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Ensemble Cast  作者: 小雨
痣のある少年
1/5

1-1

日が昇る。

小鳥のさえずる声が聞こえ始める。

ゆっくりと意識が覚醒していくのを、海は感じていた。

ふわふわと漂っていた意識が、徐々に重りを付けられたように沈み込んでいくようだ。

瞬間、押し寄せてくる憂鬱。

海は布団の中で丸くなった。小さく、小さく、布団に包まる。

起きなければいけない時間までは、まだ時間があった。

押しつぶされそうな気持で、海はその時間を待った。

目覚まし時計が音を発する直前に海は起き上がり、着替えを始めた。


「海、おはよう」

階下に下りると、母親が洗濯機を回しながら声をかけてきた。

目をこすりながら自分の席に座り、テーブルに用意されていたトーストを頬張る。

「海、割烹着乾いてるから。ランドセルのところに置いておくからね」

洗濯機の前の母親から声が飛んだ。

海は小さく頷くと、食べ終えた食器を運び洗面台へ向かう。

蛇口を捻ると、冷たい水が出た。五月とはいえ、寝起きに冷水は少々沁みた。

改めて鏡に映る自分の顔を見た。

………酷い顔。

髪は肩にかかるくらいまで伸び、目にはクマができていた。


「…行ってきます」

ずっしりと重く感じるランドセルを緩慢な動作で背負うと、海は家を出た。


坂の多い町だった。

学校にたどり着くまでには、大きな坂を二つ越えなくてはならなず、二つ目の坂を登り切ったところに学校は建っていた。

毎日見る、変わらない風景。信号待ちをしている、見慣れた人々。

そんな風景に混じり、海は学校へ向かった。


学校へ続く緩やかな坂道を、海はぼんやりと登る。

朝特有の活気。登校する児童たちの明るい声。なぜ世界はこんなに楽しそうな声ばかりで溢れているのか、海は不思議だった。

海の通う小学校の向かいには、公立の中学校が併設されている。受験をしない者のほとんどが、そこに通うことになるのだろう。

海にとっても、それは比較的近い将来訪れるはずのイベントである。にもかかわらず、海はあまり実感することができないでいた。

校門を潜り抜け校舎に入ると、自分の教室に向かう。

教室内からは、楽しそうな声が漏れ出ていた。

追いかけっこをしている生徒が向かいから走って来て、海をスレスレでかわして走り去っていく。


楽しそうだなあ


漠然とそんなことを考えながら海は自分の教室に入り、席につく。

ほぼ同時に、始業を告げるチャイムが鳴った。

担任が朝の挨拶とともに教室に入ってくる。

いつもと変わらぬ朝の風景だったが、いつもと違うところが一つあった。

担任の後ろについて、女の子が歩いてくる。

「今日はみなさんに新しいお友達を紹介します!」


お面で顔を隠した女子が海のクラスに転入してきたのは、小学6年生になる4月の事だった。

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