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ある世界の出来事~光の勇者編~  作者: 山崎世界
第二章:流れ行く世界
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エトワール

「誰かが…この世界にやって来た…!」

 深き神殿の奥。そこに一人佇む少女は呟く。

「一人…二人……四人、ですか」

 まっすぐと歩き始め、扉の前に立つ。

「…あぁ…!ようやく世界のために立ち上がる時が来たのですね!あの方のように!」

 足取りも軽やかに、バーンっと弾けるように扉は打ち破られ、その裏に控えていた兵士たちは為すすべもなく突き飛ばされる。

「あ…アリア様!?何を!」

「はい。ちょっと使命を果たしてきます」

「はぁ…いってらっしゃいませ………てアリア様…?アリア様ぁあああ!!!」

 日常のように挨拶を交わし、世界を担う少女は出かけて行った。


「はぁ!?行方不明!?」

 何やら街中が騒がしく、その中に常にエトワールのそばに控える親衛隊までもがいることにシードは気づき、声をかけた。

すると、返ってきたのはかの存在がいきなり神殿から逃げ出したらしい、ということだった。

「…ま、あの方が本気ならお前らには止めようもないんだろうけど、な」

「そんなことで大丈夫なのか?」

「ふむ、懸念はもっともですがそもそもかの存在は人の営みに囚われてはいけないのです。振るわれる力は全てあの方の意思によるものでなくてはならず我々はそれを受け入れなくてはならない」

 だからこそ親衛隊は外側からはともかく内側から攻められるには弱い。

 疑問を口に挟んだグレイスはなるほど、ととりあえず納得した。

「しかし、いささか暴走もしているでしょうね。恐らく、あなた方が来たことを発端として」

「どういうこと、ですか?」

「昔話さ。世界を救うエトワール、その中で一際有名な、世界を救う旅に出たエトワールの話だ」

 昔、『世界を救って欲しい』と、そうエトワールに訴えるために長い旅をしてきた旅人がいた。それに応え、エトワールは世界を救うために、今も帰らぬ旅にでたという。

「そのエトワール様に何が起きたのかはわからない。だが…」

 今もこうして、世界がある。それこそが、彼女の奇跡を示す証拠だと。そんな軌跡だ。

「ま、正直なところ詳しいことは分からないんだがあの方はその逸話が大層好きらしくてな。だから、使命感がひときわ強いんだろう、とそう思う」

「そうですかそれは…素敵なことですね」

 レイは呟いた。ウインドウやリーリアたちのことを忘れはしないけれど、それ以前に自分を支えていたもの、それを思い出せない自分にはそれがとても尊いものだろうと、そう羨みすらするのだ。

「さて…そういうことなら俺達も探させてもらうぜ。二手に分かれるか」

 バトウの案により、グレイスとバトウ、レイとリーリアに別れ、世界を巡ることにした。


「私と同じくらいの年で、髪が長くて青い女の子、だよね。えへへ。仲良くなれるといいな」

「リーリアは相変わらずだね」

 物怖じすることもなく期待に胸を膨らませる様子に微笑ましく思いながらも考える。

(やっぱり俺とリーリアは少しだけ、そういうところも違うのかもしれない…)

 だからリーリアに対しての何かが変わるわけではない。ただ、やはり自分の起源、それについて思いを巡らせてしまう。

 ぎゅっと腰の剣に手を添える。

「お兄ちゃん?」

「ああ…ごめんごめん」

 しかし、それは明るい笑顔ですぐに忘れてしまいそうな、その程度のことだ。

「あ!お兄ちゃんお兄ちゃん!これ美味しそうだよ」

「…待ってリーリア…それ…」

 屋台の前を通りがかった時、物珍しさに目を輝かせてた。そこにあったのはぐねりぐねりと動く、ぬめぬめとした何かだった。

 焼いたことでさらに強く漂う磯の香りからどうやら…海?の幸…というのはわかるけれど…分かりたくないなぁ…と

「おうお嬢ちゃん見る目があるねぇ。おっちゃん嬉しいよ。ほれ!サービスだ」

「わぁ!ありがとうございます」

 臆面もなく、その何かの丸焼きをとても嬉しそうに受け取る。

「ほらお兄ちゃん」

「う…うーん…」

 怖い。何でここまで怖いもの知らずなんだろうと恨めしく見…ることなどできるわけもなくレイはせめて目を合わせないようにしようと目を閉じる。

「あ…む…」

 強い弾力が口内を侵略してきた。噛んでも噛んでも無くならない悪夢のような食感…と、思っていたが

「…美味しい」

 なんか悔しいと思いながらももぐもぐと咀嚼する。

「いやぁよかったよかった地元の人間もよう食わんが今日に限って入れ食いでなぁ」

「ははは…それは天の思し召しかもしれませんね」

 威勢のいい店主とのやり取りに、はぁ…と汗をぬぐいながら周りを見渡していた、そんな時である。

「ん…?」

「どうしたのお兄ちゃん?」

「…うん…さっき、目の端に何かが見えたような気がして」


「はぁ…どうしましょう…」

 路地裏にたたずむ少女はつぶやいた。

「勢いで出てきたのはいいのですが。よくよく考えればそんな人たちが来たのかなんてわからないではないですか…とはいってもこのまま帰るなんて格好がつかなさすぎます。…はぁ…お腹も空いたなぁ…みなさんに言えばなにか恵んでくださるでしょうか…は!ダメです!私は…」

