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「食べられません…」
「食べられない?どうして?」
ガヤガヤとしていた給食の時間。空気を切り裂くような担任教師の声が響いた。
「その…もう、お腹がいっぱいで…」
「残すなら、わかってるのよね?」
「…」
「この給食はね、たくさんの人が力を合わせて作っているの。栄養士の人が献立を考えて、調理をする人がみんなで料理して、そうして作られた料理を学校まで運んでくれる人がいて。力を合わせて毎日一生懸命作ってくれているのよ」
「…はい」
「それを残すということは、たくさんの人たちの気持ちを踏みにじることなの。裏切ることなの。裏切りは、とても罪深い行為…わかるわよね?」
「…でも、お腹がいっぱいで」
担任教師は大仰にため息を吐くと、立ち上がった。
「わかったわ。だったら先生、もう言う事はないわ」
「だけどね、マイちゃん。罪には、罰が必要なの。そうでなければ、社会は成り立っていかないわ」
担任教師はゆっくり立ち上がる。
「罪は裁かれなければならない!」
そう叫ぶと、右手を振り上げる。そのまま勢いをつけて、マイの左頬に叩き付けた。
マイはたまらずよろめく。手に持っていた給食が床にこぼれてしまった。
「あなたが残したのは、パンと野菜サラダね二つ分だから、2回よね」
高橋は確認するように呟くと、左の手を振り上げる。右頬を打たれたマイは、今度は反対方向によろめく。
「…残してしまって申し訳ありませんでした。作ってくれた人の気持ちを考えて、次からは全部食べます」
「わかりました。気を付けましょうね」
震える声でマイから発せられたテンプレートの文言を聞くと、担任教師は満足気に席に戻った。
「なあ」
それが海に対しての呼びかけだという事に気が付くまでに、さらにもう一回を要した。
「なあ」
「…え、ぼく?」
「ろくな人間がよ、いねぇな」
それに関しては海も薄々気づいていたが、かといってお面の女子の声は周囲を憚ることのない音量だったため、肯定も否定も返せずに海は女の子の方を見るだけだった。