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01



来夢らいむが言ってた新しい監督って、どんな奴だと思う?」

「……興味ねぇーです。さっさと構えやがれです」

「分かったよ。ほら」


 太陽が西の空へ沈んでいく頃。

 一級河川『本相模川』の河川敷マウンドには二人の影。

 キャッチャーが投げたボールをグローブに収めた黒髪の美少女は、大きく振りかぶって左足を引く。


「……っ……」


 右足を軸にして左足を上げ、左肩と右肩を結んだ線をキャッチャーへ向けると同時に視線を外し、体重を後ろから前へ。


「いやっーー!」


 小学生と勘違いしてしまいそうな儚い身体から放たれた一球目。

 しなやかな右腕から放たれた直球は滑らかな黒髪を残し構える先へ。


「……っ!」


 空気を切り裂くストレートがパシッ、と乾いた音をたてミットにめり込む。


「おう、ナイスボール! 相変わらず寸分の狂いもねぇーな。うるし


 キャッチャーマスクを上げた清美きよみはハニカミ笑顔で親指を立てる。

 赤と黒のストライプ柄のリボンで結んだサイドポニーをパンパン揺らしながら黒髪の美少女、かがみ うるしの元へ近づき、頭をポンッて叩く。

 当の本人は目をバッテンにしているが。


「うっ、馬鹿力で叩くんじゃねーです。これで成長が止まったら清美のこと恨んでやるです! 一生刑務所でカツ丼生活にしてやるですっ!!」


 と頭二個分高い清美に対して、棘の強い視線で睨み上げる。


「ははは、大丈夫だって。諦めが肝心って言葉知ってるか?」

「漆様を嘗めるのもいい加減にするです。大体、漆の方がお姉ちゃんなのになんで馬鹿にされねーといけねーですか」

「そりゃこれだけ体格差が有ればな……」


 清美は曲げた腰に手を当て、漆の脳天からスパイクの先を線で結ぶように視線を動かしニヤニヤ。


「じっと見るなです」

「身長は?」

「138いえ、この前計った時は140です。……文部科学省公認です」

「体重は?」

「……そこそこです」

「胸は?」

「……D。いえ、Eです。ぽよんぽよんですっ!」

「ダウトだな」

「ダッ、ダウトじゃねーです!! 事実です。大体、清美は贅肉が多すぎです。だから漆のストレートがボールになるんです。この無駄乳が球審を欺きやがるですっ!!!」

「あぁぁぁ! こっ……こらっ!! こんな公衆の面前でぇぇ……あぁぁぁぁぁんんっ!!!」


 胸のサイズを罵られたAカップ少女はプロテクターの隙間に手を入れ、Gの丘陵を揉みしごく。

 甘い吐息を物ともせず牙を向ける漆を引きはがそうと全力するが、超高校生級のストレートを投げる右手はがっちり突起を摘む。

 盛りに盛った表情で漆を払うが効果無し、むしろ悪化させている。


「んんっっ……!! このやろっ!!!」


 ええいままよ、な勢いで脳天目掛けて振り下ろす。


「うきゃっ!?!? 叩きやがったです。この大根腕。鬼畜。樹齢300年!!」

「へぇー、そんな事言っても良いのかな……う・る・し?」

「脅しても無駄です。お姉ちゃんは妹を懲らしめる義務が有るです。清美はもっと敬うです」


 プンすか腕を組む漆。

 もっぱら反省の色が無い姿に、清美はため息をつく。


「はいはいはい。わーたよ、お姉さま」

「はい、は一回です」

「はいよ。じゃあ、練習再開しようぜ。試合もうすぐだしな」

「だから、指図すんじゃーねーです!!」


 清美はホームベースの後ろへ戻りミットを構え、漆は左手のグローブを外し、右手にはめ替える。


「……ぜってぇ負けねぇーです。クリス」


 闘志を込めた左腕から放たれたストレートは空気の壁を吹き飛ばし、ストライクゾーンギリギリを抉る。

 もう負けたくない、その一心を表すように。


 


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