「やっほぉ!」

「わきゃあ!?」

 あくまでも朗らかにかけられた声だったが、飛び上がるほどに驚き、腰を抜かした。

「うわあ!キレイな子だね」

 リーリアは率直に感想を漏らす。海のように澄んだ青い髪と瞳、傷一つなく白い肌。あどけない仕草。とても純粋で、綺麗な少女だと。そう思った。

「あ、ありがとうございます」

「あ、私はリーリアだよ」

「俺は、レイ」

「これはご丁寧に。私はアリアと申します」

 ぺこりと頭を下げる。

「あなた達はもしかして…この世界に来た異世界の方なのですか?」

「そうだね。そうなるけど」

「わぁ!」

 ぱぁっと顔をほころばせる。

「さあ!どのようなことで困っているのですか?この私に言ってみてください」

 そして誇らしげに、慈悲深く笑みを浮かべながら、促した。

「うーん…困ってること、かぁ…」

「ぇ…えっと…その…ない、のでしょうか…」

「あはは。ないわけではないんだけど」

 世界で繰り広げられる謎。それを知る為に旅をしている。自分達でもよく分かっていない、と今までのことを話し始める。

「そうですか…」

(残念そうだな…)

 苦笑する。きっと、明確に自分が出来ること、憧れたというエトワールのようになれるとそう意気込んでいたのだろうな、と微笑ましくなる。

「…そうだな…それじゃあ」

 レイは腰をかがめ、敬礼するように目線を合わせた。

「レ、レイ、さん…?」

「この世界のことを、案内してほしい。力を貸してくれるかな?アリア」

 手を差し出す。

「は…はい…!」

 おずおずと、アリアはその手を取った。

「なるほど。それではお仲間のお二人は別行動なのですね」

「うん…あ!アリアちゃん、あれは何?」

「ああ、あれはですね。津波が押し寄せてくるのを…」

「ツ、ナミ…?」

「ふふ、津波というのはですね…」

 前方に歩くリーリアとアリアの二人をレイは後ろから静かに見守る。

「お兄ちゃん!お兄ちゃんはアリアちゃんに聞いてみたいことってないの?」

「うん…そうだね。それじゃあ…アリアの敬愛するエトワールについて、知りたいかな」

「おお!お目が高いです!」

 ずいっと。迫ってきたアリアに少し面食らったが、レイは静かに頷いた。

「彼女の名前はダルクと言います。私よりもさらに深い、広大な夜空を思わせる藍色の髪をしていたと言います」

「…っそう、か」

 何故だろうか。一瞬、突き落とされるような寒気がした。

「…レイ、さん?」

「…続けて」

 はい、と元気良くアリアは頷いた。レイは、悟られなかったことに胸をなでおろし、落ち着かせることが出来た。

 そこからは他愛のない、きっと、エトワールの間で語り継がれたようなそんなささやかな話が並ぶ。

 例えば、誰もが寝静まった夜の海で、一人、嵐の予感を感じて、眠りを妨げてはいけないと海に出たり。一人で何もかもを背負おうとしてしまう、そんな人だった。訪れた旅人の言葉を疑う人間も当然いたけれど、彼女はそれを信じて、巻きこむわけにはいかないからと、一人、いなくなっても大丈夫なように準備だけして黙って去ってしまった。

彼女はとても物静かで。不器用で。けれど、世界のことをとても愛していた。それは、人によっては伝わらなかったかもしれないけれど、だから、それを知る自分達は誇り、忘れてはいけないのだとそう思った。

「ダルク様のように私が出来ることがあればと、そう思っていたのです。ですが…」

「そっか…」

 深く感じ入っていた。深い憧れを。胸を熱くする郷愁。それは、自分に欠けてしまったものだったから。

「ぁ…すみません。皆さんのことを悪く言うつもりはないのですが」

「はは、そうだね。それじゃあ…俺は、俺として君に伝えたいことがある」

 え?とアリアは首を傾げる。それを、優しく頭を撫でながら続けた。

「ねえアリア。君が信じたダルク様は、きっと自分の意志を持っていた。きっかけはあったにしても何をどうすればいいのか、それを、きっと自分で決めたんだよ」

「ぁ…」

「だから、君は君で考えるといい。世界のためにどうすればいいのか。君自身の答えを。その為に俺達は力を貸す」

「私も、ね」

 いつの間にか傍に寄り添っていたリーリアは、アリアの手を取って宣言する。

「レイさん…リーリアさん……!?」

「どうしたの、アリア」

「今、再び世界に誰かが…いえ…これは…」

「ノアラバルトの血族、か…!」

 三人は、港の方へと駆けていった。

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