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ある世界の出来事~光の勇者編~  作者: 山崎世界
第一章:集う王たち
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風の王リーリア

(バトウとグレイスさんがいない…それに、ハルバー…彼も)

 レイは目の前のリーリアを抱き起こし、事態を把握するために周りに目を凝らした。

「ん…んん…」

「リーリア…」

 手を握り締める。そして、気付いた。気を失っているわけではないが、意識が半ば混濁し、ひどく衰弱している。

「一体…何が…」

 その時、激しい風が吹いた。離すまいと必死に抱き締めるが、それに怒るように暴れ狂う風は二人を無慈悲に引き離す。

「く!」

 レイは魔力を展開し、急いで後を追おうとする。

「んもう、ダメだよ」

 しかし、それを背中から抱き締め、止める存在があった。手を取り、握り締め、力強く。

「君は…」

 手から、残る感触。それは、レイには分かる。分かってしまう。

「ようこそお兄ちゃん」

 そこにいたのは、リーリアだった。


「さて、あちらのことはリーリア君に任せるとして…どうするかな。説得して聞くようなタマでもないだろうし話でもしようか」

 ハルバーは二人の王を前にしても退かず、高らかに宣べる。

「それなら丁度よかった。お前、一体何をした?お前は、何者だ」

 バトウは尋ねた。

「僕は心の王ハルバー」

「心、だと?」

「そうだよ。葛藤というのは誰しもあるだろう?それと分かりやすく戦ってもらおうという趣向さ」

 何が起こっているのか知る由もないがハルバーという男は饒舌に語る。

「ならば尋ねようか…君は…敵か?」

 ふむ、と考え込むようにしたが

「そうだね。敵だよ。君達を否定し、止めるために僕はここにいる」

 はっきりと答えた。それが揺るぎないものだと言うように。

「そうか…」

 バトウは剣を抜いた。これ以上の問答は無意味だと悟った。

「そうか。正直言うと、もう少し引き伸ばしたかったんだけどね」

 仕方ない、と言う暇も無く戦いは始まった。


「っ…はぁ…はぁ…」

 吹き飛ばされたリーリアは地べたを這い、必死にレイの元に手を伸ばそうとする。

「ああ…まだ諦めないのかぁ…結構しつこいなー…」

 しかしその度に支配者は苛立ちながら追い払う。

「っきゃああ!!」

「リーリア!」

「もう、だからダメだよ。お兄ちゃん」

「くっ!」

 駆けつけようとしたレイに、風が、世界が自分を抱き締めて、縛っているのを感じる。その主は、リーリアだ。

「君は…」

 偽物じゃない。それが分かるからこそ今、この状況が分からない。

「私とあの子はどちらも本物だよ。この世界ではね」

 この世界に飛ばされた時、頭に入ってきたこの世界の情報。ハルバーの意図によるものか分からないが、彼が用意した舞台が理解していた。

 相対する葛藤に平等に形を与え、戦わせる。心の天秤を傾かせた方が力を得てもう片方を押し潰す。そのための、世界。

 しかし腑に落ちないのはリーリアの力だった。

「私はどこまでも自由な風の王。そう、私は叫びたいことを叫んで、やりたいことをやって、得たいものを得る。その為の力」

「風の…王…」

 気付けば、リーリアの手元には本があった。先程、ハルバーが手にし、グレイスがアルゼルフの本、と呼んでいた。

「これはね。世界そのものを本の形に閉じ込めた王の力の源。それが私の手元にあるっていうことは私に主導権があるってこと。そう、もう弱い私なんていらない」

 自分自身を嘲笑う。高らかに自らの勝利を確信した。

「リーリア…」

「お兄ちゃん…?まさか私がおかしいって言うの?」

「いや、言わない。もしも、リーリアが本気でそう望むのなら、俺は皆と生きていく。そんなのも悪くないかなって、そう思っていたんだ」

