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ユークライネス姫国に来てから2か月がたっていた。
キーエ周辺だけなのかもしれないがこの国には奇形の野生動物やゴーレム系のモンスターが非常に多く分布しているようで地面も硬く、屈強な植物しか育たないように思えた。
屈強ではないと思われる植物も育っていたのだがヒマワリが多く、糖度が高そうな植物は俺たちが知る限り育ってないようだ。
何が言いたいかというとミナミにいたときは俺たちの生活基盤であったフルーツ生活ができない、生えていてもヒマワリや薬草や実のなっていないよくわからない植物、挙句にモンスターはゴーレム系やなぜか奇形の野生動物なので手に入るドロップ品も鉱物か奇妙な肉に限られるうえ魚を釣ってみたが魚すら奇形だった。
俺とングだけではなくブラも食料事情はまいっていた。
ブラは飲み物は何でもいいとポーションばかりがぶ飲みしていたが流石に果物は食べていたので、なぜかポーションで酔っぱらえるブラにもツマミは必要だったのだ。
ブラはここ1か月さらに酔うことができるポーションを作ろうと研究熱心だった。
「果物は手に入らないし、魚は食べたら死にそうだし、ヒマワリの種はもう飽きた・・・・」
「せやな・・・・」
日々の生活の愚痴ぐらい言いたくなる。
そんな中ブラが笑顔で走ってきた。
「二人ともついに見つけたぞ!味のあるポーションができたぞ!」
ブラ以外意味が理解できていなかった。
「はい?」
「だから、味のあるポーションができたんだって!」
ブラの味覚はとうとうポーション中毒で狂ったらしい、目を輝かせながらポーションを差し出したので二人とも信じてないが飲んでみた。
「苦い、確かに味がする・・・・」
「味するけど苦いわ・・・・薬の味やな・・・・」
ブラだけテンションが高かくもう一つの発見を口にした。
「あと、よくわからんけどポーションで2倍回復するぞ!」
「味は確かにしたけど、ポーションで2倍回復するのは気のせいだろ・・・・・」
「やんなー・・・検証する?」
「検証しに行こうぜ!俺のポーションパワーを見るといい!とりあえず町から出ようぜ」
戦闘にすぐ出れるように町の出口付近に宿を取っていたため5分ほどでキーエの外に出れた。
「ここにライフ50回復するポーションがあるじゃろ?ング、痛くない程度に頼む」
パルスブリットをングが4発叩き込む
「少し多めに削ったけどこれで大丈夫やろ」
「んじゃぁ飲むぞ100回復するから」
ブラが一気にポーションを飲み干すと確かに100回復した。
「バグ利用はいけないんやで?」
「運営に報告だな」
「いやいや待ってくれソイツはおかしい、もう一回見せるぞここにポーション50があるじゃろ?コイツをこうじゃ」
確かに100回復した。
「2回連続で同じ値回復するならバグじゃないよな」
「いや、最初から2倍回復するバグが持続してるのかもしれんやん?」
ングがパルスプリッドを3発俺にあてた。
「なんでこっち攻撃するんだよ」
「イルさん試しに飲んでみてくれ」
ブラがポーションをこっちによこした、回復量は50ですぐさま飲んだが50しか回復しなかった。
「やっぱバグ利用やな」
「驚かせようと思ったんだけどネタばらしするからやめてくれよ・・・・バグ利用者扱いは・・・気づいたら新しいスキルを取得してたんだよオーバードーズって言う、その効果がポーションの効果2倍なんだよ」
ブラの言っていることには驚いた、聞いたことがないスキルだったが実際に回復したからだ。
「そんなスキル聞いたことないけど確かに100回復したよな」
「まぁ、この世界にバグとかないやろしな」
「やっと認めてくれたか、流石に傷ついたぞ」
「さっきの苦いポーションもスキルなん?」
「いやあれは違うんだ、どうやら今までのポーションをシステム画面から作っていた方法だとポーションの味がないみたいで自力でポーションを作ると味が出るみたいなんだ」
俺たちが新しい武器を作れたのと同じ原理だった、ただブラはこれを味に変換したのだ。
