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愛情は最高のエネルギーなんです。

「紅葉?紅葉ってあの秋になると葉っぱが赤くなるやつ?」

「ええ、そうです」

「それって必要?」

「風情がありますよね。この国の四季に合う能力だと思いますよ」

「葉っぱが赤くなるだけの能力?」

「説明を読む限りだとそうみたいですね。そもそも世界樹というのは常緑樹なので紅葉はしないのですが珍しい能力が芽生えたものです。秋にはきっと見事な紅葉が見れると思うと今から楽しみでなりませんね。」


 ニコニコとしている山田さん。

 呆然としている俺。

 そして何故か目をそらしている高橋さん。

 怪しい。


「高橋さん、君この能力について何か知ってるね?もしくは何かしたね?」


 おれはジッと高橋さんを見つめる。

 やがて観念したかのように高橋さんは告白する。


「いやぁ。我が研究所のミニ世界樹ケースの性能が予想外に素晴らしすぎてですね」


 それとこの能力に何の関係があるのかと問い詰める。


「さっきですですが、このせかいじゅの葉饅頭をですね…」


 そう言って高橋さんは机の上のせかいじゅの葉饅頭を一つてにとってそのままミニ世界樹ケースの上に置いた。

 するとケースの上に置いたせかいじゅの葉饅頭が見る見るうちに萎んでいき、やがて包み紙だけが残った。


「!?」

「!?!?」


 驚きで声も出ない俺と山田さん。


「と言うようにミニ世界樹ちゃんが吸収しちゃったんですですよ」


 てへぺろ(・ω<)

 可愛い顔して誤魔化そうとしても無駄だ。


「吸収したって、ミニ世界樹は水系しか必要ないって説明書に書いてあったじゃないか」

「そうなんですよ。本来水と空間魔力(魔素)があればミニ世界樹の育成には十分だったんです。しかしですよ?」


 高橋さんがずいっと寄ってきた。

 あ、さっきまでと違い目が研究キチの目になっている。


「この世界は他の世界と比べて極端に空間魔力(魔素)が少ないんですです。そこでレベルアップの過程でどうやらこのミニ世界樹ちゃんはそれ以外のエネルギー吸収方法を獲得したわけですです。まぁそれもこれも我が研究所のスーパーテクノロジーで作り上げたこのケースの汎用性の高さが…」


 その後、5分ほど高橋さんはまくし立てた後結論を言う。


「前回、麦茶を与えることに寄ってその麦茶の効能をミニ世界樹ちゃんはとりいれたわけですです。つまり今回はですですね」

「今回はつまり?」

「せかいじゅの葉饅頭を吸収したことによってその外見の赤さを紅葉として吸収した結果得たのが『紅葉』能力だと断言しましょう!」


 キリッと決めポーズをしながら高橋さんは言い切った。

 でも高橋さん、多分違う。

 ミニ世界樹『ミユ』はそれを普通にもみ◯饅頭とご認識した結果じゃないかな?きっと。

 だって俺、ミユの横で昔の漫才動画とか見てたし。

 その時、あの饅頭ってどんなんだっけ?と気になってゴーグル先生で検索して画像も見てたからね。

 正直このミニ世界樹とケースの仕組みはよくわからないけど見かけと違ってかなりハイスペックなマシンだ。

 もしかしたら高性能なAI制御とかなりの学習機能を持っているのかもしれないと思い始めた。



 その後、どうでもいいけど紅葉は秋にならないと見られない事や、新しい呪文『言霊の息吹』が山田さん曰く「現状、異世界言語のみの翻訳に限る」という電子辞書のほうが何万倍もマシという機能しか持ってないことを聞かされたりした後二人を部屋から追い出した。


「前回の空気清浄機能はそれなりに使える機能だったのに今回はお遊びギミックでしかないのは残念だな」


 俺はミニ世界樹『ミユ』を持ち上げて話しかける。


「ミユ、現在の残りマジックパワーを教えてくれ」

「えっとね、現在の残りマジックパワーは5だよ」

「5か、さっき呪文で使い切ったと思ったけど5まで回復してるのか、早いな」

「お饅頭を食べたから少し回復したよ」

「ああなるほどそれでか…え?」


 今この部屋には俺しか居ないはずなのに何故他の人の声がするんだ?

 また山田さんが忍び込んできたのか?と後ろを振り返るが誰もいない。

 まさか。


「世界樹がシャベッタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 驚きのあまりミニ世界樹ケースを取り落としそうになった。


「レベルアップしたお陰でお父さんと喋れるようになったんだよ」


 まじか。というかお父さんって俺のことか?

 さっき高性能なAIと学習機能を備えてるかもと思ったのは事実だが高性能すぎるだろ。


「えっとミユさんですか?」

「ミユだよ。やっとお父さんと喋れるようになって嬉しい」


 微妙に音声合成っぽい声音だがそれは幼い少女の声に聞こえた。

 もしかして育てていくと声もどんどん大人になっていくとかいうギミックが仕掛けられていてももう驚かない。


 ぴんぽーん!どんどんどん!


 あたふたしていると玄関から呼び鈴とドアを叩く音、そして山田さんと高橋さんの声がした。


「田中さん!田中さん!なにがあったんですか!!」

「田中さん、あけてくださいですです!」


 少し前に二人を追い出したばかりな上に通常の精神状態ならガン無視していただろうが今はこの状況を説明してもらわなければ落ち着かない。

 俺は玄関に駆けて行き、そのまま扉を開け放つ。


 ゴンッ!


 愉快な音が聞こえた。

 そっと見てみると高橋さんが頭を抑えてうずくまっていた。

 山田さんはそんな高橋さんに「だから一歩下がった所に居てくださいって言いましたでしょう?」と呆れたように声をかけていた。


 外開きの扉を開ける時は気をつけようね。田中お兄ちゃんとの約束だゾ!


==========================================


「つまり私達が帰った後にミニ世界樹に話しかけたら返事をしたと?」

「そうなんだよ。なんなのこの機能?さっきは何も言わなかったよね?いやミユじゃなくて山田さんが」

「先程も言いましたように今回のミニ世界樹プロジェクトでは田中さん、あなたが現状一番ミニ世界樹を育ててレベルアップさせているわけです」

「それで?」

「我々と致しましても世界樹の成長という点に関して未知の部分も非常に多く存在いたしておりまして」

「ほうほうつまり?」

「つまりミニ世界樹がこの先レベルアップでどのような『進化』をするのか、そしてそれに寄ってどの様な現象が起こるのかは判らないということなんです」


 まじか。どれだけ自由度の高いAIシステムなんだ。


「ただひとつ確実にわかっていることが有ります」

「それは?」

「ミニ世界樹を愛情を持って育てれば育てるほど幸せが訪れるという事です」


 結局山田さんから出てきた答えはそんなスピリチュアルな物だけだった。


「愛情は最高のエネルギーなんです」


 いい事言った風な空気感を漂わせて山田さんが言う。


 俺はミニ世界樹ケースを手に持って「興味深い、興味深いですです」と言いながら上下左右見回している高橋さんを眺めてため息をつく。


 こいつら本当に役に立たないな!




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