ボクはこの世界で
「なあバレリア。これでいいんだと思うか」
「とは?」
ウインドウは決戦の前、バレリアに心の内を吐露する。
「俺たちは俺たちのまま進んでいくしかねえって…そう思うんだけどさ。ここでレイのやつを倒して、言うこと聞かせて、それでいいのかってのはやっぱりどうしても付きまとうんだよ」
「…あなたらしくないですね」
「まあそうだねぇ。ガラじゃねえとは思うよ」
しかし、それは悪い変化ではないと思う。クラウドも、初めて必死になれるものを見出し、目を見張るほどの成長を見せた。
「ですが…いえ、偉そうに言えることはない、ですね」
一つ、溜息を吐いた。
「…来たなレイ」
そんな会話をしている間に、レイが姿を現した。いや、レイだけではなかった
「…リーリア?」
ウインドウは少なからず驚いた。
「ごめんなさい、えっと…」
「おにいちゃんがあやまることじゃないよ。わたしが…」
「いや、責めるつもりはない…そうだな。リーリアも、見届けるべきなんだろう」
謝りかけたレイを遮って自分を主張した。
(これは…)
バレリアの胸の中には予感があった。具体的ではなく、小さい、何かが起こるのではないか、とそんな予感が。
「決着はどうする?」
「そうですねぇ…ここまで来たら、納得のいくまで、で、いいのではないですか?」
「お前っ…」
バレリアの突然の提案にウインドウは驚く。
「ボクは構いません。みんなに、ボクの」
「言うじゃねえかレイ。なら、俺も全力で説教してやるよ」
「それでは始め」
そして二人は同時に相手に向かっていった。
「っ!?どういうつもりだバレリア」
「元々こういう類の喧嘩です。なら、最後までやらせないと解決できないこともあるでしょう」
「っぁあ~!!たく、やばくなったら止めるからな!」
激しくぶつかり合う音が聞こえる。
「流石だな。俺もそれなりに自信は付けてきたつもりなんだが」
「はぁ…ふ…!」
より鋭さを増し、殺気すらこもるレイの剣をクラウドは受け流す。しかし完全にはいかず、剣を受けた手を離しそうになるのを、痛みに悲鳴を上げそうになるのを必死に我慢する。
「お前さ。多分いろいろ背負おうとすぎなんだ。強くなるのは何のためだよ。俺はさ…みんなが笑えればいいって、そう思うから強くなりてえってそう思うんだ」
「…それは…」
「…そっか。お前も、同じだったか。安心した」
言葉を交わしながら、しかしそれ以上に雄弁に剣は語る。
「なあレイ。お前はただ、間違っただけなんだ」
「…まち、がい…?」
「そうだよ。俺達と一緒にバカやろうぜ。その方が、きっと‥」
「…それは………ちがう…」
「……レイ…?」
「おにい…ちゃん……?」
レイの声は響いた。その、深淵のような声に、その場にいた者たち全員が、息を飲んだ。
何かが、違う。
「ボクは…この世界を守りたい!もう大切なものを失いたくない。その為に、ボクなんて要らない。だから、だから…!」
「お前何言って…!?」
一瞬、目を離す隙もなく、懐に入られた。素早く反応し、剣を構える。これで防ぐ、と気構えも間に合ったと思った。しかし、それは甘かったと思い知らされる。
(光…!?)
光が伸びてきた、としか言いようがなかった。
レイの持つ木剣が光り、こちらの木剣を切り裂いた。何が起こったのか、理解する前に胸にまで届いた切り傷からどくどくと血が出ているのを感じた。
そして、倒れた自分に真っ直ぐと向けられた剣先を見る。
「はは…何だ?レイ、お前…」
「よく分からない…けど。やらなくちゃならないならボクは…」
「言っておくが…俺は諦めねえ。お前を怖がったりもしてやらねえ。まだ終わらせたりなんかしない」
「そう、ですか。はは…なら、ちょうどいいのかな。余計な未練もなくなる…」
「おい!レイ!…っ!?止め…」
ウインドウが、バレリアが止めに入ろうと駆け出した瞬間、信じられないものを見た。
「リー、リア…」
「だめだよ…おにいちゃん…」
リーリアが、必死にレイの体にしがみついていた。
「離して。そうしないとボクは…」
先程まで、何があろうとも止まらないと思っていたレイの気持ちは、容易く崩れかけていた。
「よかった…」
「何が…」
「わたしね…ずっと。ふみだすゆうきがなかったの。おとうさんに、おにいちゃんについていきたいって、そんなかんたんなことがいいだせなかった」
「リーリア…」
「だから、こうして、おにいちゃんのことをとめられて、ぶつかって…だから…わたし」
「は…ははは!そっか…ボクは、間違って、いたんだね」
「だから…だから…!」
「…ボクの…負けだ」
「くぅー…」
「久しぶりにこんな満足そうな顔を見たな」
あの後、緊張の糸が切れたようにレイにしがみついたまま寝入ってしまったリーリアの頭をウインドウは感慨深げに撫でる。
「ウインドウさん、バレリアさん、クラウドさん…ボクは」
「たく。これからは親子仲良くな」
コツンと、クラウドはレイの頭を叩いた。それで断罪は終わりだと。
「それにしても…先ほどのレイ君の力は…」
「ボクにも分からないんですが…」
(あれは…あの時のボクの感情は…ボクが忘れてしまったナニカ…)