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ある世界の出来事~光の勇者編~  作者: 山崎世界
序章:風の世界編
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親子ゲンカ

「どうしましたか、レイ君。」

 今日はバレリアがレイの練習相手となっていた。

「・・・焦っていますね。」

 そして、バレリアは穏やかな口調で言い当てる。バレリアは、相手の心情を太刀筋から読み取り、行動パターンを予測し、最低限の力で相手を倒すことが出来る使い手。レイにとって足りない、経験や知識と言った部分を一番重視していると言ってもいい使い手だ。

 そのことを配慮しての組み合わせだった。

「・・・強くなりたくない、というわけでは決してありませんが、少々急ぎすぎている。」

 今思えば、今のレイには最適な組み合わせだったのかもしれない。レイの剣筋は確かに全力で向かって来て、昨日と遜色ないように見える。

 だが、どこを見ているのかが分からないのだ。レイは、昨日までなら強くなりたいと言うのが目的ではなく、ウインドウから自分の宝物を取り戻す、というのが目的だった筈。いや、それ以外にもどこか強くなるべきだと願う心があった。

 だが、今は少々違う。がむしゃらに相手を倒すことを目指している。ただ素早く剣を動かし、力強く剣を振るう。そのことに気を置き過ぎている。ただ相手を倒すということを目指している。

レイが目指すべきなのは、自分に足りない物を見つけること。焦りすぎて強くなる為の近道すら見えていない。

 そして、そのことをバレリアは教える必要がある。

 バレリアはレイのがむしゃらな攻撃を一旦受ける振りをし、その反動を利用して後ろへ飛ぶ。レイは無様にバランスを崩す。ここでもだ。レイは何かを見失っている。

 バレリアは、あえて木刀を捨て、レイの手首を掴む。バランスを崩し、武器を捨てたことに呆気に取られているレイの隙を突くのはそう難しくない。

誰がどう見ても、バレリアの勝利で、レイの敗北だった。


「レイの様子がおかしいだぁ?」

 一旦休憩時間に入り、バレリアはウインドウに相談を持ちかけた。いや、もしかしたらレイが悩み事がある、と言った方が正しいかな、と心の中で苦笑する。一応、自分たちよりもレイに近いクラウドに、レイのことを頼んではみた。

ただ、ここにいたときにはその様子が見受けられなかったが、昨日の夜から何か兆候らしきものがあったのかもしれない、とバレリアは推察する。

「わかんねえなぁ。そういや、朝起きたら何か気合入れてたような気がしたが」

「その気合が空回りしている、と考察するのが妥当なんですよね。」

 バレリアの言葉にウインドウも頷く。

「ここに来て、色々と考えることがあったのかな?」

 ウインドウは、首を傾げる。

「ま、言葉に出来ることじゃないかもしれんが、悩みがあるんなら言って欲しいもんだ。」

 ウインドウは寂しげに呟いた。


「どうした?レイ、顔色が冴えねえな・・・悩み事か?」

 一応、バレリアに言われたこともあるのだが、それとは別にクラウド自身も、レイに悩み事があるのではないか、と、レイの表情を見て感じた。

「クラウド・・・さん」

「うぅー~~・・・・」

 クラウドは少々身震いする。

「あ、あの~・・・」

 レイが心配そうに尋ねると

「あ、ああ・・・悪いな。さん付けにされたことってないからさ~」

 クラウドは苦笑混じりに答える。昨日も感じていたことだが、どうにも自分が誰かに頼られたり、慕われたりするのには慣れない。自分も、バレリアやクラウドに対して尊敬の念を抱き、さん付けで呼ぶものの、年下の、気の置けない子供たちには気軽に呼び捨てにされる。だから、なんというか、ようやく弟分が出来たというか、そんなこそばゆいことを考えている。そして、だからこそ、

「悪かったな。で、どうよ?悩み事でもあんのか?」

 レイに悩みがあるのなら聞きたいし、出来れば解決したいと思う。

「・・・あの、ウインドウさんのことについて聞きたいんですが。」

「ウインドウさん、ねぇ」

 うまくいってないわけじゃないのだろうが、まだ他人行儀なんだな、とクラウドには何だかもどかしく感じてしまう。

「で、ウインドウさんがどうしたよ?」

「・・・あの、ですね。ボク、いきなりやってきて、ウインドウさんの息子だって言って、それでボクのせいでウインドウさんをここまで振り回したり・・・」

「・・・つまり、そのことで『こいついきなりやって来て何だよ~、ウインドウさんと馴れ馴れしくしすぎじゃねぇ?』的なことを思ってるんじゃねえか、と?」

 レイの曖昧な言葉にクラウドも曖昧な返事をする。うまく説明できない。一言で表すとすれば『嫉妬』と言うのが一番しっくり来るかもしれない。今まで、この地の長として万人に慕われていたウインドウ。子供になりたい、とまでは行かないものの、彼に懐いて来る子供も多いだろう。それを、いきなり出て来た子供が、記憶喪失だからという理由で、愛情を一番受けるであろう立場に簡単に上り詰めた。そのことを面白くないと、思うのかもしれない、と考えているのか、とクラウドは考える。が、

