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暑い夏の日だった。
下校中の海は後ろから肩を突き飛ばされ、道路に前のめりに倒れた。
アスファルトの路面は、海の膝を容赦なく削る。
傷口の周りがじわじわと熱くなるのを感じた。
覆いかぶさってくる容赦の無い嘲笑。
無遠慮に存在を否定してくる言葉の弾丸が、海の背中に打ち込まれる。
はははははははきゃはははははっはかんたんにたおれたよこいつほんとうによわっちいなこんなやつでもいきているんだよなさっさとしんじまえばいいのにこいつのおやしってるかちちおやいないらしいぜまじかよあいつのきもちわりいあざにのろわれてるんじゃねえのかつぎはあいつのははおやがしんじまうんじゃねえかぎゃはははあはは
飛んでくる言葉たちは、海の体の一部分を非難するものだった。
海には、生まれつき左耳の後ろから頬にかけて、痣があった。
その痣は、間違いなく海の一部であった。
一部ではあったが、時々それがものすごく忌まわしいもののように感じられることがある。
まるで自分の体ではない別の何かがそこに乗り移っているような違和感を感じることさえある。
じくじくとした感覚。
全部放り出してしまいたい感覚を必死に抑え、海は呻くように言った。
「うつるぞ」
海はゆっくりと立ち上がる。
海の声は大きな声ではなかったが、そこにいる誰もがその声を聴いた。
楽しそうに笑っていたクラスメイト達が、ギョッとした表情に変わる。
「この痣には、不幸が詰まっている。父さんは不幸が伝染して死んだんだよ」
クラスメイト達に右手をかざし、海はゆっくりと近づく。
こうやって手をかざして、どろどろした何もかもを全部出してしまえたら、どれほど楽だろうと思いながら。
はぁこいつなにいってんだうわきもちわりいよってくんなよこんなやつほっといてげーむでもやろうぜうわなにすんだよさわんなようわうわあうわ
蜘蛛の子を散らすように、クラスメイト達はいなくなった。海は周囲が暗くなるまで、そのまま道路に立ち尽くしていた。