表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある世界の出来事~光の勇者編~  作者: 山崎世界
第二章:流れ行く世界
25/44

水の王アリア

「レイ、お前が助けた相手な…命に別状はないってよ。意識も取り戻したそうだ」

「そう、ですか…」

 バトウは溜息を吐いた。

 あの後、海岸に打ち上げられているレイたちを発見した後、すぐさま近くの宿屋へと運ばれ、手当てを受けた。

 必死に戦っていたように、すぐさま意識を取り戻したレイから聞いた話は少なからず衝撃を与えた。ナリムは今も生きている。自分はまだ生きている、と得意げに姿を現し、今は姿を消している。また海へと臨めば再び牙をむいてくるだろう。

 そして、レイが失ってしまったもの。

「…」

 バトウに語る言葉はない。意志の力を以て戦う鋼の王にとってナリムの言葉こそが正しい。しかし、否定をする気もない。それが、精一杯だった。

 そして、静かにバトウは去って行った。

「はぁ…」

 一人になって、溜息を吐く。それは酷く冷たく、湿っぽい。

 そんな時、こんこんとドアを叩く音がした。

「レイ、さん…」

 どうぞ、と促すと、そこにいたのは、とても世界の担い手には見えない、とても小さく見える少女だった。

「アリア…」

 ぐっと。何かを呑みこんだ。

「アリアは大丈夫だった?あんなすごい魔法を使ったんだから少しは…」

「どう、して…」

 涙が流れた。あぁ…きっと、恨み言を言われるのも辛かっただろう。けれど、無理をして優しく振る舞おうとしている姿を見るのは辛かった。

「…ごめん」

「だから…だから…!」

 胸にしがみつく。

「本当に…君のことを恨んでなんかいないよ。確かに失敗もあったかもしれないけれど、君が、一歩を踏み出そうとしていたのは知っているから。今もこうして俺と会おうとしてくれたから」

 震えそうになる手で、必死に頭を撫でた。

「それに…本当に大事なことは…」

 思わず、手が止まった。そして、敵の嘲笑を思い出し、固く奥歯を噛み締めた。

「あぁ…そうか…そうだったんですね」

 アリアは、レイの顔をじぃっと見た。そして、確信した。

「自分を…許せないのですね」

 自分と、同じなのだと。

 レイは驚いた。そうか、と自分の中でよくわからなった感情が、どういったものなのか分かった。

「そう、か…俺は…」

 呟く。誰かに聞かせるためではなく、自らを理解するために言葉を発する。

「レイさん…?」

 アリアは、レイの様子に尋常ならざる気配を感じた。

「自分の力も分からずに、自分の大切なものも見失って…」

 人は全てを知ることが出来ず、全ての行為を行うことも出来ない。何かを選んで、同時に何かを見捨てて、生きていく。記憶というよりも、知識として、そう刷り込まれていたことにレイは気付いた。

 だったら、自分は守るべきものの為に、するべきことがあり、するべきではないことがあったのではないか、そう思う。自らの剣より、誰かの命、などと…

「だ、ダメです!レイさん」

 アリアは、遮った。人の心を読む力など無いけれど、レイの考えていることが、自分のしたことを後悔しているようだ、と言うのは何となく分かって、それが、どうしようもなく悲しかった。

「レイさんは私と違って、間違ってなんかないんです!」

 自分はいつも流されて、誰かの求めに応じているだけで、そんな自分をどうにかしたい、なんてそんな思いに駆られて、自分は今、冷静に思い返せば反省するようなことをしたけれど、

でも、レイは人助けをして、自分の意思で決めて、それを、過ちであったかのように考えているレイは、見たくない。認めたくない。

「でも、俺は」

 レイには失ったものがあり、それは掛け替えのないものでもある。何より、その決断は自らが失った記憶が拒絶し、圧迫し、止めどない罪悪感となる。

「レイさん…」

 ふわりと抱き締めた。小柄な少女はしかし、全てを包み込むように。

「…決めました。私は…あなたの力になります」

「アリア…俺は、君の信じるおとぎ話に出てくるような旅人じゃない。世界なんて背負えるかどうか分からなくて、ただ、何であるのか分からない自分自身を信じるしかなくて…」

「今、それを許せなくなっている…」

 それは捨ててはいけないと思うから。だから必死に守ろうとした。けれど、その結果、大切なものが手から零れ落ちて。

「レイさん…あなたにはまだ見えてないものがあるのです」

「それ、は…」

「あなたを信じて、託す人の気持ちです。それさえ受け入れれば、あなたに出来ることは増えます。あなたはあなたのままで、あなたであることを許せます」

 あぁ…そうか、とじんわりと溶け込んでいった。

 ウインドウも、リーリアも。あの世界では誰もが自分が答えを出すことを尊んだ。それは確かに大事だった。

 けれど、それは誰のものでもない自分自身の考えでしかない。そう思っていた。それを貫く王もいる。だが、もしそれを他人と分かち合えるなら。自分が迷いそうになった時も、それが変わらないでほしいと、そう思ってくれる存在がいるなら。

「あ…」

 そして、世界に新たな王が生まれる。アルゼルフの本が、新たな持ち主を定める。

「私は…水の王…」

 今度は流されることは無く。確固たる信念で。アリアは目覚める。

「行きましょう。レイさん」

 失ったものを取り戻すために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