綻び
日差しが眩しい午後。素振りを終えて庭の隅で息を整えていた。
毎晩体力使っているせいか、集中出来ていないせいなのか…いつもよりすぐにへばってしまう。
息が上がってもう腕も上がらない。
「体力落ちたなぁ…。」
汗を手ぬぐいで拭っていると
一時戻っていた小早川隆景が通りかかる。
「雫殿。……ずいぶんと、熱心ですね」
聞き慣れた涼やかな声。けれど、振り返った私を見た瞬間、隆景様の目が何か違和感を感じたように鋭く光った。
「雫殿。……何か、変わりましたね。」
その一言が、私の心に深く突き刺さる。
隆景様は、私に一歩近づき、横に座った。そしてその顔を覗き込む。
「父上に呼び出される日々が続いていると聞きました。何を、させられているのですか。……その目は、初めて会った時のあなたのものではない。」
鋭い指摘に、私は
「これは…私の使命ですから。」と無理矢理笑顔を作った。
歴史を守らなきゃ。元清を産まなきゃ。そうしないと、未来が変わってしまう。
平気だよ、その為に私はここに来たのだから。
けれど、自分に言い聞かせてきたその正論を繰り返す度に、急に砂の城のように何かが崩れていく音がする。
立て直そうともがくほど崩壊が止められない…
「……っ、戻りたい……。」
不意に、堰を切ったように言葉が溢れ出す。
「戻りたい……戻して……。未来に、お父さんとお母さんのところに……もう嫌だ……。」
隆景様は驚いた顔をしながら周囲を確認するように見渡した後、私の顔を他の誰にも見せないように抱き寄せた。
戻れると思っていたのは、まだ自分が自分であった時。
けれど今は、身体が、細胞が、元就公に侵食され、塗り替えられていく。
自分が自分でなくなっていく恐怖に、ぐちゃぐちゃになっていく。
震える私の肩を抱きしめる隆景様の手は強く優しく私を支えていた。




