浮かべるミユ。
「そうですよミユちゃん、田中さんがミユちゃんと一緒の旅行を嫌がるわけ無いじゃありませんか」
「ねぇ」と山田さんがいつもの曇りのないイケメンスマイルで俺の返事を促すように見やる。
ぐぬぬ、この男……言質を取りに来やがった。
ここはもう観念するしかないな。
「ああ、もちろん俺も一緒に旅行にいくよ」
そう宣言した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
旅行に行く決心をしてから三十分後、俺たち5人(人外が4人いるが)はちゃぶ台を囲んで座っていた。
正確にはミユとコノハはちゃぶ台の上に委員長が前に持ってきてくれた人形用の椅子と机を置いて、そこに座っていたのだが。
小学生くらいまでリ◯ちゃん人形で遊んでいたらしく、当時の『おもちゃ箱』を引っ張り出して探してくれたそうな。
とりあえず今回関係ない委員長の話は横におくとして、これから行くらしい旅行について詳しく山田さんから話を聞くことにしたのだ。
と言っても俺以外は既にどこへ行くのかは知っているみたいだけど。
「第一回、田中家 家族旅行会議を行います」
山田さんは無駄なイケメンボイスで何故か厳かな声色でそう宣言した。
というか、その発表会タイトルは少し前にコノハとミユに「ヤマダは家族じゃない」と言われたことを気にしての事だろうか?
そこまで家族として認めてもらいたいのだろうか。
俺はつい生暖かな目で彼を見つめてしまう。
「え~、それではですね。今回の旅行の目的をまずはコノハちゃんから発表していただきましょう」
パチパチパチ。
俺を除く全員が拍手をする。
くっ、出遅れた。疎外感が半端ない。
「ごほんっ、なのじゃ」
コノハは椅子から降りてちゃぶ台の中央まで進み出ると、わざとらしく偉ぶった咳払いをしてから俺の方を向いて語りだす。
「今回の旅行は我がいろいろな世界を見て回り、それを我が世界の世界樹様にお伝えするという役目を果たすためというのが、まず一つ目の目的なのじゃ」
その世界樹様ってお前自身じゃん等という突っ込みは山田さんたちの前では出来ない。
それに今コノハは『まずひとつ目の目的』と言った。
という事は他にも目的が有るということだ。
俺は黙ってコノハの話の続きを見守る。
「第二の目的、それはこの世界に飛ばされてきた我が世界の同胞たちと会ってみたいと思ったのじゃ」
そう語るコノハが俺にだけ見えるように向けた表情は、何時もの無責任で軽薄そうな顔ではなく、どこかしら憂いを帯び、スペフィシュを長い年月見守り育んできた世界樹の風格を感じさせた。