もしかしたらこれは料理にも適応されるのではないだろうか。
「それってもしかして料理しても味がでるかもしれないよね?料理してみた?」
「同じこと思ってポーションにミナミで取ったときの肉をすり潰して混ぜてみたんだけど、よくわからないゲルになって味もしないんだよねぇ」
俺とングはその言葉を聞いてがっかりしたがブラは続けた。
「でもカレーっぽい味のポーションは作れたぞ?」
一番最初に苦いポーションを出したのは俺とングを驚かすためだったようだ。
「なんでそれを先に出さなかったんや」
「少し問題があって油が全然ないからなー」
「それでも先に出してくれや」
エルダーテイルの世界に来てから一番食に飢えていたのはングだった、発言から太っているとは思えないがこの中で一番の美食家なのかもしれない。
ブラはカレーのような味のする赤いポーションを取り出した。
「これ何が入ってるん?」
「レッドターメリックにイエローマンドラゴラと生命のハーブとスッポンパウダーとレッドジーラとホワイトコリアンダー」
「レッドターメリックってシンジュク御苑の奥にあるやつだよね在庫ないんじゃない?」
リアルでスパイスを混ぜてインドカレーを作ったことがあるのでターメリックとクミンとコリアンダーを大体1体1対1で混ぜるとカレーのような味になるのは知っていたが塩コショウが足りないとまったく味がないカレーになるのも知っていたがイエローマンドラゴラと生命のハーブに塩分とコショウ独特の風味に近いものがあるのではないかと思った。
普通のスパイスを混ぜたカレーはパプリカやトマトなどを入れない限り黄色や茶色っぽいものができるが、普通のターメリックが黄色いのに対してレッドターメリックなので納得した。
「ところがどっこい、この前オーラと狩りに行ったときに大量に採取してあるんだよね」
オーラとはろぜりんと同じ前のゲームからの3人の共有のフレンドであり、ギルハン良くついてきてもらったりしている。
「ほんまや!カレーの味するわ、確かに油っぽさがないけどこれで十分生活していけるわ!ブラでかしたわ!」
この世界に来てから一番の問題であった食料問題の一歩解決に向かった気がする、しかも一番の美食家もお墨付きの味である、ただカレーだけで生活すると味に飽きるまでもって3日がいいところだろう。
「カレーをベースに味を改良してポーションを作る必要があるな」
俺もカレー味のポーションを飲んでみたが、脂っこさのないドロドロしたインドカレーだった、純粋に美味しいだけではなく久々にしっかり味のするものを食べて涙が出てきた。
「酔った感じはしないけど、ブラ流石だわ」
「いや、流石に味なしのポーションなら酔えたけどカレー味のポーションは酔わないって」
それから3日たった。
ブラの作るカレー味のポーションは作るたびに煮込み時間などのせいか毎回味が変わったぶん幾分かましだったが流石にカレーだけでは飽きてきたので、味の探求の為に色々な薬草を手に入れるべく大地人からクエストを受けて採取できる近隣の薬草以外の薬草を入手するのが主流となっていた。
そんな中ムルティストラーダのギルド名をしたアサシンを発見した、同じ名前のギルドは作ることができないのでムルティになったうちのギルドだが使われやすい名前というわけでもなくギルマススバの理念の元にできたギルドだ。
「ちくしょう・・・・・・JKになりてぇよぉ・・・・・・」
それが彼女の一言目だった、名前はAVON暗殺者レベル90。
エルダーテイルの世界に自動翻訳があるからと言って流石にJKという言葉は使わないので恐らく日本人だ。
AVONはこちらを見てやってきた。
「おぉん!ブライトにングラングラじゃん草はえる、それと誰?」
こっちの事を知っていた、ブラの前の前のゲームの名前を知っていてングの前のゲームの名前を間違えて覚えていた。
「いやそっちこそ誰だよ、ていうかなんで前のゲームの名前知ってるの?俺の名前は知らなかったけどさ」
「ギルド名ムルティだし名前ブラにングだしマジ草はえる、それにその声イルさんじゃん」
声に聞き覚えはなかった、名前を知ってたことに気を取られていたが、女性だが明らかに声が男だ。
