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ある世界の出来事~光の勇者編~  作者: 山崎世界
序章:風の世界編
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決意


「ここが、君がこれから住む仮宿です。」

 ウインドウとは途中で分かれ、レイはバレリアに連れられて、警備小屋へと赴く。それなりに手入れされていて、また同時に生活臭もする。

 レイは、じっと、どことも無く家を見つめた。一体何を思っているのだろうか、もしかしたら後悔であって欲しい、というのは希望的観測だろうか。

「それでは、何かあったらきちんと人に頼ってください。それさえ守れればあまり言うこともありません。」

 バレリアは、一番かけなければならないと思う言葉を伝える。もしかしたら、レイは怪我や病気を患っても、一人で耐えているのかもしれない。寂しさに押し潰されることもあるかもしれない。

訓練場もそうなのだが、ある程度騒音が起きてもいいように他のものの家とは少し離れたところに警備小屋は建っている。だから、一人で泣いていても誰にも気付かれないかもしれない。

 しかし、押し黙っているレイを見て、バレリアは諦めの溜息を吐いた。

「それでは、三日後迎えに来ます。忘れないでください。ただ・・・」

 無駄だろう、と思っても、言わずにはいられない。

「寂しくなったら、もういいと思ったら、帰っていいのですよ。いつでも、あの家へ」

 それでも、レイは黙る。ただ、寂しさや哀しさ、懐かしさに、心が揺れたかもしれない。

 そして、バレリアは家を発つ。しかし、気付いた。自分が出て行った後、すぐにレイは素振りを始めた。

 本気で勝つ気なのだ。迷おうと、自分の意志を貫こうとしているのだ。そして、クラウドの持つ欠点を思い出し、

「勝てないかも、しれないですねぇ」

 誰にとも無くそう呟いた。そして、バレリアの足は、訓練場とは別の場所へと赴いた。


「ど、どうしたの!?お父さん」

 リーリアが、突然帰ってきた父親に対し、驚愕の表情で出迎える。

「あ!?・・・っ!?リーリア・・・」

 ウインドウは、何ともばつの悪く頬を掻く。そして、落ち込んだ。

 レイの我侭に対してというより自分の不甲斐なさからか、苛立っていた。そして、それを話しかけてきたリーリアにぶつけかけてしまった。そして、それに気付いて、今や苛立ちは冷め、不甲斐なさに落ち込む。

「お父さん・・・」

 どう声をかけるべきなのだろう、とリーリアは思う。何が原因かを聞くべきか、元気を出してと励ますべきか。

(そういえば、お兄ちゃんが、いない・・・?)

 そういえば、ここを出たいと、レイは言っていた。まさか、と思う。それについて、深く尋ねるべきなのか。

どれが正解なのか、分からない。だが

(聞かなきゃ・・・力にならなきゃ)

 リーリアは思い悩む。ウインドウやレイの為になることをしたいと思う、いや、違う。やらなければならない。ウインドウやレイに愛されなければならない。

(そうでなくちゃ、私は・・・)

 と、リーリアが考え込んでいると、

「ごめんください。」

 その沈黙を打ち破るように、穏やかな声が響いた。

「バレリア!?お前、修練場に行ったんじゃないのか?」

「私がどこに行こうと自由です。それに、話し合うこともあるでしょう?」

 ウインドウは少し考え、その間にバレリアはウインドウと対面、リーリアの隣に座る。

「そういえば・・・娘さんがいたんでしたね」

 バレリアは、リーリアを少し見つめた。少し怯えたような表情でいるリーリアに、仕方ないかと苦笑する。リーリアは病弱だというのは聞いている。だから、一昨日の集会に来るまで、リーリアの存在を知らなかった者も多い。