「何だそりゃ?」

 まあ要するに、考えなければ推察すら出来ないことなのだ。

「そんなこと考えるってこたぁ居心地がいいって、誰もがそこにいたいと考えるんじゃないかなって思ってるってことなんだよなぁ、多分」

 そして、そんな風にクラウドは拡大解釈する。しかし、間違ってはいないだろう。

「あの、何とも思わないんですか?」

「何でよ?別にウインドウさんを慕うかどうかは自由だし、お前がいるからって何かが変わるわけでもない。・・・いや、寧ろ感謝しているくらいさ。」

「・・・感謝、ですか?」

 レイは少々驚きながらも聞き返す。

「だってさ、いい機会だったからな。娘さんのこともあって、ずぅっとここに顔出さなくなって、娘さんが大きくなったって言ってもここに来ようとしなかった。

 だからさ、レイがここに来て、強くなりたいって言ったからここに来るようになった。それは、ある意味いい転機になったんだよ。誤解すんなよ?お前に振り回されたからじゃねえ。ウインドウさんが自分の意思でここに戻ることに決めた。お前がそのきっかけになった。それだけだ。ま、俺自身もお前のこと、気に入ってるしな。」

「・・・・・」

 その時、レイは、考え始めてしまった。どこか、歪んだ考えを。


 今日もまた三人で川の字になって眠るがレイは寝付けずにいた。悩みは、またリーリアのことだ。もし、自分と周囲の差異に戸惑っていた自分にリーリアが気付いてくれたように、リーリアが何か悩んでいて、それが自分にしか気付けなくて、自分がどうにかできることだったら、何とかしてあげたい。

 となると、どうなのだろう。いきなり強くはなれなかった。あっさりとバレリアに負けた。自分に必要なものは違うと言われた。

いや、そうじゃない。今から強くなっても意味がない。

リーリアは、自分がウインドウを結果的に振り回してしまっていることが嫌だと思っているのかな、とレイは考える。クラウドはそんなことを思ってはいないと言っていたが、リーリアは、今まで面倒を見てくれた、愛情を注いでくれたウインドウがいきなり自分に稽古をつけることになって、面白くないと感じているのかもしれない。

 だとすれば、どうすればいい。自分が来る前は、リーリアは幸せだったのかな。そう考えるのだ、ずっと。そして、そうだ、と。まるで名案の様に、考えた。

(ボクが、いなかったときに、戻ればいいんだ。)

 自分が、一人で生きていければ、ウインドウがリーリアと二人で暮らしていたときに戻れば、それで上手くいくんじゃないかと、そんな歪んだことを考えたのだ。

『何でよ?別にウインドウさんを慕うかどうかは自由だし、お前がいるからって何かが変わるわけでもない。・・・いや、寧ろ感謝しているくらいさ。』

 クラウドの言葉が頭に浮かぶ。今、この状況が必ずしも悪いわけじゃない。間違っているわけじゃない。

だけど、そんなことは分かってるんだ、と。レイは、無理やり自分の心を納得させた。


「さて、今日はちょっと遅めに出るか。旨い飯屋で腹を膨らませてからってのも悪かない。飲み屋もやってる知り合いがお前を連れて来いとも言ってたし、顔見せを兼ねて行くのもいいだろう。」

 レイは、考え込む。本来、一緒に食事に行くのも自分ではないのだ。だが、自分が訓練場に行くついでに立ち寄る場所に、リーリアが行く道理はない。仮に一緒に行っても、リーリアは一人でこの家に帰り、一人でウインドウの帰りを待つのだ。

 自分がこの地に現れる前にはありえなかった日常。それを、自分はもたらした。そして、それをどうにかできる方法は、自分には一つしか思いつかない。寂しそうにするリーリアの横顔を見て、レイは決意する。

「ウインドウさん・・・」

「ん?何だ?食えねえもんでもあるか?それとも食いたいもんでもあるのか?」

「・・・僕は、ここを出て行きたいと思うんです。」

 言った。ウインドウの笑顔が固まった。

「どういうことだよ?まさか、記憶が戻ったのか。それで本当の両親の許に行くってことなのか?」

「いえ。そうじゃないです。記憶なんて戻ってない。そんな戻るべき場所なんてあるのかどうかすら分からない。」

「じゃあどうして!」

「・・・一人で生きていきたいんです。」

ウインドウの顔は、徐々に赤みを増す。こめかみに皺が浮かぶ。

「っ!ざけんな!!!」

 ウインドウは怒鳴る。テーブルの料理はひっくり返る。そこで、レイはそれに全く手をつけていなかったことに今更気付く。

 レイは、真剣だ。怒られているのにウインドウから目線を逸らそうとしない。そのことに、ウインドウは戸惑う。何がレイを突き動かしているのか?

「・・・何か不満なことでもあんのか?なんでそんなことを言い出した?」

 戸惑いもあっただろう。自分では気付かない不満もあるだろう。だが、それでも、一緒に食事をして、一緒に寝て、一緒に修行する。生活を共にすることに少しでも安らぎを、楽しみを見出してくれていたのではないかと思っていた。

 レイ自身の気持ちとしても、それは確かにある。ウインドウはまだ父と呼ぶことは出来ないけれど、それでも自分が頼りに出来る大人。生活も好きだ。不器用ながらも作ってくれる料理。一緒に寝るベッド。触れる優しさ。楽しいし、安らぐ。

 しかし、分かっている。ウインドウは自分の質問が何の意味も無いことに気付いて、溜息を吐いた。感情論ではないのだ。何かは分からないが、信念の様な何かがレイを突き動かしている。

「おにい、ちゃん・・・」

 リーリアが、レイの袖を引く。レイは、そっとその手を握る。そして、リーリアのほうを見て、哀しそうな顔をした。そして、再度ウインドウを見る。

 何なのだろう、とウインドウは苛立つ。何がレイをこうさせた?そして何故それを自分が分からないのだ、と。

 そして、レイも同時に気付いていなかった。リーリアもまた、哀しい顔をしていたことに。


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