それぞれの世界
「君が感情を露にするところなんて結構付き合いは長いけど初めて見たよ」
「…」
「ねえねえどんな気分?デレた?デレたの?」
「ええいやかましい!」
「はっはっは!何だよ~いつもむっつり黙りこくってたてたくせにやけに顔真っ赤じゃない」
一同が緊張した面持ちで見守っていた。
あの後、どこからかノアラバルトが姿を現し、そしてダルクにこうして絡んでいた。なんと恐れ多い…!とピリピリした空気をただただ揺らさないよう努めた。
「で…いいのかい?まだ君が本気出せばどうにかなると思うけど?」
世間話のように切り出した。それは確かに事実だった。力だけで言うならば全員で掛かろうと屈服させられるわけはない。
「さてな…それで世界が滅びるというのであれば私のせいではないし知ったことではないな」
「はは!何だ、いい顔で笑えるじゃないか…よかったよ」
安らかな顔で微笑んだノアラバルトに、ノアラバルト以外の全員が呆気にとられた。
「いや、君たち何だいその顔は。これでも知り合いの幸福を祝福するくらいは人間らしい感情は持ってるつもりだよ」
「…それで、お前は何をしに来た。まさかそれだけのために駆けつけるわけもあるまい」
「はっはっは!ボクのことを理解してくれているようで何よりだよ。で、さっきの質問も関係するんだけどこれからどうする?何ならこれから儀式ってのもありだけど」
「それは出来ません…まだ、決着をつけなくちゃいけない人が残っている」
レイは力強く答える。混乱した曖昧な答え。それを確かなものにするために、今度こそ向き合うのだと。
「あー…だよねぇ…それじゃあ忠告しておくけど…君たちはとっとと自分たちの世界に帰るといい」
「世界は変わる。せめて混乱を最小限にするために、事情を説明し準備を始めたほうがいい。つまりはそういうことだな」
それぞれの王は旅立つ。
「さて、それじゃあ決着をつけに行こうかね…あー…死ぬかもしれんのだが、その場合大丈夫か?それが原因で世界をどうにかできなくなったりしたら顔向けできねえが」
「はは!だいじょぶだいじょぶ!ちょっと口を利けなくなるくらいだよ」
ノアラバルトの回答に、そうかい、とただ軽く応えて背を向ける。
「…全く。そんな気概で大丈夫なのか」
「別に死ぬ気はない。だから一々遠ざけたりして準備怠ったりしねえのさ。てかグレイス…お前…もしかして着いて来る気か?」
肩を並べ、歩き始めるバトウとグレイス。
「…まあ期待はしないでくれ。私の目的は、監視だ。君が世界の均衡を乱さないようにね」
「はは。助かるぜ」
「ダルク様。一緒に帰りましょう。私たちの、故郷に」
「…私のことを覚えているものなどいないのだぞ?それに、私は…」
「ふふ。分かっています。ダルク様の心安らぐ場所が、既に私たちと交わらないだろう、ということは。ただ、色褪せぬように、新しく伝えてほしいのですあなたのことを…」
「……む…まったく、仕方が、ないな…お前は随分と心得が甘いようだからきっちりと教育してやらねばならぬようだ」
「え…えぇ!?」
「えっと…ごめんね、リーリア。一緒に帰ることが出来なくて」
ゆっくりと頭を撫でる。
「もう何言ってるのお兄ちゃん」
頬を膨らませながら、レイの頬をにーっと両側に引っ張る。
「ふぃ…ふぃーふぃふぁ?」
「特別なことじゃなくって…いつだって、私達の世界に帰って来れる。そういう世界にする。そうだよね?」
「…あぁ…うん。そっか。そうだね」
ありがとう。また、強くなる理由が出来た、と。それを胸に刻んで、レイとリーリアはお互いに背中を向ける。
「それじゃあまたねお兄ちゃん」
そして、レイは歩きはじめる。
「そうだねぇ…君にとっては強くなれるものがあればあるだけいいだろう…覚悟しなよ光の王…君がこれから戦うのは、君の世界そのものだ」
「行くのか。ハルバー」
「はい」
強い覚悟を伴っている声色に、ダルクは溜息を吐いた。ああ…止まらないのだなと。そう分かった。
「昔、僕は確かにレイ君を…ゼロスを裏切った。けれど、それでも僕に出来ることがあるのなら」
「…――」
何を言うべきか迷う中で、何かを言おうとして言葉は虚しく霧散する。
「…帰って…必ず…帰って来い…ハルバー」
しかし、少しずつ。ぶっきらぼうになってしまっても、言葉に残す。それは、きっと今まで闇の中にあったものだった。
「はい…必ず」
涙をこらえながら、ハルバーは旅立つ。物語を終焉へと導くために。




