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ある世界の出来事~光の勇者編~  作者: 山崎世界
第四章:光射す世界へ
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闇の王ダルク

「世界を維持するために力を貸して欲しいんだ」

 使命は突然と現れて告げる。

「知っての通り、このままでは世界は遠からず終わる。それは避けたい。だから、私が自分で実行できればいいのだけど今こうして私がいる、という時点で相当な無茶でね」

 お前は一体、何者なのか、と問うた。

「さて、私が何者か、というのはどうでもいいことだ。重要なのは、君は世界をどうするべき、と考えているか。そして、その為に私達は妥協し、力を合わせることが出来るかどうか、ということだ」

 あぁ…言い忘れていたね、と。

「これは…英雄の物語にはならないだろうね」

だがそうしなければならないのだと、お前は思うのだろう。

「そうだね。正直に言うと、もう少しどうにかできなかったのかと。一人の研究者としてそう思わなくもないのだけど…」

 しかしそれは意味のないことだとそう断じた。


 闇の王は世界を回り、そして全てを否定した。

「私達は分かり合えるはずだ。その道すらも、閉ざそうというのか」

「あなたは本当にそれが正しいと思っているのですか」

「たとえ間違えた世界だとしてもそれをこのような形で破壊していいわけがない」

 王達は戦った。誰もが世界のために。自らを奮い立たせ、崩壊する世界を繋ぎとめるために。

「は!所詮、世界は永遠に戦い続けるしかない。それを見ぬ振りをするというのであればそれは傲慢だ」

 闇の王を嘲笑う。憎む。悲しむ。憤る。しかし、闇の王が省みることはなく、ただ全てを闇に閉ざしていく。

「ありがとう。これで世界は何とか、なるかな」

 戦いが終わり、儀式へと移っている中で、闇の王に告げた労い。


              …ふざ…けるな…

 

 そんな声が響いた。

「清々したな。どの王も愚かしく喚くばかりだった。やはりあれでは世界を担うことなど出来はすまい。やはり、私が統べ、断ち切ってやらねばならないのだな」

 しかし、続いた言葉はそれをかき消した。そこに込められた感情は様々に折り重なり、誰にも与り知ることは出来なかった。

「そうだね…忘れてしまってもいい。見なくてもいい。聞かなくてもいい。今の世界には、君には、きっとそんな闇が必要だ。けれど、忘れないでほしい。それは確かにあるのだということを。そして…いつか…」

 闇の王を導いた誰かは消えた。役割は終えたと、静かに舞台から下りた。

「お前に…何が…」

 誰もいなくなったその場所で、闇の王ダルクは一人呟く。

闇の王ダルクの物語は終わらない。


 世界を闇に閉ざし、闇の王は故郷に帰ることは出来なくなった。もっとも仮にできるとしても、帰ることは無かったが。

 最後に彼女が辿り着いた国。そこで彼女はそこの王を脅迫し、自らの土地を用意させた。そこは光射さぬ不毛の地。誰も訪れることは無い閑散とした地。あぁ…これはいい、と彼女は喜んだ。