 そういえば、ウインドウはリーリアの面倒を見る為に訓練場を去り、そして、またウインドウは訓練場に戻ってきた。まさか、とバレリアは思う。

 が、それよりも、今は話し合うことが先決だ。訓練場もいつまでも空けておくわけには行かない。

「それで、レイ君の家出についてなんですが、はてさてどうしましょうか?」

 バレリアは努めて明るく言った。

「ど、どういうことなんですか!?」

「ぐえっ!?」

 バレリアは強く首元を引っ張られる。驚いた。やったのはおとなしい少女だと思っていたリーリアだ。

「あ・・・ご、ごめんなさい・・・」

 すぐにリーリアは手を引っ込め、そして反省したように身をすくませる。

 ウインドウは、内心ほっとした。リーリアも、レイのことを心配している。確かに絆はあったのだ、と思う。

 そして、ウインドウとバレリアは互いに頷き合い、リーリアにことの次第を説明する。理由が分からないことも、決闘のことも含めて、だ。

「お兄ちゃんが・・・どうして・・・」

 リーリアは、青ざめた顔をしてぶつぶつと呟いている。何かがおかしいのかもしれない、とバレリアは思ったが、それよりも話を進める。

「ま、問題なのはどうするかということですよ。」

「でも・・・いいもんかね。そんなこと話し合って、さ。」

 ウインドウは悩む。レイは、自分が居ないような日々に戻って欲しいと言った。今こうして話し合いをする事自体、レイは望んでいない。それは間違いない。

「ま、これもレイ君のためですよ。」

「そもそも、お前、レイのやり方には反対していないんじゃなかったのか?」

「ま、自立はいつかするもんですしね。ただ、やはり今回のことは納得しかねることが多々あるとは、思いますよ」

 相変わらずだ、とウインドウは思う。バレリアと言う男は、自分が望んでいることとは逆なことをしようとしているようで、いつの間にか、目的に一番近いところに居る。

「聞きたいんだが・・・」

「何でしょう?」

「一番初めに、レイの言うことに賛同した振りしたのは何でだ?」

「案外、振りでもないんですが・・・そうですね、貴方が私たちのところに来たのと真逆、もしくは同じ理屈ですかね。」

「?」

「自分が正しいと思っていることに賛同する人間が居ればそれは自信につながる。」

 ウインドウは絶句した。そういうことなのだ。ウインドウはレイを引き止めたいと思った。しかし、理屈立てて否定することが出来なくて、自分に賛同する人間を探したのだ。

「それと同じ理屈で、自分が間違っていると思っていることを支持する人間が居たら、不安になります。時には開き直る人間も居ますが、レイ君はそうではない・・・と思っていたのですが、いやはやそれ以上の覚悟を秘めているのは性質が悪い。」

 それでは止まらない、ということ。

「だが・・・三日。三日だ。それで終わるさ。」

 それでも、とウインドウは考えている。三日後、クラウドがレイを倒せばそれでいい。

 卑怯かもしれない。でも、そうでもしなければ、レイの心が分からない自分には、そんな方法しかないのだ。

「クラウド君が勝つのは難しいですね」

 しかし、バレリアは、そう言い放った。ウインドウの認識は甘いと。そう言った。

「何でだ?」

 クラウドは、今のレイよりも強い。力も、体格も、技術も。確かに何回か戦っていれば隙を突かれ、負けることもあるかもしれない。だが、一回勝負、決闘で、負けることなどありえない。少なくともウインドウはそう思っていた。

