父と息子たち
重たい襖が開くと、部屋の奥には父上が、そしてその少し傍らには、いつものように控えめながらも隙のない佇まいの隆家殿が座っていた。
隆家殿は、儂ら三人が並んで入ってきたのを見て、一瞬だけ驚いたように目を見開いた。けれど、すぐに事の重大さを察したのか、元春の方をちらりと見て、微かに頷いた。
「……揃いも揃って、何事だ。隆元、元春、そして景までも」
父上の声が低く響く。儂はその威圧感に喉が渇くのを感じた。
だが横にいる隆家殿の落ち着いた存在感に、どこか救われる思いがした。
「父上。雫のことで、お願いに参りました」
私の言葉に、父上の視線が険しさを増す。その緊張を解いたのは、意外にも隆家殿だった。
「大殿。……殿(隆元)も、春殿も、景殿も、決して大殿に弓を引こうというのではございませぬ。ただ、今の毛利家内の不穏な空気をおさめ、毛利の盤石を期すための……臣下としての進言とお聞き届けくだされ。」
隆家殿は、父上の気性を知り尽くしている。彼がこうして組織としての損得を強調しながら添えてくれることで、儂らの言葉がただの我が儘や情ではなく、毛利家としての正論に昇華されていくのを感じた。
父上の眼を真っ直ぐに見据えて、腹の底から声を絞り出した。
「一つ、今後、雫への不必要なお手つきはなさらぬこと。
一つ、雫の身柄は、この隆元の館にて預からせていただくこと。
一つ……彼女を追い詰めぬよう、父上から未来について問うことを禁じること。
……これらが守られぬのであれば、私は、嫡男としての責務を果たす自信がございませぬ」
言い終えた後の沈黙は、永遠のように長く感じられた。父上の殺気が、皮膚をチリチリと焼く。
「……わしに、条件を付けるというのか。」
隆景がそれに答える
「雫殿が倒れたあの時、私達の間には動揺が走りました。……父上への不信、そして兄弟間の不和。これこそが、毛利にとって最大の『損』にございます。ゆえに、三つの約束を頂きたいのであります。」
「毛利を、そして雫を救うための、嫡男としての願いにございます。」
その時、ずっと黙っていた父上が、ふっと視線を逸らして窓の外を見た。
「……春、景。お前たちも、本当に同じ思いか。」
「ああ。」
「……異存ございません。それが毛利の最善かと。」
元春の無頼な言葉と、隆景の冷徹な肯定。
三人の意志が一つに重なった瞬間、部屋の空気が、わずかに緩んだ気がした。




