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ある世界の出来事~光の勇者編~  作者: 山崎世界
第三章:つながる世界
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ある世界の出来事

「ここは…!」

 グレイスは、驚きを隠せなかった。目で見る前にその匂いを、音を、気配を。その身で感じ取った。

 それは深き森の中。そこにそびえ立つ巨大な塔。その周りに石造りの質素な建築物が並ぶ。その中で、人々はただ静かに、何かに祈るように過ごしていた。

「グレイス!?グレイス…なのか」

 その中で、いち早く一人の男が駆けつけた。グレイスとほぼ同じくらいの年齢で、見慣れぬ不思議な文様が飾られた礼服を着た、真面目そうな男だった。

「ああ。紛れもなく私だ」

「…どういうことだ。それに、彼らは…」

 ちらりと一行を見遣る。その目は攻撃するように冷ややかに、見定めようとしていた。バトウはあえて反応を示さず、レイは少しばかり怯んだアリアとリーリアを背中に庇う。

「最悪は心配しなくていい。ただ…」

「…いや…そうか。なるほどそういうことか」

「ん?何かあったのか?」

「ああ…実はお前たちの他にこの地に…」

「やぁ随分と遅かったじゃないか」

 真剣に話し込んでいたところに、まるで場違いな声が響く。

「ようやく会えたね王の諸君。ボクの名前はノアラバルトだ」


「分かっているとは思うが、歓迎してやるほど心は広くないぞ」

「まあここの支配者は君だからね。好きにするといいよ」

 案内されたのは薄暗い会議場。王達のみが参列するその場所に、その中心に断罪するように椅子が置かれ、平然と座り囲まれる。

「さて、どこから説明したものかな?」

「まず、君は本当にノアラバルトなのか」

「やれやれ自分が自分であることの証明というやつは言う程易くはないんだけどねぇ」

 とはいえ、ノアラバルト。その人物が醸し出す気配は只者ではない、ということは分かっていた。あくまで淡々と、さもどうでもいいと言わんばかりに言葉を操り振舞う。

「ふむ…なら、こんなのはどうだろうか」

 すっと右腕を掲げる。何を…と思ったその瞬間、その右腕がぶくぶくと、もがくように膨れ上がる。その異様な光景にレイたちは身構える。

「ヤアヤア!ゴキゲンイカガカナ?」

 能天気な声が響く。右腕であった肉塊からは横一文字に裂けた『口』が裂け、にやりと笑う。

「まあこんなところだね」

「ヒャッハハッハ!エガオエガオエガオデイナイトネェ」

 同時に言葉を操る肉体。それぞれが、別の意思、個性を持っているのだと。

「ま、こんな感じでね。こんな肉体だから、昔から生きてるって感覚がどうにも薄くてね。昔は世界を滅ぼしたいと呪ったこともあるけれど、今となってはどうでもいいのさ」

 十分と見たか、右腕は何事もなかったかのように元に戻る。

「さて、分かっていると思うけれどボクたちは君たちのことを最初から殺す気はなくてね。ただ、君たちが世界の有り様を選ぶための資格、それを与えるためにああやって刺激を与えるしかなかった」

「世界の有り様…?」

「魔法という奇跡には本来それほどの力がある。アルゼルフの本には本来それほどの力がある。そうだねわかりやすい例が君たちの世界を覆う闇だ。疑問に思わなかったかな?なぜ君たちの世界は変わらず闇に覆われているのかと」

 それは当たり前の世界の理。生まれる以前より世界はそうでしかなかったし世界とは本来からそういうものであると信じていた。

「あれこそがアルゼルフの本の力。世界そのものを、その意思で有り様を一変させる」

「待ってください!それではまるで誰かが世界を闇に閉ざしたとでもいうのですか」

「そうだと言っているんだよ」

 レイの叫びに近い問いも、それが当然だ、と返された。

「君たちの世界は本来つながっていた。けれど、前回のアルゼルフの本を巡る王たちの争いは闇の王の一人勝ちで終わった。だからこそ、彼女は好きなように世界を変えた。それだけのことだ」

 ノアラバルトは一枚の古ぼけた地図を差し出した。

「ほらこれが君たちの本来の姿だよ。えーっと…ほら、ここらへんの小さい島国がバトウの故郷だったね…あとは…うーん…ここだっけかな…」

「王とは…一体何なのですか」

「遥か昔、この世界には魔法というものはそもそも存在しなかった。しかし、ある日、ボクたちの世界が滅んでしまってね。実を言うと、箱庭がそうなのさ。ほら、あんなところに人が住めるわけないじゃない?色々とあってね、概念がぐちゃぐちゃになってアルゼルフの本で何とか安定させて足を踏み入れることができるというそんな世界になってるんだ」

 魔法により世界が歪み、滅んだ異世界。そこには世界を束ね管理する『王』と呼ばれる存在が人々を導き君臨していた。

この世界へとやってきた彼らは世界に溶け込むためにその力と知恵を振るい、発展に貢献していたという。その王たちの軌跡は既に伝説と呼ぶのも憚られるほど風化しかけているが、王たちは『この世界のことはこの世界の人間で決めて欲しい』とそれを笑いながら受け入れたという。

「もっともアルゼルフの本に干渉するには箱庭と同調…王たちの役割を演じる必要があってね。まあその魂は、君たちの中に脈々と受け継がれているはずだからそれを呼び覚ましてやればいいだけなんだ」

「王の…魂…」

 王たちは胸を抱える。確かに何も知りはしない。けれどそれがどこか、懐かしさのような何かがある。そんなことを不思議と感じていた。

「君達は選ばれた。そして、選ばなくてはならない。その為に闇の王と会うのがいいんだろうけど…あれはひどいひきこもりでね正直、命の保証は出来ない。それに」

「…何をする気だ」

 ノアラバルトはグレイスの静止も聞かずバトウの元に近づく。

「人に世界というものは重すぎるかも知れない。ただ目の前のものを救いたいと、それだけを願い、今の世界を傍観するという選択肢もある」

 すっと…手を掲げ、魔力を込める。すると、バトウの手元から、アルゼルフの本が出現する。

「…な…!?」

 そしてその瞬間バトウは理解する。真の鋼の王の力を。

「鋼の王ってのは昔から一度こうと決めたらやりすぎるんだよね。昔かけてた封印がまだ律儀に残ってたとは思わなかったけど」

「どういうことだ?」

「さてねぇそれを知ったところで君は何も変わりはしないだろう?それに、君にとって大切なことはそれではないはずだ」

 そしてレイの方を見る。

「光の王。君については王の力によるそれなりに強固な封印が施されていてね。ま、それについても闇の王の元に行けば分かるだろう、とだけ言っておく」

 レイはぐっと手を握り締めた。求めてやまないはずの記憶…だが、そこに何か、逃げだしたくなるような闇が、確実に存在する。それに、立ちすくみそうになる。

「お兄ちゃん…」

「あーそうそう。アルゼルフの本を巡る物語は数百年の時を経て、本来なら王の選出はその時リセットされるんだけど今回の闇の王に限っては例外でね。前回、すべての王の力を喰らい世界の全てを掌握した彼女は、今もまだ王として君臨している」

 その王の名は―――ダルク

「え…」

 アリアの驚愕に止まることなく、

「世界は君たちのものだ。これ以上は異世界の住人であったボクが語るべきではないね。今まではボクが移動をコントロールしたりしてたけど今の君たちならたどり着けるはずだ。闇の王のいる場所にね」

 ノアラバルトは去る。王たちの心に重いものを落としながら。

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