世界の歪み
「さて…それで何を聞きに来たというのだ」
ダルクの隣にハルバーが座り、それに向かい合うように一同は座った。レイの姿はない。全てを取り戻した彼が聞く必要は無い、と。レイ自身がそう告げた。
「ダルク様…あなたは、何故世界を闇に閉ざしたというのですか?」
アリアの問いかけに闇の王ダルクは目を向けた。それだけで竦みあがりそうなほどの何かが、正体も分からぬほど蠢いている。レイが隣にいれば、とそんなことを考えてしまう
「まあいい。昔の話だ。お前たちの故郷では伝承すら残ってはおるまいが、世界を舞台とした戦があったのだ。当時、まだ魔法というものの管理が上手くいっていなくてなアルゼルフの本の力もあり、世界は事実滅亡しかけた。そして、最終的に私が勝者となり、世界を自由にした。それだけの話だ」
「それ、だけ…?ダルク様…私は…」
胸を詰まらせる。それは、憧れだった。自分という存在はちっぽけだけれど、それでも聖女ダルクの伝承は胸を躍らせた。
けれど、
「知らぬな。私は王だ。勝者として、世界を自由にして何が悪いというのか皆目見当がつかぬ。お前のような煩わしいものから解き放たれたかった。だからこそ、邪魔な人間たちがわざわざ踏み入れて来ぬように闇を敷いたというのに」
返ってきたのは、底知れぬ冷たさだけだった。何も見えず、
「面倒だな。ハルバー。後はお前に任せる」
「はい…お任せください」
他に何をすることも無く。闇の王ダルクはただ去っていく。
「さて…レイ君と…ゼロスの話、か」
「お兄ちゃんの…」
先程のレイの姿を思い出す。自分に剣を向け、拒絶したレイの姿を。
「ある日のことだ。一人の少年が剣を携えて…ダルク様を殺しに来た」
「!?」
一同は驚いた。それは、レイがリーリアの故郷に身を寄せる前の出来事。まだ年端もいかぬ子供の頃の話の筈だった。
「もちろん返り討ちにされるところだったけれど、それを僕が助けたんだ。何故かと言われれば、当時、僕はダルク様を快く思って無くてね。彼の話を聞いて、彼を助けてダルク様を倒そうと考えていた」
レイの故郷に向かった。
そして驚いた。人々は光射さぬ地で下を向き、貧困に喘ぎ、心は荒んでいた。
「世界の改変というのは、そう簡単ではなくてね。どうしても歪は生まれる。まして、闇の王に最後まで抗い、否定し続けた彼らは、敗者として光を失いそんな苦しい日々を強いられていた」
その中で、レイは一筋の希望だった。闇の王さえ倒せばきっと…と。そしてレイはそれに必死に応えようと、懸命に、懸命過ぎるほどに生きていた。
「そこで僕はゼロスと会った」
レイの兄ゼロス。互いの世界のことについて情報を交換し、どうすれば世界に光を取り戻せるのだろうか、と語りつくした。いつしか、世界を跨ぐ友となった。
「…と、要らないことを言ってしまったね」
それを言う権利はもうないのに、と悲しげに笑った。
「それからだ。もう一度、レイ君を闇の王の元に送り込もうという計画があった。しかし、それは少しだけ修正された」
闇の王の様に、今度は自分たちが支配しなくてはならないのではないか、と。
「世界というものは単純じゃない。隔絶された向こうの世界に、牙を磨いた獣が潜んでいるかもしれない。果たして、国力を失った自分達で、今だ見えない『世界』というやつに呑みこまれてしまわないか、と」
だから、『世界』を自分たちのものにするために、アルゼルフの本を掌握してしまえばいい、と。
「そして僕は彼らを裏切った。レイ君の記憶を消して、リーリア君のいた世界に放り込んだ」
「何で…何でハルバーさんは…」
「色々なことを知ってダルク様の方が正しいのではないのかとそんな風に心変わりしただけさ…全く困ったものだよ」
真実は語られた。世界は再び委ねられる。答えを出した者、答えを見失った者。世界の選択の時は迫っていた。




