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ある騎士の物語の場合

作者: P.D.

 宿の外から町の活気を伝える喧騒が、開いた窓から部屋にもたらされる。

 この町は常に猥雑な、それでいて不快にはならない空気を孕んでいる。

 誰もが逞しく生きている証なのだろう。

 そこそこ高級な宿に逗留しているが、そんな宿でもこの町の喧騒からは逃れられないようだ。

 古い友から呼び出されてこの町まで来たが、まだ友は現れていない。

 好物のゾンゲ肉を持ってきたというのに、などと思いながら、テーブルにロックグラスを2つ置き、酒を注ぐ。ここに来る途中で狩ったゾンゲの肉を小さく切り分けたものを皿に盛る。

 歓待の準備を終えて、椅子に体を預けると、頑丈な椅子がギシリと軋む。

 鎧を着たままの重みは少々酷なようだ。

 先にグラスを傾けながら、ここで会う予定の友人に思いを馳せる。

 彼は自由気ままな種族だ。その中にあっては堅物な方らしいが、彷徨の騎士などと呼ばれる人間の私よりよほど自由だろう。

 神出鬼没だし、この世界では有数のネットワークを持っている。

 私に伝言を届けた伝令も彼の部下なのだろう。


「いい匂いだな。土産か?」


 3階の窓から低く渋い声がかけられる。

 いつの間にか窓枠に友人が座していた。


「相変わらず突然ね。元気そうで何よりよカバル」


 挨拶に軽く持っていたグラスを掲げる。

 カバルはしなやかな身体を伸ばすと、ぴょんとテーブルの上に着地する。

 青みがかったグレーの毛並みは美しく、澄んだ空色の瞳はこちらを見上げている。

 尻尾が左右に振られているのは再会を喜んでくれているのか、ゾンゲの肉を喜んでいるのか。

 多分肉だろうな。


「再会に感謝を。そちらこそ息災で何より」


 私は苦笑しながら、カバルの前に置かれたグラスに自分のグラスを軽く当てる。


「まずは乾杯ね。土産の肉だけど喜んでくれればなによりよ」


 カバルはグラスに頭を突っ込み、舌で酒をペロリと舐めると、肉を頬張る。


「友のきづふぁいよりふれひいものふぁない」


「いいから食べて。話は後からでもできるから」

 そんなに尻尾をMAXに振られては勧めないわけにはいかない。

 グラスを傾けながらカバルの食事を見守った。




 猫族のカバルと知り合ったのは、カバル率いる猫の部隊が3mはある化物と戦っている所に出くわしたのが縁だった。

 腕が4本ある巨人で体は甲殻類のような殻で覆われており、猫たちの爪はまったく通用していなかった。その中でもカバルだけは先頭で戦い、驚くべきことに微少なりとも効いていた。

 猫は集団戦を得意とするが、相手が悪い。

 私は即座にその化物を的として突撃チャージをかけた。

 そして、その戦いが終わる頃には、カバルは私の友となっていた。

 忌まわしい身体のせいで人間の友はなかなかできないのに……。



「立派な宿に泊まったのだな」


 肉をぺろりと平らげたカバルは部屋の中を見回して言った。


「広い厩舎がある宿でないと相棒のエレバースを預けられないから仕方なくね」


「そうだったな。だが今回の件には相棒は留守番だな」


「どうして? そもそもなんで呼ばれたのかまだ聞かせてもらってないんだけど?」


 前足を舐めては顔を撫で付けているカバルに聞く。

 この友は理由もなく呼び出したりはしないし、プライドも高いので頼るためだけに呼びつけることもない。私を呼び出すにはそれなりの理由があるはずなのだ。

 そして、その理由もアタリはついていた。


「異界とこの世をつなげようとしている者がいる。この世の理では適わぬ事を為そうとしているのだろう。おそらくはこの世界で封印され動けぬモノを呼び出すつもりだろう。あるいはその助けになるモノか。それは阻止せねばならぬ。なによりも一族のモノが巻き込まれている。その助力を頼みたい」