 それはレイの中の本心だった。リーリアの為なら、きっと世界だって捨てられる。それが、初めて会った頃から胸にあった想いだった。

 一生を引きずる後悔も、罪も、孤独も、背負っていけるとそう思っていた。

「お兄ちゃん…!そう!そうだよね!…お父さんもさ。薄情だよ。何で一緒にいようって言わないのかな?きっとお兄ちゃんのことを大切だって思ってないから。私が一番…」

「それは…違うよ!」

 大きく響いた声。立ち上がり、睨みつける。今度は倒れない。吹き飛ばされたりもしない。この世界で、ようやくリーリアは分かったのだ。

「何を…」

「ねえ私。それは、本当に自由なのかな?お兄ちゃんのことを縛り付けて、押し付けて、自分の弱さなんか見ない振りして、それが、本当に私の望みなの?」

「うるさい…うるさいうるさいうるさい!」

「ようやく分かった。お父さんは、お兄ちゃんを縛り付けたくなかったんだ。きっと引き止めれば止まってしまうって、そう分かってたから」

「そんなの!」

「だって!家族だから!この世界でお兄ちゃんが得たものを、失わせたくなかったから!」

「ぁ…」

 揺らぐ。先程まで荒れ狂っていた嵐は、迷うように、威力を失う。

「でも…それは不自由だよ。雁字搦めだよ。それじゃあ…何も…」

「そうだねそれが風の王ってことなんだと思う。けど、だから、強くなればいい。誰かがどんな決断をしても受け入れて、それでも自分の望みをかなえられるように」

 最後に、二人は向き合う。もはや立ち消えそうなかつての風の支配者からは、アルゼルフの本は消えうせ、その所有権はもう片方に移っていた。

「私は…お兄ちゃんについていくよ。そのために強くなる。だから、私に任せて」

「あぁ…」

 その言葉を最後に、救われたように世界に溶けた。消えたのではない。その感情は、想いは、彼女の中に戻っただけだった。


「ダメだったか。まあ、失望するべきなのだろうけれど、よかったとそう思ってしまう。心というのは中々に御しがたいものだね」

「はぁ…はぁ…くっそ…何だこいつ…」

「私達二人がかりの攻撃を耐え凌ぐとは」

 息も絶え絶えに、グレイスとバトウはハルバーを見る。

「そうだね。君たちは世界を揺らさず戦う王だからね。超常の力を以て押し潰されるのであればまずかったんだけど相性が悪かっただけさ」

 心を読み、揺さぶり行動を予測し誘う。一筋縄ではいかない彼の力に翻弄されていた。

 しかし並大抵の戦いではなかった。ハルバーにしても、ギリギリの戦いだっただろう。一挙手一投足に神経をとがらせ、押し寄せる刃と気迫に潰されないように。

(こいつを支えるものは一体何だ…?)

 何かある。必ず生き残らねばならぬと、戦わねばならぬと自らを奮い立たせる支えがあるのだとバトウは確信した。

「さてそろそろ頃合いか…」

 そうハルバーが呟いた時、虚空からレイとリーリアが姿を現した。

「その本は…」

 グレイスがリーリアの手元を見て、驚きの声を上げる。しかし、ハルバーがいることを鑑みてそれ以上を口にするのを止める。

「それでは」

「待って!」

「?」

 去ろうとしたハルバーに対して、声を上げたのはリーリアだった。恨み言を言う人間ではないと思っていたが、と肩をすくめて言葉を待った。

「ありがとう!」

 ハルバーは、唖然とした。しかし、自分にかけられたその言葉は皮肉の様な棘でしかなく、何も言わず、世界を去っていった。

「何故礼など…彼は君のことを利用していただけだというのに」

「はい、ですけど…彼は悪い人じゃないって、そう思うから。それに私は風の王ですから」

 素直に礼を言った。昔助けてもらった魔法使い。その姿を思い出しながら。

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