第二話
絵を描くという行為について「好きか嫌いか」と問われると、私は困惑してしまう。
なぜなら、私にとってそれは、『人畜無害』らしく『人様に不快感を与えず』に『一人で没頭』できる時間潰しの策だったからだ。
学校が定める規則的なスケジュール。前提にあるのは集団行動。
休み時間というものは、一人で過ごすには十分すぎる余暇である。
だから私は、その有り余る時間を消化するために、紙に鉛筆を滑らせることを覚えたにすぎなかった。
しかしそれも、今となっては『人畜有害』、『不快指数120%』、『クラスメイトと共有』という素晴らしく真逆の行為になってしまった。
そう、私は『また』、やらかしてしまったのである。
放課後、他の生徒達が部活動やなんかで散り散りになった頃、私は一人自分の席から動けずにいた。
さっきまでいろんな会話で満ちていた教室から一転、しんと静まり返ったこの場所に、一人。
すっかり私の生きづらい空気に変わってしまった学校。
たかがあんな昼休みの出来事一つで、と言う人もいるかもしれないが、人畜無害を目指してきた私にとってはとんでもない恐怖の始まりでしかなかった。
幼稚園に通っていた頃、先生達が私のことを『敏感で扱いづらい子』と噂していたのを私は今でも覚えている。
それでも小学校に上がった頃は、幼心にそんな自分を変えようと思って積極的にクラスメイトに話しかけようとした。
みんながやっているように、明るく笑顔で話をすれば、友達の輪というのに受け入れてもらえると思っていたのだ。
――しかし。
私は机に顔を伏せ、ぽつりと呟く。
「……馬鹿だなあ」
結果は散々だった。
私はとことん空回りをして、『何を言いたいのかよく分からない子』、そしておまけに『笑顔が怖い子』というレッテルを貼られてしまった。
どうも私が笑顔だと思っていたものは、みんなの笑顔と違っていたようで。
みんなから避けられるようになるのはあっという間のことだった。
それから私は、なるべく『人様に不快感を与えない』ことを目標に、目立たぬように目立たぬように、それこそ日陰と同化するように過ごしてきた――はずだった。
それなのに。
「……なんで」
藤沢くんの『体育倉庫裏で待っている』という呼び出しを忘れたわけではない。
ここで行くのをためらっていても、同じクラスの彼から逃れることができないのは分かり切っている。
それでも、こわくて。
重い重い身体を私は一向に動かせずにいた。