「予想外ね。カバルがそんな頼みをするなんて。言いなさいよ。ヤツが関わってるんでしょ?」


「一族のモノの情報によると、その儀式を行っている魔術師はペルシュターだそうだ」


 カバルの答えと同時に私の手の中のグラスが粉々に砕け、破片と酒が手甲ガントレットの隙間から零れ落ちる。


「やっぱりそうなのね。ありがとうカバル」


 私が憎い敵としてヤツを追っていたのをカバルは知っている。カバルは私の為に私を呼んでくれたのだ。

 この身を生きながら爛れ腐り続ける呪いをかけた魔術師。邪神の使徒。

 汚らわしい腐肉は広がり続け、今では顔と身体の半分近くを覆っている。

 髪で顔を隠していてもふとした拍子に覗いてしまう一部分だけでも人は私に近づかなくなる。

 鎧も寝る時以外は脱ぐこともしない。


「ヤツは島で儀式を行っている。私の部隊で島に飛ぶ事になるが運べるのはせいぜい人間1人くらいだ」


「将軍は参戦しないの? ヤツが相手なら召喚しようとしているのはあの邪神でしょ。それなら猫族が動いてもいいはずだけど」


「今動かせる戦士は全て私の指揮下に入っている。将軍は住んでいるパン屋の倉庫にネズミが増えたので離れられないらしい。族長にも知らせはいっているが間に合わないだろう」


「そう。なら仕方ないわね。剣と弓だけで行くしかないか。でも私も無駄かもしれないけど相棒エレバースを運ぶ算段はしておくわよ。騎士にとって最大の攻撃は騎乗突撃ランスチャージなんだから。この町には腕のいいガレー船の船長がいたはず。彼には貸しもあるしね」


「オーギーの事だな。好きにするといい。場所は後でオーギーに伝えておこう。だが身体はどうなのだ。呪いは広がっているのだろう」


「まだ大丈夫よ。この進み具合ならあと3年は動けそうよ。でも、もしいるとすれば、私の伴侶になる人はおぞましいものを見ることになるでしょうね」


「クシャナ!」

 突然カバルが変なクシャミをする。


「どうしたの? 風邪?」


「いや、なんでもない。何だか無性にそんな声を上げなければならない気がしただけだ」


「? そう、変なカバル。でももう少し広がったなら、髪で隠すのも難しくなるわね。そうなればフルフェイスの兜を外せなくなるわ」


「猫の私にとっては友は友だ。外見がどうあろうと、変わりはない」


「ふふっ、ありがとう。あなたが人間じゃなくてよかったわ」


 カバルの言葉は心地よかった。本当に良い友だ。


「では準備をしておいてくれ。時間はない。部隊を取りまとめたらすぐ出発する」


 そう言い残すとカバルは窓枠に跳び移り、そこから空中に向かって飛んだ。

 フワフワと空を飛んでいく。

 数時間後には私も何十匹かの猫に乗ってあのように飛んで行く事になるのだろう。


 私はいまだに握り締めていた手を開き、酒とガラスの破片を拭う。

 髪を掻きあげると、テーブルの上に残ったグラスが私の顔を映していた。

 醜くおぞましい顔とキレイに整った顔が同居しているグロテスクな怪物。

 その顔が、怪物に相応しい獰猛な歪んだ笑顔なのは、グラスが湾曲しているからだろうか?


「待っていなさいペルシュター」


 不気味な笑い声が宿屋の窓から町の喧騒にまぎれていった。






彷徨の騎士 ディナデッタ=フォルカ


筋力 13

頑健 11

体格 12

敏捷 11

外見 4

知性 16

精神 19

知識 15


HP 12

MP 19


片手剣 90

ランス 80

馬上弓 80 

乗馬 80

回避 72

跳躍 75

知識 31

投擲 75

登攀 60


能力値合計100

スキル+30

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