はじめて
外の雨音はいつの間にか、部屋の中の沈黙をより深く、重くしていた。
「……雫殿。力を抜くのじゃ」
元就公の声は、驚くほど静かで、慈しむような温かみすら帯びていた。
その掌が私の肩から腕、そして指先へと滑っていく。慈愛に満ちたその動きは、まるで今にも壊れそうな宝物を掬うように淀みなく、かつ圧倒的な「雄」の力を秘めていた。
固く目をつむり、歯を食いしばる。
けれど、触れられるたびに、冷え切っていたはずの皮膚の温度が、じわりと、内側から溶け出すように上がっていく。
……やめて、そんなに優しくしないで……。
心の中の叫びを裏切るように、元就公の指は、これまで自分でも触れたことのないような場所を、羽毛のような軽やかさで愛撫していく。
それは、性急な欲望などではなく、私の身体を丁寧に、一歩ずつこの「戦国の世」へと繋ぎ止めるための、冷徹なまでの儀式だった。
「……っ……」
不意に、背筋を熱い戦慄が駆け抜けた。
今まで「気持ち悪い」と避けてきたはずの感覚が、元就公の指先が触れるたびに、甘く痺れるような熱を持って思考を奪っていく。
丁寧であればあるほど、逃げ場がない。
もし乱暴にされたなら、「ひどいことをされた」という被害者でいられたのに。
こんなにも丁寧に、大切に、反応を引き出されてしまったら…
「やだ…っ。」
身体が勝手に弓なりになり、元就公の肩を掴む指先に力が入る。
こんなの私の身体じゃない…。知らない。こんなの。
熱く、どろどろとした快楽が、下腹部から脳を麻痺させていく。
その快感が増すごとに、目からは、絶望の涙が溢れ出した。
呼吸も浅くなっていく。
「お主は、よう頑張っておる。案ずるな……痛いようにはせぬ。」
元就公の低い声が、パニックを優しく包み込む。
その「優しさ」が、何よりも残酷な毒として回ったように脳内を染め上げていく。
未来の両親への想いも、今されている知らない事への恐怖や帰れなくなるという絶望も、この丁寧な官能の渦に飲み込まれて、消えていく。
やがて、自分の意志とは無関係に、身体が限界を迎える。
その瞬間、視界が白く塗りつぶされた。
視たのは幸福な光などではなく、何か失ったような…そんな苦しさだった。
戻りたいと思っていたのかさえ分からない。でもこれでもし本当に戻れなくなったんだとしたら…?
「っ…!」
私の"初めて"は涙の中に溺れて消えた。