「俺はこの声に聞き覚えないんだけど、ていうか見た目女だけど男なのな」
「おぉん、ちくしょう女の子になりきらなきゃ・・・・俺俺、ゆん」
ゆんとは前のゲームのギルメンでゲームがサービス終了する前に違うゲームへ旅立った奴で、エルダーテイルを先に始めムルティストラーダを1人で結成していたようだ、どおりでギルド名が使えなかったわけだ。
俺が酔っぱらってスカイプ中に歌ったのを勝手に動画サイトにUPしたりされたことがある、ネタで何をしでかすかわからない一面がある、いやギルメン全員そういうところあるけど。
「3人ともなんでウクライナにいるの?」
裏声で聞いてきた。
「えっ、ここウクライナなん?ユークライネス姫国だってことは知っとったけど」
「ウクライナってどこらへん?そもそもどんな国か知らないんだけど、ゆんちゃんはなんでウクライナにいるんだ?」
「なんとなく日本サバで暇だったから、場所は東欧だよ」
「いや西欧サーバーじゃん、なのに東欧っておかしくない?」
ニッコリしながら答えた
「おぉん、北欧以外のヨーロッパが西欧サーバーなの知らなかったの3人とも?」
3人とも海外サーバーへ出たことはほとんどなかったため知らなかった。
「あとこの辺チェルノブイリがあるからモンスターに汚染されたモンスター多いんだよねぇ、あと食べられそうな食材も少ないからリアルシフトがあってからプレイヤーほとんどいなくなっちゃったし」
リアルシフトとは恐らく大災害の事だろう、動物に奇形が多かったことから食べないでいたけど正解だったようだ、そして新たな疑問も生まれた。
「チェルノブイリあるならロシアサーバーじゃないの?」
「それはロシアじゃなくてソ連サバだったらね?ウクライナはあくまで東欧だよ?」
ゆんを除いて世界地図に疎かった。
「話まったく変わるけど食事どうしてるん?食料事情で冒険者少なくなってるのに居残ってるってことは何か美味しいもの食べてるん?」
「おぉん、もちろん料理人だしね肉でも焼こうか?」
ゆんはフライパンと発火石を取り出し肉を焼き始めた。
「料理人レベルいくつなん?」
「10」
「いや10って」
「おぉん、出来た」
見事に黒い塊が出来上がった、料理人レベルより料理人としての実力に問題があるようだ。
「これどうやって食べるん・・・・・肉が台無しやん・・・・・」
「肉は捨てるの」
「はっ?捨てるん?何食べろって言うん」
「肉汁」
「肉汁!?」
3人とも声が重なり裏返った。
深皿に肉汁が注がれたものが4つ用意された
「飲んでどうぞ」
油のないカレーばかり飲んでいたので確かに美味しかったが、流石に液体ばっかりでウンザリだった。
「その発火石使っていいか?」
ブラがポーションを温めはじめポーションに肉汁を入れて飲んだ。
「美味い、これだな俺のカレーに足りなかったものは」
更に寒天を取り出して肉汁入りカレーポーションで煮込み始めた。
「3日で改良を加えないと思ったら大間違いだぜ?」
ブラの謎のポーション研究熱は止まることがなかった。
溶けてから過熱をやめて、冷やし始めた。
「ング、ソーサラーかサモナーのスキルで冷やしてくれ」
ングのサブ職業はオカルトダブラーで初伝までの火力しか出せないが一部他の魔法職のスキルを使うことができるのだ。
「って俺はオカルトダブラーやけど入信者の方やで回復しかできひんねん」
「カタカナだと同じオカルトダブラーだから忘れてたわ、自然に冷えるのを待つか・・・まぁ代わりにこれでも食べててくれ」
ブラはマジックバックから赤色のゼリーらしきものを取り出した。
「今朝完成したばっかりなんだけどね、まぁ食べてくれ」
3人とも一緒に食べてみたが、味はカレーだった。
「まぁカレーの味に飽きてるかもしれないけど」
「おぉん、何これカレーじゃんワロ、俺の料理より美味しい」
ゆん1人だけ声に出して驚いたが、固形物なのでポーションよりは携帯食料としては噛みごたえがあるのでよさそうだった。
「川でカレーゼリー冷やしてくるから残りは明日な」
大災害が起きてから食料革命を起こすのは毎回ブラの役目になっていたポーション調合恐るべし。