未来への決断
突然元就公に呼ばれた。
私だけ呼ばれたから一人で伺うことになった。
何の用かな。
曇りなのに汗ばむ程暑い気温の中、呼ばれた部屋に入る。
なんだろう。今までに感じたことの無い圧迫感、威圧感……そして
「雫殿、よく参った。」
怖い…元就公の目が笑っていない。
何かしたのかな、私。
やっぱりこんな身元のしれない女処分すると言う話になったのかな。
指先が火照る体と反対に冷えていく。
「本日お主を呼んだのは、お主のこれからについて話したくて呼んだのじゃ。」
声はいつも通り優しい。なのになんでこんなに恐怖を感じるのだろう。
震える指先の音すら響きそうなくらい静まり返った部屋の外はどんどん雨粒の音が増えていった。
「お主はこれからどうしたいのじゃ?」
「…こ、これから…でしょうか…。」
これからなんて分からない。
いや歴史知ってるから分かっている方だけど、未来に帰れる方法も、いつ帰れるかも分からないし、もしかしたらこれから先二度と帰れないかもしれない。
そんな中これからなんて…
「わ、分からないです。」
「そうか。帰りたいか?」
毛利家の個性豊かでお互いを想い合う感じが好きだ。
でも私には未来に両親がいて、未来では私は今どういう扱いになっているか分からないがきっと居なくなって心配しているはずだ。
嫌なことも言っていたけど、もし帰れるのであれば帰るべきだろう。
歴史への干渉も怖い。このまま私がいると歴史が変わってしまうかもしれない。
黙り込んだ私に元就公は続ける。
「今毛利家は家の存続に関わる危機に瀕しておる。
まずは井上元兼の粛清じゃ。これはもうお主の耳にも入って知っているの。
まだ家中は混乱のさ中にある。
また周防の大内氏で怪しい動きがあり、近々戦になるかもしれぬ。
そして隆元に男子が産まれないことも問題じゃ。
尾崎局はどうやら子が出来ぬ胎のようじゃ。このままだと跡取りがいないまま断絶の未来も考えられる。
お主は未来を知っておるな。
ならば聞くが、もし今、このまま子が生まれず毛利が潰れたら、お主の知る"未来"はどうなる?
お主の両親や友が生きる世界は、本当にそのまま存在できるのか?」
周防での戦…もしかして陶晴賢のクーデター?
毛利輝元が生まれるのが厳島の戦いの前のはず…でも詳しいタイミングはさすがに覚えていない…。
もしかして私が来たことで本来産まれるはずだった輝元が産まれないことになったの?
頭が混乱する。
私の存在がすでに歴史に干渉してしまったのかな。
そうなったらこれから先本来起きるはずだったイベントが起きなくて、毛利家が滅びる未来も有り得るよね。
私の知る両親や友達や周りの人が生きていた未来は訪れないかもしれないし、形を大きく変えてしまうかもしれない。
思考が溢れて気持ち悪い…手の震えが止まらず、自分の腕を掴む。
「すまぬな。辛いことを言ったの。」
「戻り方も分からなくて…戻れるかも…
なので今は…戻りたいとか戻りたくないとか考えられないです。」
全て分からない。予想もつかない。
何をしたら歴史に影響が出ないのか。干渉すべきなのかすべきではないのか…。
「そうか。ではこれは儂からの提案なんじゃが…ここで毛利家の子を産んでくれぬかの?」
「えっ…」
なんて…?
「儂もしくは隆元の子を産んでくれぬか。」
「元就公には…側室がいらっしゃいますよね…。隆元様にも尾崎局様が…。」
「そうじゃの。今儂は儂か隆元と言ったが、出来れば儂の子を産んで欲しい。
側室たちは皆、どこかの国人衆の娘じゃ。あやつらが産めば、再び井上のような権力争いが起き、毛利は内側から腐る。……だが、お主には後ろ盾がない。天から降ってきたお主が産む子こそが、誰の派閥にも属さぬ。
これが毛利家の…そして未来のためになるとは思わないか。」
毛利輝元の1~2歳上に穂井田元清がいる。今が何年で穂井田元清が生まれてるはずなのかは分からない。でも側室に妊娠している人が居ないのであれば穂井田元清が産まれないような歴史のズレが既に起きているのかもしれない。
穂井田元清が産まれなければ後に広島城建築の際に縄張りをする人が居なくなる。広島の中心地は広島城の城下町として栄えた街。広島の未来に影響が出るはずだ。
考えがまとまらず床を見つめ続ける私に
「お主は未来から来たから大内家がどうなるか知っておろう。隆元は優しすぎる。義隆殿が亡くなることでもあればきっと心を壊してしまうであろう。
そしてあやつは、愛さぬ女(側室)を抱くことに耐えられぬ男だ。無理に抱かせれば、あやつの心はさらに削れてしまうであろう。でもここでお主が断れば儂は隆元に側室を娶ってでも子をなせと言うしかなくなる。隆元の心を殺してまで、あやつに義務を強いるのか?」
これはもう"はい"以外の答えはない。歴史上毛利隆元は尾崎局しか奥さんを迎えていない。私の存在が影響して側室を迎えて子供を作れば歴史のズレが起きる。
今私が何をするのが正しいかは分からない。でも、毛利隆元という優しい人に望まない側室を娶らせて子供を作るようなことはさせたくない。
「私が元就公の子を作れば…毛利家は助かるんですよね…?」
震える声で絞り出した言葉を聞いて元就公はやっとにっこりと笑った。
「分かりました。私は貴方の子供を作ります。」
どうかこの選択が歴史のズレを修正する選択になりますように…




