涙と絶望と熱
雨が上がっても、部屋の空気は湿り気を帯びたままだった。
あれから、幾夜が過ぎただろう。
毎日、決まった刻限に元就公が訪れる。
隆元様には元就公からしばらく私の力を借りたいから貸してくれと伝えているらしい。
だから私は今元就公の屋敷で読み書きの練習や素振りを日中し、毎晩元就公に抱かれる生活をしていた。
元就公の足音を聞くたびに、私の心臓は跳ね、指先は冷たく強張る。
けれど、それ以上に早く、下腹部は重く、熱い疼きを覚え始めていた。
「……雫殿。今宵も、よう待っておったな」
元就公の手が、もはや迷いなく着物の合わせ目に忍び込む。
最初の夜のような戸惑いはない。その手つきは、まるでおのれの領地を慈しむように、隅々までを知り尽くした確信に満ちている。
「っ……あ……」
触れられた瞬間、口から拒絶を忘れたような吐息が漏れた。
自分でも信じられない。あんなにも同級生が話している内容が気持ち悪いと思っていたはずなのに、元就公の指先が、最も熱を欲している場所を正確に捉えるたびに、身体が勝手に悦びを奏でてしまう。
丁寧な、どこまでも丁寧な愛撫。
元就公は、どの程度の強さで、どの場所をなぞられれば、私が声を殺せなくなるかをすべて把握していた。
「嫌……嫌です、こんなの……私じゃ…ない…」
枕に顔を埋め、涙を流しながら首を振る。
けれど、元就公の低い笑みを含んだ吐息が耳元にかかると、背筋を甘い痺れが駆け抜け、腰が勝手に彼を求めて跳ねる。
繰り返されることで、私の身体は「毛利の女」として、彼の子を宿すための土壌へと作り変えられていく。
まるで未来への道を何度も丁寧に塗りつぶすようだった。
元就公の「雄」としての重みが覆い被さる。
その重みさえ、今ではどこか安堵を覚えるほどに馴染んでしまった自分。
重なり合うたびに、意識は白く濁り、思考が回らなくなっていく。
今、この瞬間、支配しているのは、元就公の体温と、彼がもたらす執拗で濃密な快楽だけだった。
「……良い。そのままで良い。お主の身体は、誠に素直じゃ」
元就公の賛美は、どんどん自分の何かを削っていくようなそんな言葉だった。
絶頂を迎える瞬間、自分を支える元就公の腕に、爪を立てて縋り付いた。
それは愛ではなく、依存に近しい。
激しい律動の果て、中に熱いものが注ぎ込まれる感覚を、もはや無感覚ではいられなかった。それを「正しい歴史への対価」だと脳は言い聞かせるけれど、身体はただ、一人の男に暴かれ、満たされた法悦に、無残にも震えていた。
事が終わった後、元就公は必ず私の涙を指で掬い、優しく唇を寄せる。
「今日も、ありがとう。……もうじき、命が灯る。案ずるな、雫」
その優しさに、再び声を殺して泣いた。
家のために無理やり抱いてしまえばいいのに。
なのに絶対それをしない。
反応を見ながら丁寧に優しく宝物のように扱われた。
明日も、明後日も、この丁寧な侵略は続くのだろう。きっと子供が出来るまで毎日。
身体が彼を覚えるたびに、心は死に絶え、けれど女としての命だけが、皮肉にも鮮やかに咲き誇っていく。
暗闇のなかで、自分の中に芽生えようとする「誰か」の気配を、ただ恐ろしく感じていた。
それと同時に
「早く出来てくれないかな…」
そう思ってしまっていた