「レイ君にあって、クラウド君にないものというのがあるのです。そして、それは時に、不可能を可能にしてしまう力。貴方も薄々は気付いているのではないですか?」

「・・・成る程、本気にならなきゃならねえってことだな。」

 と、ウインドウの言葉に頷きながら、バレリアは気付く。もしかしたら、ここが分岐点なのかもしれないな、と。

「ウインドウさん、お時間を頂きたい。宜しいですか?」

「はあ?」

 時間なら今取っているだろう、とウインドウは言いかけた。が、バレリアが横目でリーリアを見ているのに気付いて、察した。

「もう少し留守番していてくれ。悪いな」

 そう言って、リーリアの頭を軽く撫でて、ウインドウは立ち上がる。そして、バレリアもそれを見計らって立ち上がり、二人は出て行った。


「で、一体どういうつもりよ」

「思えば、もう少し早く気付くべきだったのかもしれません。」

 二人は訓練場へ向かっている。そして、道すがら話をすることにした。

話は『着いてからでは遅すぎる』というバレリアの宣言から始まった。

「恐らく、レイ君の家出の原因は、リーリアさんです。」

「リーリアが?」

 聞き返してきたウインドウに、バレリアが静かに首肯する。

「恐らく、ウインドウさんが訓練場に再び出入りするようになって、それでリーリアさんが一人寂しく留守番しているのではないか・・・きっかけは、こんなもの。そして、異分子である自分が、様々なものをかき回すのを恐れている。」

 きっかけはどうあれ、レイは結果的にリーリアからウインドウを引き離してしまったことをどうにかしたいと考えた。そして、それだけではなく、ここに自分が居ること自体許せない、恐らくそうだ。だから、誰にも知られること無く、誰に影響を与えることなく暮らしたい。

「馬鹿野郎!」

「子供ですから」

 ウインドウは忌々しげに叫び、バレリアは、仕方がないと溜息を吐く。何も知らないから、そんな結論にしか辿り着けないのだ。

「だけど、それを教えるのが俺たちの役目、だよな。」

 ウインドウは呟く。バレリアは、自分では考え付かなかったその考えを、笑顔で肯定した。が、

「さてここで質問です。ウインドウさん、家に戻る気はありますか?」

 今更何を言っている、とバレリアを睨む。

「リーリアさんは、多分、今も寂しがっているのでしょうね」

 バレリアの言葉に、ウインドウは冷や汗をかいた。

「貴方も含めて、本気でレイ君のことをどうにかしようとしなければ、レイ君はもしかしたら一生このままでしょうね。」

つまり、選べというのか。リーリアか、レイか。もしこのまま訓練場に向かい、本気でレイと向かい合えば、レイは三日後、家に戻ってきて、今までどおりとはいえないかもしれないが、また一緒の生活が戻ってくる。しかし、リーリアはずっと家で、一人で過ごすのだ。

 しかし、もし家に戻ったら、レイはもしかしたら、このままずっと一人で暮らすことを選ぶかもしれない。誰の目にも留まらない生き方をしていくかもしれない。

「・・・・・・」

 ウインドウは立ち止まり、バレリアは少し前に進んで、そして待つ。

「・・・なあ、バレリア、どちらかを選ばなきゃならんのかね?」

 バレリアは何も言わない。そして、そのことに気付いて、ウインドウは続ける。

「レイもリーリアも、俺の大事な息子と娘だ。そりゃ、子育てはあいつに任せっきりだったけどさ、だが・・・俺は・・・俺はそんな甲斐性なしじゃない!」

「それでよろしい。」

 ウインドウは俯いていたが、話し終わる頃には晴れ晴れとしていた。そして、それを穏やかな顔で見るバレリアに、ウインドウは何とも言えず、ぽかんと口を開けた。しかし、ウインドウは、ゆっくりと前へ歩み始める。バレリアも、それに付いて行く。

「貴方の答えですがね。実は一番正しい道なのかも。」

 正しいのだろうか。ここは、もしかしたら決断が必要だったのではないか、とウインドウは内心思っていた。

 それはまだ分からない。だが、もしかしたら、リーリアはただ寂しいのではないのかもしれない。レイの行動が、一番リーリアが望まぬ行動であったのかもしれないとふと思った。

 そして、それでも、いや、だからこそレイには本気で向かうべきなのだろうな、とウインドウも、バレリアも思った。


昔取ったなんとやらでこれを機に再開しようかなと。この先は執筆中です。…昔よりちょっとは成長してればいいなぁ…

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