「…こらハルバー。御挨拶しないか」

 しかし、度々に王が挨拶に来るのは億劫かと、子供の不手際を叱る王の姿を見ながら考えた。

「父上!なぜかの魔女にへつらう必要があるのです!」

「は…ハルバー!」

「…ふん」

 恐怖におののき、必死にとりなそうとする王の姿を尻目に、幼くも気概があるものだな、と。鼻で笑う程度には、楽しんだ。

「よい。ただ早く去れ」

「は!寛大なる御心に感謝を…」

「僕はいつかあなたを倒してみせるからな!強大な力で人の心を屈服させることなど、決してできないということを、証明してやる」

「…ふ…」

 久しぶりに、自分に刃向い、戦おうとする姿を見た。それに、どこか…そう、心を動かされたような気がした。

 これが、闇の王ダルクと心王ハルバーの出会いだった。


 それから数年が経ったある日のこと。

「…ん…」

 静かに、その気配を受け入れた。

「…」

 そこに立っていたのは金髪碧眼の少年。

「光の王の系譜…か」

 王達の姿を思い返す。そして、再び…いや、今とて途絶えてなどいない宿命に立ち返った。

「弱いな…」

「く…」

 決着はすぐにつく。存外に、子供ながら狂人じみて必死にその刃を突き立てようとした。しかし届くわけも無く、ただ這いつくばるしかなく、死を前にするしかなかった。

「…まだ…だ…」

 しかし、少年はまだ止まらない。自らの中にある世界。それを最後まで胸に刻み、諦めることを許さない。

「ふん」

 見下ろす。それが一体何になったかと。もがく様をただ無慈悲に踏みにじろうとしていた。

「…!君、は…」

 しかし、それを邪魔する存在があった。ハルバー。光の王が闇を超え、この場に向かう気配に何事かと駆けつけた。

「…好きにしろ」

 立ちはだかり、庇うハルバーを見遣り、どうでもいいように背中を向ける。

「あな、たは…」

「君の名前は?」

「…レイ、と言います…」

「そうか…レイ君!?」

 レイはそれを最後に倒れ伏した。気力と体力を振り絞り、それでも届かなかった孤独な戦い。ひどく衰弱したレイを、ハルバーは抱え、闇の王の元を去った。


 それから数日、ハルバーはレイの世話をした。初めは、食事に手を付けようともせず用意した寝床から抜け出そうとしていた。

 しかし、その度に途中で力尽き倒れた。そして同じようにまた世話をした。

「ハルバーさんはどうして…」

「僕は君の味方だ。闇の王を倒したいというのもあるけど、それ以前に君のことを放っておくほど非情ではないつもりだよ。だから、今は休んでほしい」

 レイは、考えた。確かに闇の王の味方ではないかもしれない。けれど、自分の味方だと言えるのかと。

 しかし、ハルバーはどこまでも優しかった。いつでも真心を以て接していた。だから、そのうちに、レイは心を開いた。

「そうか…君の故郷ではそのような…」

 同情を誘おうとしたわけではない。けれど、彼ならばと。レイは思った。

「君の故郷に、案内してくれないか」

 そうして、ハルバーは初めて、自らの外の世界へと出た。


「レイ…!お前……」

 再び帰った故郷。彼の兄、ゼロスは少なからず失望した。あぁ…闇の王を打ち倒すことは敵わなかったのか、と。

 しかし、それ以上に安堵した。レイと、再び会うことが出来たと。

「!誰だ、その男は」

 そして、その後ろに続く人影に気付く。

「ぐ…!」

 すぐさまゼロスはハルバーに襲い掛かった。敵が。闇を越えることが出来る王が一体何をしに来たのだと。

「待って兄さん!」

「…レイ…お前…」

 レイの言葉に踏みとどまり、組み伏せた男を見る。ハルバーは穏やかに、痛ましそうにゼロスを見ていた。

「お前…何故…」

「死ぬのは勘弁願いたいけど、君たちの心を知りたいとそう思った。それだけだよ」

「…俺は、ゼロスだ」

 手を差し出す。

「僕は、ハルバーだ」

 そしてその手を取った。


 ハルバーとゼロス。二人は様々なことを話した。色々なことを知った。

「やはりアルゼルフの本の力を以てしても、物資を運ぶ、というのは難しいか」

「うん…人を運ぶ、というのもね」

「となると…やはり闇の王をどうにかしなければならない、か」


それが希望なのだと信じていた。

「本当に、世界を救うことなどできるのか」

「その為に君たちの力が必要だ」

「俺たちは…力を合わせることができるのか」

「もちろんだ。我が友よ」

正義だと、善だと、最良であると疑わなかった。


世界の真実を知るまでは。


 ハルバーは自らの世界に帰り、ダルクの元に向かった。闇の王を攻略するために何か手がかりはないだろうか、と。探るために。

「…」

 闇の王は、眠りについていた。少なからず衝撃を受けた。闇の王も、食事もすれば睡眠もとる必要がある、一人の人間であるということを。長らく意識していなかったということに気付いた。

(今なら…)

 そう容易くはないだろうが、これは、次にいつ訪れるか分からぬ隙。そう思い立ち、ゆっくりと、その細い首に手をかけようとした時だった。

「…ぇ…」

 その体は震えていた。

「…ぅ…ぁ…は…ぁ…はぁ…」

 うなされていた。

「ごめん…なさい…ご、め…」

「ぁ…」

 そして気付く。もしかしたら、闇の王はずっと苦しんでいたのではないかと。心の内を誰にもさらさず、闇の中にその身を投じ、ずっと耐えてきたのではないかと。そんな、可能性に。

 ハルバーはただその場を立ち去った。これは、ただの迷いだと。そう振り切るように。


しかし、それは次第に大きくなっていく。

「確かにお前とは分かり合うことが出来た。だが、世界全てがそうだとは限らないのではないか?」

 知った歴史。光の王は闇の王に打ち倒され、今もその所行は忘れない。

 果たして闇が取り払われた時、一体どんな未来が待ち受けているのか分からない。そして、ゼロスとレイにはそれを保証し、導く使命がある。

「しかし…」

「ハルバー…お前が心底心根の優しい男だというのは分かっている。だが、それでもやらなくてはならないことがある」

「…」


「…なあレイ君。君は、本当にこれでいいと思うかい?」

 ハルバーは、レイと二人きりになった時、問いかけた。答えを託す。それが弱さだと気づきながらも。

「それは…決まってる。そうでなくちゃならない。僕には、目の前の世界から目を逸らすことなんて出来ないから」

「そう、か…」

 気付く。あぁ…自分は何て愚かなことを聞いたのだろう、と。だって、これは問いかけになんてなりはしないのだから。

レイは、世界に押し潰されていた。自らの答えなど。意思など想いなど。取るに足らないことなのだと…そう、見ないようにしていた。

 そして、それはきっと…。


 再び、ダルクの元を訪れて、またダルクの寝ている姿に立ち会った。

 これは運命なのかもしれないな、と。そんなことを考えた。

「ぅ…ん…」

 頭を撫でる。そして、ゆっくりとその悪夢を溶かす。ただの魔法でしかなく、ただのまやかしでしかないけれど、それでも、彼女を癒すことが出来たらと。そう願った。

「…?」

 あどけなく、混乱するように目を覚ます。

「ハルバー…なにを、している…」

 目を向け、次の瞬間には、いつもの様に壁を作り何者をも拒むように睨んだ。彼女はいつもそうしてきたのだと、そう思い知らされた。

「今まで、酷いことを言ってしまった…」

「なにを…いって…」

「けれど…いつか…あなたの心を癒したい。その時まで私はあなたに付き従うことを約束します」


「それじゃあハルバー…頼んだぞ」

 闇を超えることは出来ず、託すしかなかった。しかし、それでも信じ、託した。希望の光を。

「…ハルバー…さん…?」

 ゼロスと別れ、故郷を離れたレイを前にして、ハルバーは心底苦しそうに、その手をかざす。そして、レイの心を現身とした部屋を、アルゼルフの本を使い展開する。

「何、を…」


僕のしていることは偽善だということは分かっている。君は間違いなく、当然のように僕を恨むことになるだろう。

けれど、願う。あるがままに、ありのままに世界を見て、聞いて、感じて…そうして選ぶことが出来る。そんな存在に君がなってくれることを

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