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鼓星  作者: 吉川元景
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絵をえがく

家中がずっと騒がしい気がする。

そりゃそうだ。井上氏のような権力を持った家が無くなり新しい体制になったんだ。

(まつりごと)について詳しくない私でも分かる。

きっと今は元就公も隆元様も大変だろう。

そう思いいつも通り素振りや文字の読み書きを練習していたが息が詰まるようだった。

厠に行った帰りにふと息抜きで隆元様の部屋に寄る。

声をかけたら迷惑かな。

そう悩んでいると。

「雫殿か?入るといい。」

「はい。失礼します。」

隆元様は集中しながら何かを描いている。

声をかけるのを躊躇う程の集中だ。

キリが良くなったのかしばらくしたら振り返り

「雫殿がいた世界では絵を描いたりするのか?」

と寂しそうに聞いてきた。

「学校…えっと読み書きを学ぶ場所でも習いますし、絵を描くのが好きな子もいました。」

元の世界でつるんでいたうちの一人がイラストを描くのが好きでペンタブ?ってやつで絵を描いていた気がする。

「そうか。それはどんな身分の者でもか?」

「そうですね…。」

隆元様は毛利家当主。あまり褒められた行為ではないのであろう。

「そうか…未来はよい世界じゃな…。」

そう言いながら書きかけの絵を眺める。

「これはどこの風景ですか?」

「儂が人質で行っていたところで見た風景じゃ。」

山口の風景か。

「綺麗なところですね。」

「…そうか。綺麗と言ってくれるか。儂が人質で行っていたところには大内義隆殿という毛利家と比較にならないほど大きな家を治めている方がいたのだ。」

大内義隆…。毛利家の戦国史をかじったことがあれば何度も目にする人物だ。山口を小京都と言われるほど文化的にも栄えさせた人だ。確か陶晴賢にクーデター起こされて殺されるんだっけ。まだこの時点では生きているんだっけ。

携帯が繋がらないからちょっとした時系列が曖昧になる。

そんな考え事をしている私を余所に隆元様は続きを話していた。

「あの方は本当に文化人として凄い方なのだ。儂なんかは足元にも及ばぬ。」

ああこういう目を私は知っている。これは"憧れ"と言うのだ。

「良い出会いがあったのですね。」

「そうだな。」と本当に嬉しそうにふわりと笑う隆元様の顔を見ると、なんだか私の心臓は隆元様の柔らかい笑顔とは違って強く脈打った。

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