王として
「俺は…」
レイは一人、佇む。自分の守るべきもの。それを今まで忘れてのうのうと生きていたこと。
「兄さん…」
兄の姿を思い出す。兄は最初から最後まで自分の捨ててしまっていたもののために生き、戦い続けていた。脳裏に思い出す自分達兄弟を支える人々。それに応えたいと鍛え続けた自分自身。それが、頭の中を支配する。
「ここにいたか」
「…グレイス、さん」
そこに現れた人影。何をしに来たのか、というのはあえて聞かない。
「一つ、尋ねたいことがある。レイ君、君は私とバトウとの戦いを、どうして止めるつもりだった?」
あの時、有耶無耶になったが確かに意思を以て自分たちの戦いを止めようとした。それは分かっていた。
「…それは…」
「では…何故君の兄、ゼロスを止めた…」
「…分からない…んです」
「それは嘘だ。君は確かに」
確かにあった。真実を知り、その上で決断するのだと。その為に戦うと。
けれど、だからこそ目を逸らすわけにはいかない。自分の存在の本当の由来を。だから、今までの自分を許せない。
「…まあいい。私は君を導くために来たわけでもないのでね」
断ち切るように、宣告する。分かっていた。
「それでも俺は負けるわけにはいかない」
忘れていたとしても、思いを背負って、今ここにいる。たとえ世界の敵だとしても守りたいものがあった。
「…その体たらくで、か」
溜息を吐いた。
「君は本当にそれでいいのか!」
ぶつかる。グレイスの拳はレイを吹き飛ばした。辛うじて剣を構えたレイの体は、ふらりとバランスを崩したが何とか立とうとする。
グレイスは込める。己の思いを。真実、敵であろうと。しかし、それだけではない何か。失望を怒りを。そして、希望を。
「真実を見るのではなかったのかそうやって目を逸らして今まで自らを支えてきたものを捨てて、そんなみすぼらしい姿で戦場に立とうと言うのか」
「俺には大切な人たちがいた。世界があった。それが真実だ。だから、俺はその為に戦わなくちゃならないそれを忘れることなんてできない!」
「違う!君が見ようとしていないのは過去じゃない。君自身が言っただろう」
「自分、自身が…」
その言葉に、動かされた。ああ、そうか。そんな単純なことだったのかと。
倒れ伏す。グレイスの拳が綺麗に胸を抉り、体も吹き飛ばされたが頭の中はすっきりしていた。
「そうか…」
思い出した。確かに自分は言った。
『最後だ。真実というやつは優しいものばかりじゃない。どうにもならないってことこそが真実ってこともある。知らないほうが幸せなことも、知ってしまったからこそ不幸になることも。それでも…』
『それでも俺は知りたい。今、こうして俺が思う。それも真実だったと俺は目を逸らさずにいたい』
今、たとえ自分が、何も知らない故の戯言だったとしても。目指した世界があった。
「その為なら…俺は強くなれる」
「む」
世界が変わる。閃光が世界を駆け、グレイスは反射的にそれを受け止めた。しかし、その軌跡は力強く、グレイスを押し戻す。
「グレイスさん!あなたたち二人ならきっと分かり合えた。どんな困難にだって、力を合わせればきっと乗り越えられたはずだ」
「…は…!そんなこと…!」
「出来る!俺はそう信じた!自分の世界だけではできないことも、他の世界を見渡すことで、解決できることもある」
それは、分からない未来。閉ざされた闇の中。しかし、それでも
「俺は照らしてみせる。光の王として…!」
倒す。そして、ゆっくりと手を差し伸べた。
「…そうか…それが、君か」
手を取る。そこに、今までの緊張はなかった。
「私はきっと…徹しきれなかったのだろうね。けれど、まあ…いいか」
「グレイスさん…」
「私としても色々としんどくてね。君が目指す世界が、私の苦労を取り除いてくれるならまあいいかなとそんなことを考えたりするんだ」
ぺこり、と頭を下げた。光の王は再び、戦うことを決意する。
「行くのか」
「どうしても、闇の王は乗り越えなくちゃならない。そして、あの時見えなかった真実を今度こそ見つけてみせる」
「真実…?」
闇の王の真実。それをレイは微かに見えたような気がしていた。
それは思い上がりかも知れない。けれど、信じたい、と。そう願った。




